軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1202話 ベクリーヌ滞在⑱行脚の終わり

ヤクトは計画が失敗したら命を落とすような呪詛が仕掛けられていたと思われる。

あの黒いもやは瘴気だったのかも。

彼は嵌められたと言った。実際のところはわからないけど、命を落としているからその可能性は高い。

紫煙のアグロだっけ? そいつは実在していそうだ。なんでか知らないけど、ヤクトにやらせようとしていた。彼はアグロと敵対していて、もしかしたら評価はアグロより下で、常に上にいきたいと思っている人だったのかも。それで第一大陸の森を掌握できれば、彼の地位は高くなる。その手段となるドラゴンを思い通りに動かせる方法もわかっていた。

第一大陸の掌握。そして聞きかじったある少女のことは今までも耳にしてきた。上の者が躍起になり捕らえたがっていた。けれど理由は今回初めて知る。神の封印を解けるからだったのか……。

それが本当のことだかはわからない。ヤクトにやる気を出させるためのパワーワードだったのかもしれない。なんか凄そうな。っていうか、そう願うし、神の封印を解けるのがわたしってそれなんだよ、おかしいだろと思っている。ありえない。そう、ありえない!

残る人たちはバッカスの下っ端。寄せ集めらしく、フォルガード語もわからないものもいた。

残っていた城の騎士と、ヤクトの亡骸、それから下っ端の人たちを連れて城に戻った。

ルシオに謝られる。取り逃したと。自分を責めていた。

アカさんはわたしたちを送り出したその足で、逃亡しようとした。

それをルシオが止め戦いになったそうだ。

「私をなぜ見張る?」

「使節団長に言われました。あなたが諜報員だと」

アカさんは嫌な笑い方をしたそうだ。

「全くもって空恐ろしい。あの若さで、全てがわかったというのか。王は長く一緒にいてわからなかったというのに」

そう言った時は、悲しそうに見えたと。

アカさんは立てていた襟のボタンを外して首を見せた。

そこにはバッカスの花の刺青があった。

アカさんはバッカスだったの?

「どうして……」

ルシオが思わずそう呟いた時、アカさんは言った。

「私は私の意思でバッカスになりました。私は先代の王に可愛がってもらいました。彼の夢を叶えるのが私の使命と思っています。彼は子である現王と一緒に国を守ってくれ、と、カザエルであることは誰にも知れないようにと言いました。私はそれだけのために生きてきた。

けれど、神殿から脅迫されるようになりました。神殿には神殿で生きてきた人たちが書を残していた。グレナン民は虐殺され残りも散り散りになり、書物なども焼けましたが、神官は派遣された者たちでしたからね。独自に残していたその書を見つけ出し、そして脅迫してきたのです。

食べ物や金を渡すのはいい。けれど、あいつらは欲深くいずれ秘密を漏らすだろうことはわかっていました。だから、私がバッカスに依頼をしたのです」

ルシオは、彼は王にそれを伝えて欲しくて、自分に打ち明けているのだと思った。

「バッカスはどんな依頼でも受けると言いました。そして報酬は私がバッカス員となること。依頼を果たしたら、バッカスのために働くことでした。依頼は成立しました」

その時、泣いているのかと思ったそうだ。もちろん泣いてはいなかったけれど。

アカさんがした依頼はベクリーヌもカザエルと同じ民だという証拠を全て消し去ること。世界に知らされないこと、だったそうだ。

神殿からの要求が大きくなってきて、思い余って依頼したみたい。

時を同じくして使節団がやってくることになった。使節団が帰ってから、ことは起こるはずだった。

バッカスが魔の森の瘴気に目をつけ、ベクリーヌを乗っ取ろうとする。

神殿を襲い全ての証拠を消す。民たちも一時的に捕らえ、城と城の地下のカザエルの痕跡を破壊する。頃合いを見計らい瘴気を使ってバッカスに攻撃を仕掛ける。

バッカスは破壊をしたら依頼完了なのでもういない。

アカがひとりで敵が逃げたように工作し、自分もその戦いで傷ついて消えたように偽装するつもりだった。

それがまず、使節団の中に神官がいたため、神殿が閉鎖される。

そして同じ思いだと思っていた王の裏切り。

使節団にカザエルのことを話してしまった。

今まで必死に隠してきたことを、自分から暴露してしまった。

アカはそれに打ちのめされた。

そこで、シナリオの改変が打ち出された。

全ての証拠を一掃する。知ってしまった使節団もろとも一掃しなくてはならなくなった。

バッカスはドラゴンを使うと言った。

民も死ぬことになるだろう。無傷では庇いきれないと。

使節団を巻き込んで死なせるには、普通の戦いでは余計に怪しまれることになるからだ。

アカは異論を唱えられなかった。

二度とカザエル民であったと口にしたくならないよう、カザエルが非道なことを仕掛けてきたことにする。

ハッシュの両親はカザエルの意思を強く継いでいた。ただ子供であるハッシュにはカザエル民だと伝えていなかったことから、自分たちの代で諜報員として活動することを終わらせようとしていたのかもしれない。長い間、何もなかったから。それも本当のところはわからない。彼らは事故で亡くなってしまった。

そのハッシュの出生を使い「カザエルが攻めてくる、魔の森を自分たちのものにするため」と情報を流す。後からハッシュは自分が敵を引き込んだ自責の念に苛まれ、そのことを話すだろう。カザエルが攻めてきたと、人々はより疑わなくなる。それに巻き込まれて使節団員たちも死ぬはずだった。

ハッシュの口からドラゴンが攻めてくると先に使節団に伝わった時、アカは計画は失敗したと思った。使節団はドラゴンが攻めてくるとわかったら、国に帰ってしまう。それはそうだ。自分の命の方が大切だから。

でもそうはならなかった。王は使節団たちを帰したがったけれど、誰一人帰らなかった。それどころかドラゴンへの対策があると聞いて度肝を抜かれた。

最悪、使節団は自分がバッカスとなってから個別に消滅させていくしかないと思った。

計画は失敗する。そう思いバッカスと合流しようと思ったところ、自分をつけている者に気づいた。

使節団の若造は、自分のことも気づいていた。

決別の時、アカはそう悟った。

先代の王の墓に詫びに行きたかった。約束を守れそうにないと。

でもそれさえもできそうもないと、その時だけは後悔しているような表情だった。

王と自分はこれから道を違える。王に変に伝わるよりはと、使節団の者にアカは自分の思いを伝えた。

そして魔法とも呪術とも違う変わった何かを使う戦い方をして、ルシオに膝を折らせた。そして最後に言った。

「もし生きながらえたいなら、カザエルの秘密をさっさと世界に向けて伝えることですね。秘密が秘密でなくなったら、私があなたたちの息の根を止める意味はなくなりますから。

でも、あなたたちは気づいたことを神だかなんだかに知られたくないのですよね?

言わないのであれば、私もこれから行くところで話すつもりはありません。けれど、秘密とするのなら、いつか秘密が暴露される前に、私があなたたちの息の根を止めに行きます」

そう言って、アカさんは姿を消した。

世界議会から人が来て、捕らえた人たちの聴取をとったけど、下っ端でほぼ収穫なし。その後ドラゴンとの約束なので、下っ端の人たちはドラゴンが連れて行った。どうするつもりなのかは聞かなかったし、どうなったのかもわからない。

どんなつもりだったのかは知らないけど、子供でも知ってるあのドラゴンに自分から挑んでいったんだ。その意味は自分でもわかっていたことだろう。

王はアカさんの話を聞いて、立っていられなくて崩れ落ちた。気丈に王の役割を果たしていたけど、最後に客人だったから言えたんだろう。「国一番の宰相を失くしてしまった」と呟いた。そしたら兄さまが言ったんだよね。

「国を思う気持ちが強いものは他にもいっぱいいるんじゃないですか?」って。「アカ氏のように頭は切れないとしても、国と人を思う気持ちは強い者たちが」って。

うん。ハッシュさんを含んだあの4人組も、すっごい国を大切に思ってるよね。人のことも。

ああ、帰ってきてからあの4人組はちゃんと部屋から出しましたよ。

何が起こったのわからないって顔だった。

それはそうか。閉じ込められているうちに、バッカスがカザエルのフリして攻めてきていて、それは宰相アカのクーデターで、何が何だかわからないし、落ち込んだりもしたいけど、時は待ってくれない。生きていくには、顔を上げて歩いていくしかない。宰相がいなくなりやることは山積み。

でもその方がいいかもね。やることに追われている方が、まだ今はいいのかもしれない。

わたしたちは使節団としてこの国にきた。調印は結んだし、この国の危機はとりあえず脱した。国に干渉するのもおかしなことだし、わたしたちにできるのはここまでだ。やれることはもうない。

わたしたちは引き上げることにした。

王は辛いだろうにわたしたち一人一人に「感謝する」と手を取り頭を下げた。

もしわたしたちに何かあったときは駆けつけるから、と。瘴気のことが知りたいと言ったので、それらの研究結果の書物も貸してくれた。

後味が悪いものになったけれど……これで全ての大陸と友好を結べた。第三大陸においては、もともと大国フォルガードと友好国であるのでカットできた。

こうして長くかかった各大陸への友好行脚は終わった。