軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1138話 暴く⑮紫龍

「総攻撃せよ!」

陛下の言葉に、騎士たちが紫龍に向かっていく。

そんな、無茶だ。でも他にどうすればいい?

紫龍は目の前のわたしたちをロックオンしている。

騎士たちが一斉に剣を傾けたところで、口が開かれ炎が吹き出した。

その瞬間、わたしの胸から赤い光が飛び出して、障壁が展開する。皆を炎から守ってくれたのは真っ赤なルシェドラゴン、ホルクだ。

もちろん、もふさまも大きくなってわたしたちの前に立ちはだかっていた。

「ホルク!」

急に現れたドラゴンに、人々はみんな驚いている。

『リディア、今度は紫龍が相手か? 人は避難させろ』

「人は避難してください!」

わたしが声をあげると、その声で固まっていた人たちがわたしの方を見た。

ホルクが現れたことで、また警鐘が鳴り出して何を言ったかまではわからなかったのかもしれない。

陛下やロサからの指示が出て、みんながお城のどこかから入れる避難所へ向かい出した。

その時、ビタっとわたしの顔に何かが張り付く。

ぎゃーっと引き剥がすと、ブラックドラゴンの赤ちゃん!

なんで?と思っていると、向こうから一斉にパタパタと翼を使って、5頭の小さな赤ちゃんドラゴンたちが、わたしのドレスにひっついてきた。

「レオ?」

レオとアリとクイが小さな姿のまま現れる。

『リディアのピンチを察したようだ』

もふさまのリュックからアオも飛び出してきて、再会を喜んでいる。

えええっ。ちょっと嬉しいけど、そんな場合じゃないのよ。

紫龍から攻撃を受けているときに、赤ちゃんたちまできちゃったら!

紫龍とホルクが睨み合い、お互いが咆哮を上げた。人はそれに震え上がった。

けれど、赤ちゃんたちはケロリとしている。もちろん、アリやクイたちもだ。

『皆もっと下がれ!』

鋭く、もふさまが言った。

わたしはみんなに注意する。

避難しようと思っても、近距離でのドラゴンたちの戦いは迫力がありすぎて、ほとんどの人が腰を抜かし動けない状態だ。

その前に出て、少しでも守ろうとしているのが、うちの上や下の双子たちだ。

ダニエルもそっちに加わる。

ロサ、アダム、陛下は戦力として散らばり、ホルクを援護しようとしている。

そこにブライ、ジェイお兄さん、イザーク、騎士団長も前に出た。

魔法士長は陛下の隣で陛下を守っているようだ。神官長はもう少し後ろで後方支援。その横にルシオ。

騎士たち、ダニエル、うちの上と下の双子’sは皆を立たせようとしているけれど、夫人たちは完全に腰が抜けてる。第五夫人とフローリアさまがこちらにきていないのは僥倖だった。

騎士たちは皆を避難させようと四苦八苦。

『我は後ろを守ろう』

もふさまがそう呼びかけると、ホルクは微かに頷いた。

それが合図だったように、紫龍が短い手を振り、鋭い牙をホルクの肩に食い込ませた。赤い液体がびゅっと飛び散る。

ぎゃーーーー、それは痛いーーーーーーーっ。

「リディー、さっきの子守唄を歌ってみては?」

わたしの隣に立つ兄さまに言われる。もう戦闘しているから聞こえないと思うと言うと、兄さまは考え込む。

「リディー、傷ついたみんなを聖歌で癒したり、エリア結界を展開させるんだ。できるね?」

癒すのはできると思うけど、エリア結界は……それに王都の結界で効かなかったものがわたしの結界ごときでと反論しようと思った時には、兄さまは走り出していた。

気をつけてと言いそびれる。

でも、そうだ。効くかどうかはわからないけど、わたしのできることをしなくちゃ。

魔法の分厚いカーテンを展開して、そこに保護する歌を乗せる。

赤ちゃんたちはわたしの歌に合わせて身をゆすってる。

ホルクが振り払い、紫龍がすっとんだ。体勢を崩している紫龍にロサとアダムが魔法をぶっ放す。

陛下が駆け出す。どこからか出した剣を紫龍の肩に突き刺そうとしたけれど、それは刺さりもしなかった。硬い鱗みたいだ。尻尾が陛下を薙ぎ払う。

陛下が吹っ飛ばされた時、夫人たちは一斉に「陛下!」と声を上げた。

恐らく陛下の剣は魔法を乗せていた。それでも鱗には歯がたたない。

それがわかったからか、ブライは突っ込んで行く時に大声を上げた。

「ロサ、スマッシュ!」

ふたりの暗号だったのか、ロサはブライの剣めがけて魔法をぶっ放す。

目も眩むような光の乱反射。

「やった!」

誰かの声が聞こえた。

誰の剣も弾いていた鱗に小さな傷がついた。

紫龍は怒って、ブライを手で払おうとする。

その視界の前にちょろっとして妨害したのはブライお兄さん。

イザークも魔法で攻撃。

わたしはホルクの傷を癒した。

アリとクイが大きくなって魔法攻撃をしたけれど、薙ぎ払われる。

凄まじい雷の魔法も、氷の刃も一瞬動きを止められるぐらいで、効いてはいなかった。地面に叩きつけられたアリとクイに駆け寄って、光魔法。アオがそんなわたしたちの前に立って、魔法をぶっ放している。かなりの魔法攻撃を受けているのに、紫龍は堪えていないように見える。

レオが大きくなると、サイレンのようなものが大きく鳴った。

ホルクとレオで紫龍を挟さむ。

ホルクが雄叫びをあげると地面が揺れた。

ルシオと神官長さまが一心に祈っている。ホルクとレオの体が光った。何かの支援かな。

紫龍が吹いてくる炎を避けて、ホルクが紫龍の首を噛みに行った。レオは後ろから紫龍の背中を蹴り上げる。3頭が絡み合って倒れて、庭園の柵やら花壇やらから土埃が上がり、周りが見えなくなった。

隙をみて、ブライが、ジェイお兄さんが、騎士団長が。ロサが、アダムが、陛下が挑み、紫龍は疲弊していくのがみて取れる。イザークが魔法攻撃すると、さっきより効いている。紫龍の防御力が下がってるってことだ。

どれくらい戦っていたのか。わたしは魔法のカーテンの維持をしながら、聖歌で癒したり、光魔法を使ったりと後方支援に回った。

ちょこちょこと動き回り息切れが激しくなった時、爆発音に負けない通る声。

「紫龍! この通り、幼体は生きている!」

戦っている最中、紫龍の前で幼体を掲げているのは兄さまだ。

幼体の起こさないための保護ヴェールがなくなっている。

魔法士長にかけてもらったのを、また解いてもらってたんだ。

幼体は兄さまの手の上で、ギャッギャッとあまり可愛くない声をあげる。

声が届いた! 紫龍が顔をもたげる。

ギャッ

幼体より野太い成体の紫龍の鳴き声。

ギャッギャッ

ギャッ

ギャッギャッ

ギャッ

何度か呼び合うように鳴きあった。

紫龍はもうこちらに攻撃をしなかった。ちょっとよたつきながら兄さまの持ち上げる幼体に鼻を近づける。幼体がその鼻先によじ登っていく。

エリア回復を試みる。もちろん、傷ついた紫龍も含めて。

紫龍が翼を広げた。今まで戦っていたのに全く興味がなくなったように、空に飛びたつ。背中に幼体の紫龍を乗っけたまま。

みんなその場で座り込んだ。

『リディアよ、歌で傷を治すとはあっぱれだ。傷も塞がった、礼を言う』

「うーうん、こちらこそ、みんなを守ってくれてありがとう、ホルク。おかげで誰も怪我をしなかったわ」

ホルクは会話を切り上げ、魔法陣を描き出しその中から帰っていく。

紫龍とマルシェドラゴンとシードラゴン。3頭までは危険じゃないのかな? フレデリカさまはやってこなかった。あ、地上だからノックスさまの管轄? 地上の聖なる護り手であるもふさまがいたから?

マルシェドラゴンとシードラゴン対紫龍と敵対しているのは2つのグループだったから? 紫龍はドラゴンだけど、ドラゴンとカウントされないとか?

うーーむ、謎。

大きなレオは久しぶりだ。真っ青な恐竜型ドラゴン。

ツルツルの皮膚に抱きつく。

「レオ、ありがとう」

『紫龍はなかなか強かった』

赤ちゃんたちが騒いでる。戦った姿をかっこよかったとでもいうように。

アリやクイが本来の大きさになったのは久しぶりだ。体長は1メートルぐらいありそうだ。アリとクイにも抱きつく。

「怪我はない? ありがとね」

『怪我はしたけど、リーの歌で治った』

『もう痛くない!』

アリとクイにも赤ちゃんたちは大合唱だ。

「もふさま、ありがとう」

わたしのバリアにこっそり力を貸してくれていた。

だから、飛んできた色々なものから、避難し遅れた人たちを守ることができたのだ。わたしに当たりそうな何かも吹っ飛ばしてくれていたし。

『我は何もしていない』

鼻を上に向けてつんとしているけれど、尻尾が嬉しそうに地面を叩いている。

紫龍は言葉は通じないけど、成体が幼体を庇うような普通に同族に愛情がある種族なんだね。

それなら秘密基地で眠るあの幼体たちは、人の来ないようなところで起こせばいい。

鳴き声を聞きつけて、近くの紫龍がやってくるだろう。

「卵……卵がもう孵っていたの? それも懐いて……」

きつく捕縛されている第六夫人が、わたしに怒鳴りつける。言わなかったじゃないと言いたげに。

わたしはふぅと息をつく。

「あら。奥の手は最後まで隠しておいて、ここぞという時に出すものでしてよ?」

まだ出すつもりはなくて、出てきちゃったんだけどね。

陛下を意思を持って見ないようにしている第六夫人に言ってやる。

「卵の殻をお尻につけているひよっこでも考えつくことですわ。ひよっこの何倍も時を重ねている夫人ですもの、そんなこと言われるまでもなくご存じですわよね?」

にっこりと笑いかける。

第六夫人はわたしを睨みつけ、そして連れて行かれた。

夫人はやっぱり、陛下を見なかった。

「リディア先輩!」

走ってきたのはスタンガンくん。

「そ、それはドラゴンの赤ちゃんですか?」

「ええ、そうよ」

子供たちがそろそろと歩み寄ってくる。ドラゴンは畏怖の対象でもあり、憧れの対象でもある。しかもまだ赤ちゃんなのだ。

みんな目をキラキラさせてわたしにひっついていてる赤ちゃんを見ている。

赤ちゃんたちも、こんなにいっぱいの人を見るのは初めてだからか、興味深そうに見ている。

ふと振り返ると、いつの間にか、レオやアリ、クイは小さくなって、アオと一緒にもふさまの影に隠れている。

「リ、リディア先輩、夫人とのやりとりもめっちゃ怖かったし、戦ってる姿も凛々しいし! スッゲー、悪役みたいにかっこよかったです!」

あん? 悪役??

うっ、ま、でも。第六夫人にいっぱい嫌味ったらしくしていたから、そうといえばそうなんだけど。認めるけど。自覚あるけど。人から指摘されるとイラっとくるのはなんでなんだろう? 言ってるのがスタンガンくんだから?

「それに、リディア先輩、ドラゴンマスターだ!」

え? みんな、わたしに眉唾な視線で見ていたガラットーニくんやからかさちゃんまで、キラキラした瞳でわたしを見ている。

な、なんかとんでもない方向に持ち上げられそうだ。

「それ、物語の中の話だから!」

わたしは釘を刺しておいた。

ドラゴンマスターなる資格?だか、スキルだかはこの世に存在しない。

なぜならテイマーでもドラゴンは従わせられないというのが常識だからだ。

ただ有名な絵本の夢みたいな存在。ドラゴンを従えるヒーローの話で、彼はみんなからドラゴンマスターと呼ばれる。物語の中で!

「ドラゴンマスター!」

「ドラゴンマスターだ!」

「ドラゴンマスター!!」

子供たちが興奮してわたしに向かって、そんな言葉を繰り返す。

やめて、変な称号つけないで!

陛下の指示で、子供たち、夫人たちは王宮に入っていく。

わたしたちも少ししたら室までくるように言われた。

エリア回復は効いたはずだけど、みんな力が抜けてしまったかのように地面に座り込んでいた。

「〝ドラゴンの中で一番弱い〟が、あんな強いのかよ」

ブライがブーたれる。

「っていうか、これ、終焉案件じゃないんだよな? それでこれ?

終焉、どんだけなんだよ?」

イザークが絶望した声をあげた。

「歯が立たなかった」

ロサがいえば、アダムも。

「もっと強くならないと……」

『ダンジョン行こう!』

いつものメンバーだけになったからだろう、レオが跳ね上がる。

みんなの目がなんて言ったの?と言ってるから、通訳する。

「あ、ミラーの方にある例のダンジョンにか?」

ブライが元気になった。

『修行?』

『修行?』

アリとクイも嬉しそう。なんで?

『ドラゴンと戦えるぐらいには強くなっておかないとな!』

『修行なら、協力してやらんこともない』

レオともふさまの言葉を通訳すると、男の子たちは元気になる。

なんで修行が嬉しいのかはわからないけれど、確かにわたしたちはレベルアップしないとだ。

終焉にとても太刀打ちできない。でも……

「終焉前に気付けたことは、きっと意味があるはず」

「え?」

兄さまに反応されて、わたしは言葉を足した。

「終焉前に、今のままじゃとても終焉に太刀打ちできないとわかったことは、きっと意味があるって言ったの」

その言葉にみんなが頷いた。

「あのさ」

ロサがフランクに呼びかけてきて、わたしたちは揃ってロサを見た。

「最初は何も見えてなかった立太子妨害。王位継承権上位者の権利の剥奪。中には命を落としたものもでたかもしれないほど危険だった。けれど、みんなこうして無事だ。我が弟妹を守ってくれてありがとう」

座り込んだままだったけど、ロサは胸に手を当て、わたしたちに頭を下げた。

「顧みる試験はこれで終わりになるだろう。

みんなが私のためにしてくれたことは忘れない。特にブライ、君の名は何かの記憶に残り、これから悪く影響することもあるだろう。私を信じ、ここまでしてくれた。心から感謝する」

「当たり前だ。俺の主君なんだから」

そうブライが言うと、ロサは一瞬泣きそうになった。

「私は自分から王位継承権を手放す気はない。……けれど9年前のマハリス邸で母上たちのしたことは詳らかにするつもりだ」

「それによって、私の権利は剥奪されるかもしれない」

それにはなんて言っていいかわからなかった。

それを公表した結果、民衆がどう受け取って、どう思うかは、想像しきれない。それにロサに罪を被せたがる人がいるだろうことは、容易く想像できるから。

「難しいことはわからないけど、ロサはやりたいようにやれよ。俺はそんなロサだからついて行きたいって思うんだから」

ここにダニエルがいたら、ダニエルもうなずいたと思う。

ブライだけじゃなく、イザークもルシオも兄さまもわたしもうなずいた。もちろんアダムも。

それぞれの王子さまたちも素晴らしい方たちだった。正義感があり、度胸もある。自分に何ができるかを常に問いかけている。ロサが全てにおいて抜きん出ていると思うけど、マハリス邸のことはどんなダメージとなるかわからない。

なんとなくみんなで見上げた空は、いやに澄んだ水色だった。