軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第113話 名も無いダンジョン④ひよこ

攻略ノート通りなら、この階に魔物はいない。探索でもそう出ている。

ダンジョンに入る前は、ダンジョンに赤い点がいっぱいあったけど、入ったらタボさんがダンジョンをスキャンしたみたいだ。

一階には赤い点も青い点もない。わたしは緑、家族は黄色の5つの点。ひよこちゃんの6つの茶色の点。そしてもふさまとアオは白い点。

「迷いなく、歩くでちね」

「前マスターの攻略ノートを読ませてもらったからね」

兄さまがアオを振り返る。

「マスターの……」

「リディア、あれは何だか鑑定してくれ」

父さまが指を指したのは壁?

「壁、鑑定?」

「お嬢さま、あのあたりは色が少し違うでしょう。何かの鉱物かもしれません」

ケトル鉱石:鉄のように熱で形を変えることが可能。丈夫で軽くしなやかなものを作れる

結果を聞くと父さまは、アルノルトさんと頷き合っている。今は鉱物を採取する道具はないけれど、次は持ってくる気だな。

時々穂先の砂糖をもらって口に含みながら、しばらく歩いた。ノートに書かれていた通り、端っこに階段をみつけた。

慎重に降りていく。石造りの迷路のような通路が続く。幅は2メートルぐらいで、今まで開けたところにいたからか閉塞感を感じる。地下一階になると赤い点がまばらに出てきた。一度閉じて自分だけで見ていたマップをオープンする。

「すごい、これ探索でちか? 地図に探索を?」

アオに頷く。さっきは広範囲で地図を見ていたからわたしたちを示す点はないし、ただ真ん中に十字に線があっただけだったから、ただの地図だと思っていたようだ。

「マスター、大きなモニターで皆で見られるようにするでちか?」

「できるの?」

アオは頷く。

「お願い!」

みんなわたしのボードを覗き込むのは大変そうだったから願ったりだ。

わたしたちの前に透明の大きな画面が現れた。地図とリンクし赤い点も見える。

「アオ、スッゲー、ありがとう!」

「ありがとう、アオ」

みんなが口々にお礼を言うと、アオはちょっと不思議そうな顔をしていた。

『来たぞ!』

もふさまの声にみんな気を引き締める。

赤い点の動きと同じくして、前方から狼のような黒い獣が走ってきた。

クロアオーン:肉食。素早い。毛皮は水分をよく吸うので足拭きマットとして使われることが多い。集団で行動するため、見張りの1匹に見つかったら30匹が押し寄せてくる。

「素早い、これ見張り。あと30匹来る」

わたしはアオをギュッとした。

クロアオーン、狼っぽいけどとぼけた顔をしている。色の違う麻呂眉が余計にそう思わせるのかも。でも、よだれを垂らした口から覗く牙は立派で、噛み砕くの得意そう。

父さまが剣でひと払い。煙となって消えて黒い毛皮のようなものが落ちた。

「ドロップ?」

父さまが首を傾げる。わたし触ってないもんね。

赤い点がドワーっと増えた。あまり頭が良くないのか、みんなが一斉に通路に入ってきたので、ぎゅうぎゅうになり動けなくなっている。

30匹以上はいそうなのに、父さまより前にロビ兄が飛び出す。

「リー、見ててね」

ロビ兄が短剣を前に突き出したかと思うと、そのまま短剣で自分の前で大きく円を描いた。

「風の刃を受けてみろ! 風雷斬り!」

そういって、円の頂点に持っていった手をそこから雷のようにカクカクっと斜めに下ろした。同時に刃先から出た風がクロアオーン何匹かを煙にした。

す、すごいけど、見ている側は微妙にいたたまれない。中二病も真っ青だが、8歳なら中二病に届かず、年相応でいいのだろう。ヒーローとかに憧れる年齢だよね。かっこいい名前とかつけた魔法で、カッコよく立ち回ったりとか憧れる年頃だよね。

「リー、見た? カッコよかった?」

そう振り返ったロビ兄の手をひき、父さまが剣を振ってロビ兄に向かってきたクロアオーンをなぎ倒す。

「戦闘中に気を抜くな」

もふさまも参戦して、あっという間に黒い毛皮の山となった。

「ごめんなさい」

ロビ兄がしゅんとしてしまったので、声をかける。

「か、かっこよかったよ、ロビ兄」

ロビ兄ははちきれんばかりの笑顔になる。

「火炎双竜剣もあるんだ、次に見せてあげるね」

他にもあるんだ……。

毛皮は数えるのは面倒なのでバッグに入れるふりをして収納ポケットに入れていく。中に入れちゃえばリストアップしてくれるから数とか正確にわかるからね。

この階の魔物はそんなに手強くなかったはずだ。地下一階はおいしい湧き水と、フララグロという魔物のドロップする肉が目玉だ。攻略ノートには魔物の名前しか書かれていないので、どんな見かけなのかはわからない。わたしが知らない魔物なので〝逆探索〟もできない。

前には大きな透けている画面があって、普通ならわからないその先の危険がわかる。右の通路から赤い点が2つ、近づいてきている。わたしたちは顔を見合わせて頷き合った。息を殺してわたし以外は武器を握りしめ……

ひよ

もふさまから黄色い帽子が生えたかのようにひよこちゃんが顔を出した。

このタイミングで!

すると、呼びかけだったのかと思うくらい、一緒にいたことも忘れていた静かだったひよこちゃんが一斉にひよひよと鳴き出した。

ひよひよひ

ひよ?

ひーよ、ひ?

ひよよ

ひよよひよ

ひよひよひ?

何だかお喋りしているみたいに聞こえる。

それが聞こえたのか、赤い点の速度が上がった。もふさまが一歩前に出ると、ひよこが飛び降りた。コロンとコケたがそのまま、もふさまより前へ。

皮切りにみんなの肩やどこかにいたひよこちゃんたちが一斉に飛び降りて、やはりコケる。羽をバタバタさせながら立ち直り、ふるっと体を震わせて何事もなかったかのように、一羽の下に集結しようとする。

『お前たち、危険だ、戻れ』

もふさまの言ったことはわからないとしても、兄さまが一羽でもと掬い上げようとしたのに、その手を避ける。

「アオ、戻るよう言って」

「戦うって盛り上がってるでち」

え?

右通路からやってきたのはドデカシャクトリムシ! 目に痛いグリーンにピンクの水玉模様。シャクトリムシをよく知っているわけではないんだけど。その派手な芋虫がシャクトリムシと呼ばれる所以の独特な移動方法をとっていたので、シャクトリムシと呼ぶ。わたしの腰ぐらいの背丈だ。

父さまが剣を、もふさまが飛び込もうとしたが、ひよこちゃんがいるので二の足を踏む。

シャクトリムシが飛び上がった。攻撃ではなく、〝痛っ〟と言ったかのように。

ひよこちゃんがシャクトリムシの身体を嘴で突いている。

もう1匹はもふさまが足で押さえた。6羽はシャクトリムシをすごい勢いで突き倒し煙にした。そしてもふさまが足で押さえているシャクトリムシにターゲットを変更。散々突っつかれると煙となって消える。小さな瓶が落ちた。七色に輝く粉が入っている。

ひよこちゃんたちはそれぞれに飛び上がり、嬉しそうに見える。

「……父さま、コッコ 、魔物?」

「いや、違う……違うはずだぞ。だよな、アルノルト?」

「私もそう思っておりましたが、今のはコッコの雛が魔物を倒したということでよろしいんでしょうか?」

わたしたちがそんな会話をしていると、ロビ兄はひよこちゃんを掬い上げる。

「お前たち、すごいな。強いんだな!」

ひよひよ!

嬉しそうに鳴いている。

「アオ、ひよこちゃんなんて言ってる?」

「虫任せろって言ってるでち」

ああ、〝虫〟か。っていっても魔物だと思うんだけど。そういえば驚きすぎて鑑定していなかった。

シャクトリムシはいないので、落とした瓶を拾い鑑定する。

7の毒:7日間苦しむ毒。ナナトリムシが蝶になった鱗粉から取れる

毒だってさ。こんなキレイなのに。後ろでは父さまとアルノルトさんがひよこちゃんたちをどうするか話し合っていた。