軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1092話 駒にされた子供たち⑩ブライの主君

あああああああ、わたしのバカっ。

これはリノさまだって、気分が悪いだろう。

「まぁ、そう落ち込むなって。

アズと酒。その説明だけで理解でき、あの場を押さえることができたのはロサ殿下だけだ。判断として間違ってない。

これが他の令嬢がしたことなら、なぜロサ殿下を呼び出した?となっても、学園の生徒会長だから、馴染みがあったのでは?と深く考えられず、そこは気にされないところだ。

けれど、婚約者がいるのになぜかロサ殿下の側室になるんじゃと噂がでたリディア嬢だから、昨日の短時間でその噂が城中を駆け抜けた。おそらく今日でほぼ全貴族が知ることになるだろう」

聞きたくないけど、主語が気になる。

全貴族が何を知るっていうのよ。わたしが城でロサを呼び出した。

これがアウトなのはわかるけど……。

「……何を知るっていうのよ?」

「そりゃぁ、リディア嬢がロサに気があるって」

わたしはブライの前まで歩いていく。

「なんだよ?」

後ろを向いて、尻尾でぺちっ、だ。

ブライが小さく吹いた。

「怒ったのか?」

もう一回ぺちっとやる。

ブライは悪くない。わたしが撒いたタネだ。

「あんまり思いつめんな。何がよく転ぶかわからねーもんだからさ。

この噂が出回れば、敵は尻尾を出す、必ず」

そう言ってから、ブライは修正されたわたしの失踪案を話してくれた。

もふさまと並んで話を聞く。

「ブライはそれでいいの?」

「それでいいって?」

ブライは微かに首を傾げる。

「だから、これからエリンが乗り込んできてシュタイン家と何かあったように見せる。次にロサと話し、ロサから今後距離を置かれる。

ウチは今日一日わたしの捜索をし、そのあとはわたしの体調が悪く家に篭っていることとする。

世間はわたしに何かあったんだと思うだろうけど、ほとんどが体調が悪くなったのかと思う。

王宮とわたしを襲撃した人たちだけが、わたしが実は行方不明なんだと思い込む。そしてそれについてブライが何か知ってるとも。

ブライだけが評判を落として損をする」

「うーーん、そうか?」

机の椅子を反対にしてベッドのほうに向けて座ったブライは後ろの机に両肘をついて、椅子の足をひとつ浮かせてバランスをとっている。

「俺はさ、頭悪いから。あいつらの考えたことを遂行するのみだ!」

ニカっと笑う。

ブライはA組。赤点がどうとかも聞いたことがない。策士には向かないかもしれないけれど、戦闘においてやっぱり頭は使うから、彼はもちろん頭は悪くない。

「評判落として……、ブライは騎士になりたんじゃないの?」

ブレーンたちが評判を落とさせたままにするわけはないだろうけど、何かあるごとに顔を出すのが悪い噂だ。大昔のことでも、悪いモノは消えないものだ。後をひく。

「んーー、俺は。ガキの時は父上、兄上、騎士の兄貴たちみんなかっこよくて尊敬してるから、俺もなるんだって思ってたんだけどさ」

ブライは指で頬をかく。

「なんつーか、俺は国に仕えるって、大きすぎてよくわからなくなるんだ。だから俺はロサ殿下に仕えたい。殿下の側にいるには近衛騎士になるしかなくて、だから騎士にはなりたいけど」

「近衛騎士? 騎士団長じゃないの?」

「ん? 騎士団長には兄貴がなるだろうから」

あ、なるほど。

「小さい頃、馬商人の子供と仲良くなってさ、馬で出かけたんだ。そこでいざこざが起こった。俺は貴族だったから、安全なところに匿われてそいつはボコボコにされて。

ちょうどその時視察で殿下が来てて、泣きついた。俺の話を聞いてくれた。悪いのなら俺も一緒だし、悪くないならその子供も悪くないんだって。

殿下は最後まで話を聞いてから、大人と対等に話をした。王子殿下だから耳を傾けたところはあったにせよ、そいつを解放させ、慰謝料もぎ取って解決できたのは、幼くても筋が通っていて、法律を知っていて、その解決法が正しかったからだ。

何度か顔を合わせていて、いい奴だとは思ってたけど、あん時すごい奴だって思った。その後もダニエルと組ませるともっとすごいこと考えついてさ。

俺は理解が追いつかないけど、でも任せられると思ったんだ。俺は動いている方が性に合ってる。あいつらは頭を使う。俺は遂行する。

今までそうしてきて間違ったことはないし。俺はこれからもそうしていきたいんだ」

真っ直ぐな瞳。

そうか、ブライはロサを主と決めているんだね。

「なんだよ、まだ心配か? 俺はリディア嬢に何かあるより、俺に向かってきてくれる方がずっといい。他のやつも同じ考えだ」

そりゃブライの方が、わたしより反応早いし強いけどさ。

「それでも気になるなら、リディア嬢はリディア嬢にしかできないことをしてくれ」

わたしのすることとは……。体調が悪いと雲隠れして、ドラゴンの幼体や卵の面倒をみること。正しくはレオやもふもふ軍団、それからもふさまで幼体や卵のことで何かわからないかヒアリングする役目を仰せつかった。もふもふ軍団が主役でわたしは聞くだけなんだけどね。

場所はアダムの秘密基地が選ばれた。あそこは遮断された空間だし、魔力が暴走したり、内側の衝撃にも強く作られたところだから。

幼体は眠らせたまま、卵と一緒に早々に秘密基地に運ばれたようだ。

銀龍に気配をたどられ国を破壊されるとまずいから。

ブライも評判を落としてでも、この件を早く解決したいんだろう。

わたしもそうだ。学園を休むのも勘弁だ。テストが差し迫っているし。

あ、そっか。彼らが一気に畳み込みたいわけ。

テストの後は年度末の実力試験があり、それが終われば在校生は終業式。5年生は卒業式だ。卒業する前に片づけたいに違いない。

ここまで決まってるんだ。ぐだぐだ悩んでないで、後はやり切るしかない!

そう決意した時、よく知ってる声が演習場の方から聞こえてきた。

「ブライ兄さま、出てきて!

あたし、エトワール・シュタインが決闘を申し込むわ!」

外から聞こえてくるエリンの声。

「おいでなすったか」

ブライは景気づけなのか、自分の気持ちを鼓舞するためか膝を叩く。

「じゃあ、行ってくるわ」

「もふさま、わたしも行きたい!」

もふさまはわたしを背中に乗せてブライの後をついていく。

窓から見えた演習場だ。

世間さまにはわたしは家に篭っているというけれど、本当はそうじゃないというカラーを出すためにエリンがブライの家で暴れる。そうは聞いたけど、決闘するの?

エリンは堂々と口上を述べた。

「ブライ兄さま、強いと思っていたのに、女ひとりも守れないなんて聞いて呆れるわ!」

名前を出さずにわたしを匂わせる、成功しているかもしれないけど、ブライが気の毒すぎる。

「あたしと勝負して!」

「いいだろう」

ブライが木刀を持つ。

「真剣で勝負よ」

エリンってば。

瞳の奥に冷たい青い炎が見えた気がした。