軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1089話 駒にされた子供たち⑦続・再び

ウチの馬車がいるって言ったんだけど、問答無用で中に押し込められる。

ガーシたちには伝言しとくと言われる。

「何があったんだよ?」

馬車に乗った途端、待ちきれないといった具合にブライに尋ねられる。

「何があったってありすぎなんだけど、何から聞きたい?」

もふさまはわたしの横でふて寝ポーズ。

ウチの馬車よりバウンドがすごいけど、もふさまは体勢を崩さない、さすがだ。

「リディア嬢の顔色が悪いのと、ロサ殿下があんなにカリカリしてたのはなんで?」

「悪夢再び、よ」

「悪夢再び?」

「アガサさまに招待してもらって第三夫人、コリン殿下、第六夫人とお茶をしたの。そこに出てきたのがお酒入りの琥珀湯とアズ入りのケーキだった」

ブライの顔が青ざめる。

「誰も食べてないんだよな?」

胸ぐらを掴む勢いで確認してくる。

「鑑定してわかったから、誰にも食べさせてないわ」

ふーっとブライは長い息をつく。

「これはリディア嬢がいたから免れたことだな、まじで」

ブライはしみじみと言った。

鑑定した時、あの悪夢が蘇って目の前が暗くなりかけた。

次にこれを誰にも口に入れさせちゃいけないって思って、気ばかりが焦った。

組み合わせが悪いからと本当のことをいうこともできたけど、アズは見た感じではわからないところに入っていたんだよね。なんで入ってるってわかる?ということになる。それにお酒につけて乾燥させたアズが再びお酒と出会うと膨れるのは聞いたけど、たとえば生のアズを使った場合ならどうなのかは知らない。

誰を狙った? 誰が? ここで気づいたことを暴露してもいいことはない気がする。

愛想笑いを浮かべる余裕もなかったから、気分が悪くなったのを信じてもらえたようで、皆さまをテーブルから離すことができた。

わたしだとどうするのが一番いいかわからなかったから、それができそうなロサを呼んでもらった。

ロサは危険物を排除し、お酒に弱いもっともらしい言い訳を作ってくれて、わたしを退場させた。

「例の件は極秘にされ、箝口令が敷かれた。それでも、酒とアズが別々に出されても腹の中であわさりゃ同じ効果があるって発表しとくべきだったな」

そうね、あのときそんな偶然が起こることを願った人は、不発だったかと思っていたに違いない。あ、でもその人が未だ存在しているかはわからないから、新たに考えついた人がいたのかはわからないけど。

「それ以外にも何があった?」

「まず、お城に向かう時、馬車でおっかけられた。アルノルトが誰の仕業か吐かせていると思う」

「アルノルトって執事だよな、あのおっかない」

「おっかない?」

「フランツの招待で王都のシュタイン家に泊まらせてもらったことがある。それでよく執事に怒られてさ」

あの温厚なアルノルトを怒らせたの?

その話の方がよっぽど興味深いんだけど。

「それから?」

「第四夫人はわたしが王宮で誰と会うか探ってきた。

リノさまのお見舞いとは思ってなかったみたい。

リノさまのお見舞いって言ったから、頭の中でいろいろ思いを巡らせている感じだった」

「つまり、ガラットーニと第四夫人が繋がってて、馬車の襲撃はスタンガンか。ふたりは決定っぽいな」

ブライは腕を組んでいた。

あれ?

「ブライ、道が違うようだけど?」

「ああ、もうわかっちまったか」

「どこ行くの?」

「俺はそこまでする必要あるかって思ってたんだけど、あいつらの考えが正しいみたいだな」

「どういうこと?」

「リディア嬢は失踪するんだ」

は?

「何言ってんの?」

「これからこの馬車は襲われて、リディア嬢は行方不明になる」

へ?

ブライが雰囲気を出すから、頭の中に「裏切り者」と言うテロップが流れる。

「卒業前から正式な騎士に引けを取らない噂のブライと、お遣いさまがいるのに、行方不明になれるものなの?」

わたしが不安に思ったからか、伏せていたもふさまが頭を起こす。

「俺が裏切り者なら、可能だろう?」

馬車が速度をあげた。

「ど、どういうこと?」

「言っとくけど、俺の案じゃないからな。お前、かなり危険みたいだからさ。お前がいなくなるのが相手も焦るだろうって。知ってるのは少数だし、実行するのは迷っていたけど、やっぱりリディア嬢が危険だと判断したみたいだ」

ちょとよくわからないんだけど。

「体が辛いのは知ってるけど、トカゲに 変化(へんげ) してくれ。それでお遣いさまに乗って見ていてくれ」

『リディア、囲まれている』

馬車は走っているから、馬に乗った人たちに囲まれているってことだろう。

「後でちゃんと話聞かせてよね。それから服はまとめてそのまま袋にでも突っ込んで。いい、下着とか見ないでよね!」

ブライはカッと顔を赤くする。

「そ、そんなの見ねーよ。借りてる収納袋にまとめて入れとくから心配すんな」

ガタンと急に馬車が止まる。前へと転がりそうになったのを、ブライが止めてくれた。時間はないみたいだ。

急にいなくなったら家族や友達を心配させる。そこらへん、どうしてくれるわけと思いながら、目をつむる。

今は集中。

トカゲ化するの!

トカゲ、トカゲ、トカゲ、トカゲ、トカゲ、トカゲ、トカゲ、トカゲ、トカゲ、トカゲ、トカゲ、トカゲ、トカゲ、トカゲ、トカゲ、トカゲ、トカゲ、トカゲ……。

目を瞑っていても視界が赤く染まる。

痛みに耐えようとどうしても体に力を込めてしまう。

体が軋む。痛い、気持ち悪い。目が回る。ううううううっ。

やっぱり、布のアーチの中。

「もふさま!」

外に出られそうな穴が見つけられなくてヘルプを出すと、もふさまの鼻が入ってきた。その上によじ登る。

もふさまが器用に顔を動かして、布の中から出ることができた。

その服を思いっきりぐるぐるとまとめ袋に入れるブライ。

「お遣いさま、リディア嬢を頼みます。俺たちもリディア嬢がいなくなり慌てているていで」

と、ブライはシートで変な態勢をとり気を失ったようなフリをする。それを見て、もふさまも寝ているフリをした。

わたしはもふさまの首にしがみつき、目が閉じそうなのを堪えた。

乱暴に馬車のドアが開く。

剣を掲げながら目から下を布で覆っている男が入ってきた。

座席を隅から隅まで確かめ、外に向かって声をかける。

「気を失った男と犬しかいません」

「なんだと?」