軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1088話 駒にされた子供たち⑥再び

「リディアさま、お茶がすっかり冷めてしまいましたね。新しいのを用意して」

第三夫人がメイドさんに声をかける。

お茶にほぼ手をつけてなかったからだろう。

お腹がタポタポなんだと言いそびれた。

なんとなく第六夫人からの視線を感じて、そちらを見ると、めちゃくちゃキラキラした目を向けられていた。

え。

「シュタイン嬢、もしお会いできることがあったら、お尋ねしたいことがありましたの。不躾ながら、〝神獣〟さまのことを少しお聞きしてもいいですか?」

その言葉にアガサさまとコリン殿下の目もキラキラしたものになる。

「あ、はい。答えられることは限られますが」

王族には言っても大丈夫だろうけど、嘘が散りばめられているからなー、わたしの情報には。一応牽制しておく。

「シュタイン嬢がお会いした神獣さまはどんなお姿でしたの?」

第三夫人も抑えているけれど、興味深く思ってそうだ。

「わたしがお会いしたのは火を纏ったツノの生えた馬のようなお姿の方と、真っ白な小鳥のようなお姿の方です」

「まぁ、ツノが生えた馬のような……火を纏っている……」

「真っ白の小鳥の神獣さま……」

「では、聖獣さまはどんなお姿でした?」

コリン殿下が身を乗り出す。

もふさまの姿を言ってしまうと、お遣いさまだったり、もふさまの正体がバレてしまいそうだからなー。

「詳しく言うことはできませんが、とても神秘的で堂々としたお姿でした」

もふさまが少し鼻を高くした。

「リディア姉さまは触れたことはあるのですが?」

「ええ」

アガサ王女とコリン殿下から歓声が上がる。

何ならお風呂でシャンプーしてるよ。

「シュタイン嬢はどのようにして聖獣さまと会ったのですか?」

第六夫人の瞳はハシバミ色だった。黄色味が強くて、なんだか不思議な気がした。

「……聖獣さまの領域で迷子になり、助けてもらいました」

「まぁ、聖獣さまが助けてくださったなんて素敵!」

「シュタイン領の奥の山は聖域ですものね」

「シュタイン領?」

「あ、迷子と聞いて小さい頃かと思ったので、領地でのことかと思いましたが、違いましたか?」

「いえ、その通りです」

第六夫人に答えたそのタイミングで、お茶とお菓子が配られる。ケーキと琥珀湯だ。

「リディア姉さま、このお茶ぜひ、お飲みになって。苦いけど癖になるの」

アガサさまが嬉しそうにおっしゃるけど、わたしは鑑定をかけて血の気が引いた。

「リ、リディア姉さま、真っ青よ。ご気分が悪いのですか?」

口を押さえる手が震える。

『リディア、どうした?』

具合が悪いとしておけば、少しは時間が稼げる。でもこの場を収拾できるのは……。

「す、すみません、急に気分が。お水をいただけますか?」

コリン殿下がメイドさんから受け取った水を、大急ぎでわたしの元へ。

わたしは小さい声で告げた。

「至急ロサを連れてきてください」

コリン殿下は目を大きくしたけど、すぐに行動に移してくれた。

「少し失礼します」

と部屋を出ていった。

「コリンは医師を呼びにいったのかしら? リディアさま、ソファーに座られますか?」

「すみません、そうさせていただきます」

声が消え入りそうになる。

立ち上がろうとすると足がガクッとした。

第六夫人、第三夫人、メイドさんが一斉に手を差し伸べてくれて、なんとかソファーまで。

みんなをテーブルから離すことができた。

ロサが来るまで、なんとか皆を引き留めなければ。

ノックもなく、バンと扉が開く。

颯爽と現れたのはロサで、その後をコリン殿下が走って入ってきた。額には汗を浮かべている。

ロサは夫人たちに形だけ謝ってから、ソファーでぐったりした演技をしているわたしに跪く。

「リディア嬢、具合が悪いようですね」

わたしは小さな声で告げる。

「琥珀湯にはお酒、ケーキにはアズが使われてます」

ロサはキッとテーブルに目をやった。

そしてスタスタと歩いて行き、テーブルの上を凝視する。

「ロサさま、どうされたのですか? お茶に何か?」

第三夫人が不安げに尋ねた。

ロサはくるっと振り向く。笑顔だった。

「リディア嬢は酒が大の苦手で、琥珀湯に入っている少量の酒の匂いで酔ってしまわれたのでしょう。テーブルの上を片付けなさい」

ロサがメイドに指示を出し、夫人たちに「新しく用意させます」と言った。

「リディアさま、申し訳ありません。お酒に弱いと知らずに」

わたしは首を横に振った。具合が悪いのは演技のはずなのに、言葉を発するのが難しかった。

ロサは一緒についてきた側近に何か指示を出している。

よかった、ロサが来てくれて。もう大丈夫だ。

どんな状態のアズをケーキに使ったのかはわからないけど、一度お酒につけて乾燥させたものを使ったのなら、琥珀湯のお酒とそれがお腹と出会えば大変なことになる。命を落とす。

第三夫人、コリン殿下、アガサ王女、第六夫人、わたし。気づかなかったら誰かが命を落としたかもしれないし、複数、最悪は全員アウトだったかもしれない。

ロサがいつの間にかわたしの前に来ていて、手を握られて気づく。

「大丈夫か?」

ロサの目を見ているうちに落ち着いてきた。

静かに息を吐く。

「もう、大丈夫です。すみません、お騒がせいたしました」

ロサが立ち上がるのを手伝ってくれた。

「といっても、まだ顔色が悪い。送っていこう」

「いえ、大丈夫です」

ロサはこの件で調べたりするだろうから、わたしのことで時間を割くのは気がひけた。

「それなら、代わりの者に送らせよう」

お願いしますを含んで、軽くうなずき、皆さまに謝罪をする。

「楽しいお時間に水を差して申し訳ありません。後日、謝罪に参ります」

「そんなこと気にしなくていいのよ。ごめんなさいね。気分を悪くさせて」

「いえ、とんでもない」

アガサさまとコリン殿下の心配そうな顔にも手を胸に当て頭を下げ、第六夫人にも頭を下げる。

「またの機会を楽しみにしていますわ」

第六夫人も心配そうにしながらも、そう言ってくれた。

ロサはコリン殿下にこそっと何かを言って、わたしを連れて廊下へ出る。

「馬車まで歩けそうか?」

ロサに尋ねられて、わたしはうなずいた。

前から来たのはブライだ。

ブライはスッと胸に手を当て、ロサに頭を下げる。

「殿下、お呼びですか?」

「リディア嬢を家まで安全に送り届けてくれ」

「承知いたしました」

「君の機転に感謝する」

ロサが小さく言って踵を返した。

「リディア嬢、こちらへ」

わたしはブライに警護されながら、馬車乗り場へ急いだ。