軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1087話 駒にされた子供たち⑤賢妻

なんかお腹がタポタポだ。行く先々でお茶をいただいていたから……。

リノさまの部屋を後にして、メイドさんについていくと、妃殿下のお部屋だった。

リノさまを心配していらして、様子はどうだったと、待ち構えていらっしゃったのだ。リノさまのこと、これからの計画のことなど、誘導されるままにいくつか話してしまった気がする。

おいしい紅茶とマカロンをいただいた。

そして妃殿下の部屋をお暇すると、待ち構えていたのはアガサさま。

アガサさまに連れられて部屋へと入れば、そこには第四王子のコリン殿下、ふたりの母上である第三夫人、そして第六夫人がいらした。

少し苦味のあるお茶とお菓子をいただく。

顔を合わせたことは何度かあるけれど、第六夫人とお話するのは初めて。

すっきりした美人であまり着飾っていない。装飾品も抑えている。もちろん物は一級品だけど。

アガサさまがピアノ演奏を披露してくださる。

王女殿下の演奏がバックミュージックなんて、めっちゃ贅沢!

アガサさまの解釈の演奏はとても素敵だった。音の強弱とリズムの取り方で、ひとつの物語を音で奏でているみたい。目を瞑ってその感覚を楽しむ。

わたしは盛大に拍手をした。

「いかがでした? リディア姉さま」

「ひとつの物語みたいに聞こえて、とても素敵でした」

わたしの感想に嬉しそうに笑う。

「シュタイン嬢は、楽器は何を嗜まれているのですか?」

第六夫人に水を向けられる。

「恥ずかしながら何もできなくて」

「あら、シュタイン領で〝こんさーと〟を開かれたと聞きましたわ。ハープを弾きながら歌を歌われたと……」

なんでそんな情報が!

「あ、あれは身内だけの集まりでしたので、弾けてないのにみんな楽しんでくれました」

苦笑いになる。

「聞いてみたいですわ」

第六夫人がニコッと笑う。それを受けて、コリン王子がすっと立ち上がる。

「ハープを用意させましょう」

嘘、待って。わたしの演奏、わざわざ用意してもらったり、王族に聞いてもらえるようなものではないから。

『ほう、我はいつもの曲がよい』

いや、もふさま、そうじゃないのよ。目で訴えたけど、もふさまは首を傾げる。

「すみません、そんなお手を煩わせるような腕ではないので」

とやんわり断ると、皆さましゅんとなった。

「それでは弾き語りしていたというお歌を歌っていただくのは?」

第六夫人とアガサさまからキラキラした熱視線。

王宮は娯楽が少ないのか!?

歌うなんて、ハープ演奏より難易度が上がった。

歌うぐらいなら……。

「歌もお聞かせできるようなものでありませんので……、拙いですがピアノをお借りしても?」

どうしたってわたしの〝腕〟はないから、皆さまの知らない曲で。

もふさまの好きなプレリュードを披露する。

時を編み込んでいくような調べ。弾いているのは自分なのに、その音の連なりに誘い込まれそうになる。

心が静かになり、やがて感覚が研ぎ澄まされていく。

この曲は不思議が詰まっている。

余韻を残して終わらせると、熱烈で温かい拍手をいただいた。

王族にピアノ演奏をしてしまった。王宮怖い、何が起こるかわからん!

「姉さまはピアノもお上手ですね。今度わたくしと連弾してください!」

えっ。

「僕もバイオリンで参加してもいいかい?」

「あ、それならリディア姉さまはハープ。わたくしがピアノでお兄さまはバイオリンで!」

「曲は何にする?」

「お母さまの好きな雨のワルツはいかが?」

「どうでしょう? リディア嬢」

雨のワルツならなんとか弾けそうだ。キートン夫人のところでハープを練習させてもらわなきゃ。

「はい、光栄です」 それ以外言いようがない。

「キャスリンさま、アガサさま、コリンさま。そしてシュタイン嬢、その時は私も招待してくださいますか?」

第六夫人は胸に手をやって丁寧に皆さまにお願いする。

とても柔らかく優しい微笑み。

「お兄さま、リディア姉さま、よろしいですわよね?」

アガサさまがわたしたちに確認する。

「ええ、ぜひ」

コリン殿下は胸に手を当て、第六夫人にきちっと礼をした。

「あ、そうだわ! 陛下にも聞いていただくのはいかがですか?」

ええ? 何言ってんのっ。

話がどんどん大きくなる、それはやめてー。

アガサ王女とコリン殿下は目が輝いた。

陛下であるけどお父さんだ。聞いてもらいたい、そういう団らんを願う気持ちもあったと思う。でも控えめながらもそれを止めたのは第三夫人だった。

「陛下はお忙しいですし、これは私たちだけのお茶会でにしましょう。

私たちは王族だけれど、リディアさまは違います。

王族の婚約者でもないのだから、そんなことをしては悪目立ちをしてしまいますわ。リディアさま、お気を悪くしないでくださいませ」

「とんでもない、ご配慮ありがとうございます」

第三夫人はわたしのことを心配してくれたんだ。第二殿下の婚約者を置いて、他の王族と仲がいいみたいのを公けにするようなことだからね。

この流れでわたしから断ることはできない。

そしてそれが実現されていたら……。

こういうのは確か第三夫人が妃殿下にこういう会を開いてもいいですか?と尋ねてオッケーが出たら踏み出せること。

それを飛び越えて、陛下を呼んでの演奏会をしていたら、妃殿下も気分が悪いだろうし、成り行きを話せばわかってもらえても、リノさまもちょっと爪弾きされているような気分になったかもしれない。

第三夫人はお子さまたちにも、王族の中で生きながらえるコツを教えていらっしゃってもいる。第三夫人もさすが、素敵な方だわ。

「私が浅はかでしたわ、キャスリンさま。差し出がましいことを申し上げました。王女殿下、王子殿下、そしてシュタイン嬢、お許しください」

すごいな第六夫人。身分の高い方は謝ることを嫌うものなのに。

「そんな、僕たちが勝手にはしゃいでいたのです。謝らないでください」

代表して言ってくれたコリン殿下の後ろで、その通りですと視線を送っておく。

第六夫人はコリン殿下の手をとった。

「王子殿下も王女殿下もお優しい、ありがとうございます」

とにっこり微笑んだ。コリン殿下が少し顔を赤くしている。

その様子をあたたかく見守る第三夫人。

わたしはただその光景を見ていた。