軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1057話 放課後の影絵⑮王都の家へ

揺れてる?

ん、えっと。

ぼんやりした視界がはっきりとしてくる。すぐ上に兄さまの端正な顔があった。

「リディー、気がついた?」

『リディアよ、起きたか』

『リー、大丈夫?』

声のした方を見やれば、対面にはもふさまとアリがお座りしていた。

馬車の中だった。カーテンのひかれた小窓からこぼれてくる光は茜色。優しく差し込んでいる。

「ありがとう。えーと、わたし。あ、降りるね」

兄さまに抱っこしてもらっていたようだ。

降りると宣言すれば、ギュッとわたしを抱く手に力が入る。

「リディー、動かないで。今王都の家に向かってるところだ、母さまが手伝ってくれるから、それまで動かないでいようね」

『覚えているか? トカゲとなったリディアをフランツのところに連れて行った。気力を使い果たしたのか、リュックの中で気絶していた。

フランツにわけを話して、休ませてもらっていたが、朝になると人型に戻っていた』

あ、思い出した。

「ひとりで戻れるようになったの? それとも……」

兄さまの声が尻つぼみになる。

「ごめん、バランスを崩して……」

兄さまの顔が朱に染まった。

「トカゲのリディーといたはずなのに、起きたら、リ、リディーが目の前にいて驚いたよ」

そりゃ驚くよね。

兄さまはいろいろ察して手を打ってくれた。

父さまには事実を。学園と寮には父さまから連絡を入れてもらったようだ。わたしが夜中に体調を崩し、お遣いさまが家へと連れて行き、具合が悪いので今日も学園を休ませると。双子兄やアダムたちにも兄さまから、わたしが眠ってしまったため話せていないのでよくわかっていないが、学園は休むと連絡してくれている。

婚約しているとはいえ、王都に一応家があるのに、兄さまのところに行ったのは褒められることではない。体裁を整えるため、寝息が落ち着いてきたわたしを家に運んでくれているところだった。

兄さまはもうすぐバイエルン侯爵家を出るけれど、生家には違いない。

兄さまの生家でわたし、評判悪いだろうな。あんまり回数は行ってないのに、行った時には必ず問題を起こしている。窓が割れたり、お屋敷半壊したり。夜中に具合が悪いからとお遣いさまに乗って入っていったり。その上、仕事を休ませ看病させ、家まで送り届けさせ。わたしだったらそんなはた迷惑な女やめとけって言うよ。

「兄さま、迷惑かけてごめんなさい」

「驚いたけど、迷惑だなんて思ってないよ。それより、何があったんだい?」

「寝ようとしたら、トカゲ化したの。精神体が攻撃されたから、変化の尻尾きりで回避するって」

「ということは変化して、精神体の攻撃から回避できたってことだね、よかった」

こんな迷惑をかけられたのに、兄さまはよかったと言ってくれる。

「精神体を攻撃って、何か思い出せる?」

わたしは首を横に振った。

馬車が唐突に止まり、兄さまはわたしを抱っこしたまま馬車を降りる。

よく見るとあれ、これ毛布に包まれてる?

アルノルトが開けているドアにスッと入る。

中には母さまとハンナ、そして父さまがいた。

挨拶はほぼなし。

「さぁ、こちらに」

とハンナが先導してくれて、わたしは一階にある客間のベッドへとゴロンとおろされた。

兄さまはわたしたちに一礼して部屋を出ていく。

「リディー、大丈夫? 体は痛くない?」

「自分で体を動かせますか?」

ふたりともしっぽ切り後、人型に戻った時の疲労が半端ないことを知っているから、心配そうに聞いた。

わたしは足と手を順番にすこーし動かして、だるいけれど動かせると告げた。

ふたりがかりで、とにかくいっぱいの布に包まれたわたしを起こしてくた。

一枚ずつ布を剥がしていけば、最後は毛布。

結局兄さまの毛布を奪ってしまったのね。

ふたりが用意してくれた服に着替えた。

やっぱり疲労感はすごくて、着替えただけで一度座りこむ。

「おやすみになられますか?」

「うーうん、ちょっと休めば大丈夫よ。みんなに説明したいし」

と口にすれば、ふたりは頷いてくれた。

少し休んでから、そろりそろりと移動を始めると、部屋の前で伏せていたもふさまが顔をあげる。アリが上にへばりついていた。

「待っていてくれたのね、ありがとう」

わたしがそういうと声が聞こえたみたいで、父さまと兄さまが居間から顔を出す。ふたりに両方から支えられて居間に入ろうとして、廊下に飾られた素朴な花を見て足が止まる。

一輪挿し用の花瓶。キートン夫人のお屋敷に初めて行った時に憧れて、所々壁に花瓶を装着できるようにしている。

花を飾ってくれているのはいつものことだけど……、とても素朴な野の花だった。お花屋さんで買ってくるようなものではない。

わたしは王都の家以外でも見た。

寮だ。寮のコップを花瓶代わりに飾られていた、やっぱりこういった野の花が。

「アルノルト、この花、どうしたの?」

思ったより大きな声で問いただしていた。

「そちらは、午前中、ヘリに市場まで使いを頼みました。そこで皆に小さな花束を配っていたとかで受け取ってしまったと言っていました。お嬢さまは花がお好きでいらっしゃるので、素朴な花だけど飾るといっていたのですが……この花が何か?」

「ごめんなさい。過敏になってしまったんだと思う。けれど、寮にもこれに似た素朴な花が飾られていたのを思い出して」

父さまが花瓶から花を抜き取る。匂いを嗅いで、そこにもふさまとアリも加わって匂いを嗅いでいる。

「なんともないとは思うが、処分しよう」

父さまがゴミ箱を目で探すとアルノルトが受け取った。

「貸して」

それを兄さまが取り上げるようにした。

「外で焼いてきます」

え、いや、そこまでしなくても……と思いながらも、みんなの気持ちは嬉しかった。

「ここでいい。焼きなさい」

父さまが許可して、兄さまが魔法の火を出した。

花に移りすぐ焼け落ちるかと思いきや、オイルでもかけたように一瞬だけど激しく燃え上がった。

父さまの背にかばわれる。

すぐに花は焼け落ちたけど、ビビった。

「フランツ、怪我はないか?」

「大丈夫です」

「フラン、モヤモヤしたりしていない? 気持ち悪くない?」

燃え方が明らかにおかしかった。

母さまは兄さまがあの花から何か影響を受けてないか、心配になったみたいだ。

「大丈夫、だと思います」

「申し訳ありません。得体のしれないものを持ち込んでしまい!」

アルノルトが九十度で謝罪する。

「いえ、アルノルトもヘリも悪くないし、気持ちは嬉しかったわ。

でも普通の花じゃなかったのは確かね」

問題は、そのおかしなものをばらまいている人がいるということだ。