軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09 ティータイム

現代日本で、私のお気に入りの喫茶店があった。

駅から程遠い郊外にあるコーヒー専門店で、お店の一角でコーヒー豆を自家焙煎をしている喫茶店。

そこに流れる日常生活とは違うゆったりとした雰囲気と時間、注文をしてマスターがコーヒーを点てる時に立ち上る香り、自分じゃ中々手が出ないおしゃれなコーヒーカップを目で楽しみながら飲むコーヒーが好きだった。

自家焙煎したコーヒー豆の販売もしていて、次の休みに用事が入っていて来れないと分かっていた時なんかは100g買って帰り、家で好きなクッキーやチョコをお供に楽しんだりしたものだ。

そんな事を思い出していたからだろうか。口にはバターやバニラの優しい香りと甘いクッキーの味。でも、異様に硬い。…硬い?

「………そろそろオレの指を解放してくれないか?」

むーん、と唸っていると、ディルナンさんの笑いを含んだ声が右側から聞こえた。

これには何事かと霞掛かった頭で考え、重い目を開く。

「クリルが食いたきゃまだあるぞ。だから、取り敢えず口開けろ」

「…う?」

ディルナンさんの言葉の意味を考える事無く、言われた通りに口を開ける。

ぼーっとしつつ部屋を見回すと少し離れた所で椅子に座って爆笑しているエリエスさんと、呆気に取られた50代ぐらいのロマンスグレーの髪とアイスブルーの瞳の白衣姿の渋いおじ様と、紺色の髪と瞳で白衣姿の小柄で柔和な顔をした20代前半位の兄さんがこっちを見ていた。

状況を少しずつ認識していくと、見知らぬ部屋でベッドに寝かされている事に気が付いた。

「おにいちゃま、ここ、どこ…?」

「医務室だ」

一番近くに居たディルナンに場所を聞くと、思い掛けない答えが返ってきた。

そう言われてみれば、左腕には点滴されてるんですけど。

え、何事?

自慢じゃ無いですがこの私、今までインフルエンザと自転車で転んで骨折した時位しか病院に掛かった事の無い人間です。

「昼寝してる間に健康診断をしてもらっただけだ。栄養失調気味で点滴をしてもらってるが、それ以外はどうにか問題無し。安心しろ」

あ、点滴されてるのはそういう事。森にどれだけ居たのか分かんないもんね。

あれだけお腹空いてたんだから、まともに食べていたとは思えないし。何も無かったなら何よりだ。

そんな事を考えていると、エリエスさんもディルナンさんの隣にやってきた。

「おはようございます、ユーリ」

「おはよーございます、エリエ しゅ(・・) おにいちゃま」

あ、やばい。エリエスさんの名前噛んじゃった。

…凄い失礼な事しちゃったのに、何で当のエリエスさん所かディルナンさんと白衣姿のお二人まで笑ってらっしゃるのさ?

「ごめんちゃい、おにいちゃま」

「いいんですよ、ユーリ」

「この年頃の子供に全ての言葉に完璧な発音を求めるのは酷な話だな。成長すれば自然と言えるようになるし、後はひたすら喋って慣らすしかあるまい」

失礼な事には変わりないから、きちんと謝ったよ。それだけであっさり許してくれるなんて、エリエスさんてば美人なだけじゃなくて優しいのか。最高だね。

そして、白衣姿のおじ様が私のフォローをしてくれた。

それにしても、このおじ様恐ろしく良い声してる。耳元で甘く囁かれたら腰抜けそうだよ。

尤も、こんな子供にそれやったら犯罪臭がするけどねっ!

「初めまして、ユーリ。私はヴィンセント。医療部隊の隊長をしている。そっちにいるのはバクス。医療部隊の副隊長だ。これから君に治療が必要な時に診る事になるから覚えてくれるかな?」

「はじめまして、ユーリです。ヴィン ちぇ(・・) ントおじちゃまとバク しゅ(・・) おにいちゃま」

…サ行の入ったカタカナ名前、マジでやめて! 十回に一回位しかきちんと言える気がしないから!!

そして、その皆様の生温かい笑顔に耐えられませんっ。いっそ怒ってーっっ。

あの後、バクスさんがホットミルクを淹れてクリルなるお菓子と共に持って来てくれました。

現在、点滴をしつつもベッドに起き上がって頂いています。

クリルは何と言うか…カントリーマ〇ムからチョコチップを無くした感じのしっとりしたクッキーでした。普通に美味しいです。寝てる時に感じた味にそっくり。…はっ、これが予知夢ってヤツ!?

「それにしても、本当に美味そうに食べるな」

「食い物への食い付きがハンパ無いからな。…ユーリ、食い物に釣られてよく知らないヤツに付いて行くんじゃないぞ」

食べていると、ヴィンセントさんの感想に続いてディルナンさんに注意されました。

あれ、私、そんなに危なっかしく見えますか? まぁ、忠告は有難く頂戴して頷いておいたけど。

「そうですよ。そんな人達に貰わずに、どうしても食べたくなったら私達の所へいらっしゃい。美味しいお菓子を用意してあげますからね」

「ボクの所でも良いよ。お菓子が好きで、大体ストックしてあるし」

えぇっ、エリエスさんとバクスさんがディルナンさんに加勢した! 何でだ!?

「まぁ、所属は調理部隊と書類部隊だから、食い物に困る事は無いだろうが」

「第二特別部隊か」

「調理部隊だけに置くのはどう考えても難し過ぎる。仕込み専門にするが、何せタシ芋、ベルモン、オル葱は毎日大量に使う」

「週一位で書類部隊で集計作業をして頂く予定になっています」

「身長に見合った体重に回復するまで、週二は書類部隊にしておけ。調理部隊二日に書類部隊一日を二セットで休みだな。無理そうなら暫くは一セット終わった後にも休みを入れろ。それと毎週、週の初めか終わりの午前に健診を受けて貰う」

「「了解」」

何やら私の所属の事でディルナンさん、エリエスさん、ヴィンセントさんが話してるみたいだけど、余計な口を挟める筈も無いので大人しくホットミルクとクリルに舌鼓を打つ事にした。

ホットミルクも甘くて美味しいけど、夢見たせいかコーヒー飲みたいわー。