軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

医療部隊と魔導部隊の二重奏~セリエルさんの受難を添えて~ 5

セリエルさんには言葉でガッツンガッツン、とことんまで釘を打たれ、他の面々には生温い目で見守られつつ講義は終了しました。

セリエルさんの言っていた通り、時間はごく短い間だったのにもの凄く疲れた。

途中、トイレと称して逃亡しようかと思ったけど、私の現在地はセリエルさんの膝の上。

しかも逃亡防止にしっかりとお腹周りにセリエルさんの腕が回っていた。

「…逃げようものなら、講義の時間を延長しても構わない」

更に迷ってたらセリエルさんに無表情で淡々と言われ、私の考えが筒抜けだったのは明らかな訳で。

取り敢えず、へらっと笑って誤魔化しておいた。

光属性の魔力の使用で無理は絶対にしない。これ絶対。

だってセリエルさんのお説教、ヴィンセントさんのお説教並みに何かある。

そんなのイヤだ!

「さて、次は実践か…」

「セリエル殿、どんな事を?」

ヴィンセントさんとシェリファスさんがセリエルさんに確認を取るのを聞き、私もセリエルさんを見上げる。

「いきなり術を覚えさせる訳ではない。先ずは光属性の魔力の解放の仕方を覚えさせたい」

「「…というと?」」

「治療薬に光属性の魔力を通して効力を上げる、だな。それが円滑に行える様になると、今後覚えさせる術の効率と威力が格段に良くなる」

セリエルさんのこの説明に、バクスさんがすぐに食いついた。

「ちなみに、光属性の魔力を通した治療薬は我々でも扱えるんですか?」

「今のユーリには自分が使用する分が精々だ。だが、上達すれば容器の治療薬自体に通す事が可能だ。その治療薬ならば誰でも使用できる」

「その場合の副作用は?」

「術ではないのだから無い。ほんの僅か治りが良くなる程度の子供騙しだぞ?」

「オレの卸してる薬と同じって事です」

「「「ほぉ」」」

シエルさんが説明に一言加えると、医療部隊の面々の瞳がキラリと光る。

…何か今いる医務室に続く奥の扉も少し開いて、同じく光る瞳が複数見える。

軽くホラーかな?

…まさか、ずっとそうやって覗いて盗み聞きを??

ちょっと悪寒がした。

「つまり、光属性の使い手のいない魔大陸だからこそ進化した薬学にユーリちゃんの光属性の魔力が加わればまた新たな可能性が生まれる、と。やー、ボクも楽しみだなぁ」

ルートヴィヒ少年がニコニコ笑顔で言えば、シエルさんがハッとする。

「え。オレの商売上がったり!?」

「やだなぁ、シエルさん。輸出が減っても逆に輸入って手もあるでしょう?」

「確かに…ってまた増えた!!?」

「最初からいましたけど。あ、ボク、セリエル師匠に師事してますルートヴィヒです。お見知り置きを」

「セリエル様の弟子!!!?」

漸くルートヴィヒ少年とシエルさんが対面すれば、セリエルさんが二人を見てまた溜息を漏らす。

「セリエル様、オレというモノがありながら…っ」

「…ソレは完全にお前と同類だぞ」

「ん?」

「……気付けば押し掛け弟子になっていた。お前と全く同じ様にして、な。押し掛け部下のお前の弟分かと思ったぞ」

「…それは見る目があるな、弟よ!」

「ありがとう、兄さん!」

シエルさんの三文芝居が始まるかと思えば、セリエルさんがさっさと切り捨て、今度は謎の兄弟劇場になっていた。

…って事は。

「シエルしゃん、ルゥにーしゃまのにーしゃま?」

「そうみたい」

「…じゃあ、ボクのおっきなにーしゃま!」

にぱっと笑顔で告げれば、シエルさんが目元を押さえて震えながら天を仰ぐ。

「末っ子がこんなにも可愛い…」

「これが最近流行りの“尊い”ってヤツですね」

「それな」

シエルさんとルートヴィヒ少年の邂逅は修羅場では無く平和に済んで何よりです。

そんなこんなを経て大所帯でやって来ました、再びの闘技場。

…気になるのは、手を繋いで横を歩いてくれるルートヴィヒ少年がやって来るまえに術着なのに背中に装備した長剣。

「 長剣(コレ) ? …戦闘系の患者がいる時はちょっと、ね」

私の視線の先に気付いたらしいルートヴィヒ少年がニッコリ笑う。

あ、これ、深く聞いちゃダメなヤツだ。

セリエルさんも白衣を羽織ってすっかりお医者さんモード。

そのセリエルさんの指示で、いつも通りに応急処置の道具をスタンバイ。

「セリエルしゃん、できました!」

「…まず、消毒薬を含ませた脱脂綿を必要数作る」

「あい」

はいはい。言われた通りに作りまして。

「次に、治癒の意識を込めた光を作る」

うん?

セリエルさんの左手の人差し指の先に、小さな真珠色の光が出てるけど、ソレを作れと??

私の治癒の意識って言ったら…

痛いの痛いの飛んでいけー(笑)

少し小首を傾げつつクルクル右手の人差し指を回してみたら、あら不思議。

…出来ちゃったよ。

クルクル回すのを止めて暫し眺めてみても、ちゃんと指先に光が残っていた。

「…その光を、薬を含ませた脱脂綿に被せる」

そっと右手を下ろしていくと、ちゃんと指先の光も付いて来る。

言われた通りに脱脂綿に被せてみると、薬みたいに脱脂綿にジワリと染み込んでいった。

「…解放と操作は問題ないな」

「できました!」

「……あれ、治癒術の魔力の発動と解放ってこんな簡単だったっけ。オレ、超絶苦労したのに」

「お前は防御型だから余計にな」

「セリエル様のフォローが追い打ちで、目から汗が…」

シエルさんが泣いたフリをするけれど、周りが全員スルー。

それよりも全員の視線が好奇心に満ちて出来たばかりの脱脂綿に向かってる。

「ルゥ、患者を片っ端から確保して来い」

「はい、師匠」

…と、セリエルさんがルートヴィヒ少年に指示を出す。

それを受け、ルートヴィヒ少年が訓練中の一番近いリンクへと身軽に降りて行く。

次の瞬間、背中の長剣を抜き放ち、遠目に見ても怪我で血が出ているのが分かる年若い外警部隊の隊員達をリンク外へと物理で追い出し始めた。

何事かと度肝を抜かれる外警部隊の隊員達を余所に、ルートヴィヒ少年ってば次々と剣技で外警部隊を圧倒しつつ一分もしない内に十人程確保する。

「ーーー…さぁ、治療の時間だ」

ちょっぴり黒さの滲む笑顔で長剣を収めるルートヴィヒ少年のよく通るその声は、ヴィンセントさんと同じもので。

それを聞いた瞬間、突然確保されて抗議しかけていた外警部隊の少年隊員達が一瞬にして顔を蒼褪めさせて大人しくなった。

うわぁ、ルートヴィヒ少年、っょぃ。

そんな風に確保された怪我人を治療し、あと二、三人になる頃にまた次の 生贄(けがにん) がルートヴィヒ少年によってドナドナされてくるというサイクルが何度か繰り返され。

連行されて来てみれば、本家本元のヴィンセントさんもいるので思いっ切り見比べられるルートヴィヒ少年。

ヴィンセントさんとルートヴィヒ少年に揃って「「何か?」」と問われ、素直に聞ける強者は誰も居なかった。

顔色真っ青なまま、ただ勢い良く首を横に振るしかない。

「…ルートヴィヒ君、随分と剣技に長けてるんですね」

フォルさんが何度目かのルートヴィヒ少年の連行劇を見つつ呟く。

「…アレはまだまだだ」

『は?』

それにセリエルさんが否定の言葉を口にすると、シエルさん以外の大人達だけでなく連行されて来た少年隊員達の声が漏れる。

「…セリエル様の基準としては、ですよ。このお方、元々は軍団長経験もある鬼の様に強い人ですから」

「シエル、お前から見てもまだ甘いだろう」

「まあ、伸び代はまだまだあるかと。ただ年齢と職業を考えれば十分だと思います。独り立ちしてる訳でもないですし」

「単独で自由診療をしようと思うならば、それ相応の実力が必要なのは当然だ」

そんな天使族二人の会話に、外警部隊の少年隊員達が白目を剥いている。

そうだよね。お医者さんな白衣の同年代の人に長剣で圧倒されてここにいるのに、その師匠が相手をまだまだって評価してるなんて。

負けてる分、更なる精神的ダメージが追加される訳で。

ちょっと可哀想。

外警部隊の少年隊員達の頬や腕、足の傷を特製の消毒薬で治療しつつ心の中で南無、と唱えておいた。

そして何度目かの 生贄(けがにん) 補充にルートヴィヒ少年が降りて行って暫くして、初めて剣同士が切り結ばれる激しい金属音が続くのが聞こえた。

これには私達は勿論、ドナドナされて来ていた外警部隊の少年隊員達も音の方に注目する。

「あ。イオにーたん」

音の発生源にいたのはルートヴィヒ少年と、外警部隊で唯一の顔見知りであるイオ少年。

それでも見る見る内にイオ少年がルートヴィヒ少年に抑え込まれ、リンク外へと押し出される。

そのままドナドナされてやって来たイオ少年は、超絶不機嫌だった。

「…ユーリ!」

「あい!」

ギッと睨む様にしてイオ少年に名前を呼ばれ、思わず気をつけをして返事をする。

「今度は何だっ! ってか、コイツ何だよ!?」

「ルゥにーしゃまです!」

ルートヴィヒ少年を指差して怒鳴るイオ少年にキリッとして答えると、ルートヴィヒ少年が噴出した。

「ククク…凄い紹介だね、ユーリちゃん」

「うわ、ヴィンセント隊長と同じ声かよ、気持ち悪っ!」

「はははっ!」

すぐそこにヴィンセントさんがいるにも関わらず、怯えもせずに思ったままを素直に口にするイオ少年にルートヴィヒ少年が爆笑する。

ヴィンセントさんはというと苦笑していた。

「さ、治療の時間だ。ユーリちゃん」

「任せてくだしゃい!」

笑みが収まると真っ先にイオ少年を差し出してくるルートヴィヒ少年に、早速消毒したピンセットで新しい脱脂綿を摘むと左頬に真一文字に薄く走る切り傷にポンポン当てていく。

「…ん?」

「痛いでしゅか?」

「いや、寧ろ消毒してんのに大して痛くねぇから変なんじゃねぇか。何だコレ」

「ボクの光属性の魔力の練習でしゅ!」

「…ってまたお前の実験台かよ、オイ!!」

怪訝そうに眉をひそめるイオ少年にあるがままを伝えると、気持ち良くツッコミが入れられた。

「それはケガするにーたんが悪いでしゅ」

それにキッパリ返すと、イオ少年がグッと言葉に詰まった。

「イヤならケガしないくらい強くなってくだしゃい」

「チッ。少なくとも、そこの医者見習いに負けない様に強くなってやるよ」

「それはホラ、ルゥにーしゃまですから」

「マジでその訳分からん兄様信仰は何なんだよ!」

「怖いお医者さんの息子さんで、強いお医者さんのお弟子さんだからでしゅ」

「…………そうか」

更にトドメにヴィンセントさんとセリエルさんを両手でババン! と根拠として示せば、イオ少年が黙った。

治療も終わって患者交代すると、「やっぱり…」だの「…アレ、医者?」だの、ヴィンセントさんとセリエルさんを見て声を漏らすイオ少年とその仲間達の姿があった。

イオ少年もっょぃ。