軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

05-05 凧作り

「あれって間違いなく凧だよな」

山地なので風が強い場所が多いモフト村。凧揚げがあってもおかしくない。凧の歴史には興味がない仁だが、凧そのものには興味がある。

その昔、孤児院で年少の子供達に凧を作ってやった記憶がよみがえる。

ここの凧は菱形の下が長くなった形、と言えばいいか。骨を縦横十文字に組み合わせたシンプルなものだ。

「紙じゃなくて何を貼っているんだろう?」

この世界に和紙はない。洋紙も見かけない。羊皮紙や薄い板に書いたものしか見かけていないので、凧に貼っているものが何か気になる。

「ほう、お客さまのところにもあれがありますか」

振り向くと、村長が立っていた。明るいところで見ると、日に焼けた顔は渋紙のようだが、意外と若いようだ。

「ええ、形は違いますが」

「そうですか。それは興味深い。聞けば、 魔法工作士(マギクラフトマン) でいらっしゃるとか。凧作りなど子供だましでしょうけれど、ひとつ作って見せてもらえませんか?」

退屈しのぎに一つ、などという好意的な言葉に仁もその気になる。

「是非。材料とかお願いします」

「それはもちろん」

ということで、仁は村長宅へと戻った。

「お父さま? 何かお作りになるのですか?」

村長宅で仁好みの料理を教わっていた礼子がやってきた。

「ああ、凧をな」

「凧ですか。お父さまのところでは新年に揚げるんでしたよね?」

仁の知識が不規則に転写されている礼子は、凧のことは知っているようだ。

「ああ。冬の方が風が強いからな」

空っ風と呼ばれる冬の季節風が吹く関東を中心にした話だ。浜松では5月、長崎では4月頃大会が行われているようである。

それはそれとして、仁は村長が用意してくれた材料を前に、どんな凧を作るか考えていた。

「うーん、まさか 鞣(なめ) した革を貼っているとは」

高山に棲むヤギに良く似た動物の革。色は白く、非常に薄くしてあるが、やはり紙よりは重い。

「あまり凝った凧はかえってまずいな」

ということで仁が決めたのは、『フレキシブルカイト』。

正方形もしくは縦長の長方形をベースに、縦に四等分する線を引き、その中心を除いた左右の線に合わせて骨を取り付ける。

糸目は、両端、上から三分の一が基準で、それより短いといわゆる『天井凧』、つまり高度を上げる凧となり、それより長いと遠くまで飛ぶ凧となる。

そしてその糸目から左右の骨の上までを直線で切り取ると、下が長い変形六角形をした凧となるのだ。

「少し重いから三分の一より短くするか」

一応、その辺を変えたものを3つ製作。

「おや、もう出来上がりましたか。……これは変わってますな」

様子を見に来た村長がそんな声をあげた。仁はちょうどいいと、

「あと、これに絵を描きたいのですが、絵の具はありますか?」

と仁が言うと、

「ほう、絵を描かれるのですか。それは面白そうですね」

といって、革を染めるための絵の具を出してきてくれた。

仁は何を描こうか悩んだ揚げ句、赤い絵の具を刷毛に付けると、『龍』と大きく書いたのである。

「何ですかな? この絵のような字のようなものは」

当然、漢字の読めない村長は聞いてくる。仁は答えて、

「『ドラゴン』を意味する古代文字ですよ」

と答えておいた。

「ほほう、古代文字でドラゴンですか、確かに空を飛ぶ凧に似合ってますな」

続けて仁は、残りの2つにも、それぞれ青と黒で『龍』の字を書いたのである。絵にしなかったのはいい判断だ。

最後に絵の具に『 乾燥(ドライ) 』の工学魔法をかければ完成。糸は丈夫な麻糸。

「さて、飛ばしてみますか」

「お供します」

礼子は当然そう答える。そして、

「私は少々片付ける仕事がありますので、あとでうかがいます」

村長はそう言って、執務室へと引っ込んだ。

礼子と共に、仁は表へと出、凧が揚がっている方を目指して歩いて行く。

東に向かって落ちている崖の上。もちろん丈夫な柵があって、落ちないようになっている。

そこには凧揚げをするもの、それを見るもの、子供達が大勢集まっていた。

そんな子供達を眺めている人影が1つ。

「……エルザ?」

それはエルザだった。ドレスではなく、散歩用に普段着だが、レースやら飾りボタンやらがあしらわれており、育ちの良さを醸し出している。

「……ジン君」

振り向いたエルザの顔はどことなく寂しそうだった。

「何見てるんだ?」

「子供たち。楽しそうだなあと思って」

「声かけて混ざればいいのに」

仁がそう言うと、

「だめ。子供は苦手」

と首を振る。だが仁は、

「苦手なだけで嫌いなんじゃないんだろう?」

そう言って手にした凧を見せた。エルザはそれを見て、何だかわからなかったようで、

「……ジン、君、それは何?」

フレキシブルカイトは、丸めて持ち運び出来るのが特徴だ。丸めてあったら凧とわからないのは無理はない。

「凧だよ。揚げてみるか?」

と言えば、

「凧? それが?」

と興味を持ったようだ。

「……いく」

「よし」

若干顔を 顰(しか) めている 者(礼子) がいるが、仁はエルザを連れて子供達が凧揚げをしているところまで歩いて行った。

まず気が付いたのは凧揚げを見ているだけの年少の子供達。わらわらと仁達に群がってくる。

「お兄ちゃん、そんちょうさんとこにきてるおきゃくさんだよね?」

「なあなあ、その手にもってるのなんだー?」

「お姉ちゃんきれい。きぞくさまなの?」

「小さいの。おまえもおきゃくさんなんだろ?」

最後のは礼子に向けた言葉だ。集まってきた子供達は見た目では礼子と同じくらい。礼子に親しみを感じているらしい。

「みんないいかー、これも凧なんだ。これからこのお姉ちゃんが揚げてみせるからな」

仁はそう言って凧を1つエルザに渡す。赤で『龍』の文字が書かれた凧だ。

「え、私が?」

「そうさ、ほら」

「でも……私、凧なんて揚げたことない」

躊躇うエルザに仁はたたみかけるように、

「大丈夫さ。俺の造った凧はちょっとやそっとでは落ちないから」

そこまで言われては断り切れず、エルザは凧と糸を受け取った。そして凧揚げ場所へと向かう。

それに気付いた子供達が場所を空ける。凧を揚げているちょうど真ん中だ。

「あ、う」

気後れするエルザの背中を押し、仁は、

「ほら、行った行った。子供達と仲よくなるなんて簡単さ、同じ目線で遊べばいいんだ」

「……わかった」

意を決してエルザは柵のそばまで行き、凧を広げる。折からの風に吹かれて、一気に広がるフレキシブルカイト。そしてエルザは凧を持った手を放した。

風を受けたフレキシブルカイトはぐん、と糸を引き、エルザの手の中にある糸玉がぐんぐんほぐれていく。そしてその分、凧は大空へと舞い上がった。

「おおー! ほんとに飛んだ!」

「すげー!」

尻尾と呼ばれるバランス取りの重りもなしに、無調整で揚がっていく凧に驚いたのは凧揚げをしている年長の子供達。

「お姉ちゃんうまいねー!」

エルザが巧みに操っているのだと勘違いする子もいる。

フレキシブルカイトは青空高くその『龍』の文字を掲げていた。