軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27-16 閑話55 サキのもやもや

「『……2人は幸せに暮らしました、めでたし、めでたし』か……興味深いわねえ」

カイナ村の二堂城にある図書室で、ヴィヴィアンは昔話の本を読んでいた。

仁の記憶にある昔話を老君が編集したものである。

今読み終えたのは『シンデレラ』であった。

「カボチャが馬車になるなんて……どんな工学魔法よ、って気がするけど……」

セルロア王国における『語り部』としての役割を放棄し、ショウロ皇国に亡命した彼女は、『仁ファミリー』となり、こうして各国の伝承や昔話を収集する日々を送っていた。

『語り部』の役目はなくなっても、こうした伝承に興味があるので、自発的に行っているのだ。

最近は絵も描くようになったので、いずれ挿絵付きで再編集した本をまとめられたら、と考えている。

「さて、ここにある昔話の本は全部読んじゃったし、今度はどうしようかしら」

ヴィヴィアンには驚異的な記憶力がある。大抵の本は一度読めば覚えてしまえるし、昔語りも一度聞けば覚えてしまえる。

もちろん例外もあり、学術書などは読んでもちっとも頭に入ってこないのだが。

季節は春、4月の終わり。

ショウロ皇国でも伝説・昔話の収集が一区切りついたヴィヴィアンは、他の国を訪れようと考え、その手始めにカイナ村へやって来ていた。

「……ジン君といっしょなら、どの国へもフリーパスなのよね。早く帰ってこないかしら」

その仁が戻って来たのはそれから2日後の5月1日であった。

その際、仁は『グース・ミナカタ』という名の青年を伴って来た。彼は異民族とショウロ皇国民のハーフで、博物学者。

「なんでも、異民族って、祖先である『 始祖(オリジン) 』の血を色濃く受け継ぐものがいるらしいじゃないの」

蓬莱島の頭脳、『老君』から聞いた情報である。

また、彼の国で尊敬される『賢者』についても、かなり詳しいことがわかったらしい。

「まずはロイザートね」

旅の疲れを癒しているであろう仁たちを気遣い、2日置いた5月3日、 転移門(ワープゲート) を使い、ヴィヴィアンはショウロ皇国首都ロイザートに飛んだ。

「いらっしゃいませ、ヴィヴィアン様」

仁の屋敷で出迎えたのはバロウ。

「やあ、ヴィヴィアンさん、いらっしゃい」

仁も玄関ホールまでやって来た。

「こんにちは。ええと、フソーから来たお客様がいるって聞いたんだけど」

「ああ、グースのことですね。ええと、今はサキと一緒に街見物に出掛けてます。お昼までには戻ってくるはずなので、待っていて下さい」

「ええ、ありがとう」

ヴィヴィアンは応接間に通された。そこへベーレがお茶を運んでくる。

「ありがと」

礼を言ってお茶に口をつけると、爽やかな苦みとほのかな甘味。

「美味しい緑茶ね。淹れ方も上手だわ」

と褒め、ソファで寛ぐヴィヴィアンであった。

そこへ仁がやってくる。

「ジン君、ミツホやフソーへ行って来たんでしょう? 少しお話を聞かせてくれないかしら」

「ええ、いいですよ」

そこで仁は、まずはミツホでの話を聞かせた。

主に、『ミヤコ』郊外の工場の話だ。

「……なるほどね。『 賢者(マグス) 』という人がそういう施設を残していたのね」

「ええ、それに、博物館……資料館だったかな? いろいろと資料が残されていましたね」

「へえ、興味深いわ。行ってみたいわね」

「国交が正式に結ばれれば行けるようになりますよ」

「その日が楽しみね」

お茶のおかわりをし、2杯目が空になる頃。

「ジン様、ヴィヴィアン様。ただ今、グース様とサキ様がお戻りになりました」

「意外と早かったな」

とはいえ、時刻は午前11時過ぎ、それほどでもない。

「ちょっと早いけど昼食にして、それからゆっくり話をしたらどうだろう」

「ええ、そうさせてもらうわ」

カイナ村から転移してきたヴィヴィアンだったので、3時間という時差の関係で、空腹を感じていたため、仁の申し出は有り難かった。

もちろん、それを考慮しての仁からの提案である。

「サキさん、お久しぶり」

「ヴィヴィアンさんご無沙汰してます」

サキとヴィヴィアンは再会の挨拶を交わし……。

「……そして、はじめまして。グース・ミナカタさんね? 私はヴィヴィアン。『語り部』です」

「はじめまして、グース・ミナカタです」

グースとヴィヴィアンも挨拶を交わした。

「まあ、いろいろ話したいこと聞きたいこともあるだろうけど、まずは昼食にしよう」

仁がその場を取り仕切る。

昼食はベーレ特製の『パッサパン』、つまり干しぶどう入りのパン=ぶどうパンである。

メープルシロップを香りつけに少量入れてある。蓬莱島で最近トパズが作り上げたもので、特にエルザのお気に入りだった。

「うわあ、美味しいわね」

「これは美味しいね」

「うん、美味い!」

ヴィヴィアンもサキもグースも、その味に舌鼓を打った。

「ベーレ、よく焼けているよ」

「ん」

仁とエルザからも褒詞を貰い、ベーレは礼儀正しく頭を下げた。

「ありがとうございます」

嬉しそうに微笑むベーレ。

パッサパンは好評で、用意したものは全て無くなったのであった。

* * *

ヴィヴィアンは昼食を済ませると、早速グースに質問を開始した。

「さっそくだけど、フソーの伝説などを聞かせていただきたいの」

「ええ、構いませんが、長くなりますよ?」

「それこそ望むところだわ」

ヴィヴィアンには、こうした物語は、一度聞いただけで覚えてしまう特技がある。

また、グースも、驚異的な記憶力を持っていた。

ゆえに、この2人の出会いはある意味運命的といえた。

「……そう、過去に、こういうことが……」

「いえ、それはきっとこうではなくて?」

「フソーの過去には、こうした話が多くてね」

「ああ、それは興味深いことですねえ」

対談はその日のうちには終わらず、仁は屋敷の一室を提供することになった。

「 賢者(マグス) の名前が、こちら……ショウロ皇国より東に伝わっていないのには何か理由があると思うの」

「俺の考えでは、 賢者(マグス) はニューエル、フソー、ミツホでの活動に疑問を抱いたのではないかと思う。それで、その後は大っぴらに活動しなかったのではないだろうか?」

「うーん、お話だと、アドリアナ・バルボラ・ツェツィについては何もわからないのよね?」

「そうなんだ。むしろその情報は、こちら側にあるはずなんだが……」

1日足らずで、グースとヴィヴィアンは意気投合したようで、朝から晩まで部屋に篭もって意見を交わし、情報を交換しあっていた。

部屋から出てくるのは食事とトイレの時だけ。会話が途切れるのは眠るときだけという有様であった。

バロウとベーレが手入れをしている庭の花壇には花々が咲きそろっていた。

「ふう……」

そんな花壇のそばにあるベンチで、サキは1人黄昏れていた。

(何やってるんだろうね、ボクは)

グースがヴィヴィアンと一つ部屋に篭もっているだけでもやもやする。

(ボクはラインハルトが好きだったはずなんだけどね……)

「おや、サキじゃないか。こんなところで何やってるんだ?」

「え!? グ、グース!? 君こそどうしたんだい?」

「ああ、やっとヴィヴィアンさんとの情報交換が終わったからちょっと身体を動かすために外へ出て来たんだ」

「へ、へえ」

「ここの花壇は見事だな。俺の知らない花も咲いているよ」

そう言ってグースはサキの隣に腰を下ろした。

「あの花はピオニーだろう、こっちのはフロリバだな。……サキの横の花はなんだろう?」

グースは、サキの右横の咲く花を指差した。

「ああ、これはデーマリだよ」

「小低木なんだな。白くてきれいだ」

「……おや? あれは……」

庭に出てきた仁は、花壇脇のベンチで、グースとサキが仲良く話し込んでいるのを見つけた。

「……俺が心配することじゃなかったな」

ヴィヴィアンにグースを取られ、サキが寂しそうだ、とエルザに言われたので様子を見に来たのだが、これなら心配なさそうだ、と仁は思った。

それから数日後、ツキヨグサの件でエッシェンバッハ邸を訪れた仁は、共同研究しているサキとグースを見ることになるのである。