軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

05-02 フラットヘッド村

馬車はその日の午後、まだ日が高いうちにその日の宿泊地である村に到着した。名をフラットヘッド村という。

「今日はここで泊まりか、もう少し行くのかと思った」

ポトロックの周辺には隣接して村や集落が幾つもあったし、ここまでの道中だって村や集落を幾つも見かけた。ならこの先にもまだ村はあるだろう。

カイナ村周辺とは段違いだ。麦を運んでトカ村へ行った時は2日掛かったことを思い出す。ここだって村というより町と言ってもいいくらいの規模に見える。

「エリアス王国は、魔導大戦であまり被害を受けなかった。だからこのくらいが普通」

「なるほど、急激な人口の減少はなかったのか」

「ちがう。人口はこの国も半減した。大陸中央での戦いに出兵したこと、それに 魔素暴走(エーテル・スタンピード) のせいで」

「なら、なんで……ああ、建物や施設への被害が少なかったのか」

「そう」

広場で馬車が止まった。

執事が客室のドアを開けてくれる。仁も礼子も飛び降りた。エルザもまた、前と同様、スカートを巧みに押さえながら飛び降りる。

全員降り立つと仁はエルザに、

「なあ、何で フラットヘッド(平らな頭) っていうんだ?」

その問いにエルザは、村の西にそびえる山を指差した。

「あれを見て」

「なるほど、 フラットヘッド(平らな頭) だ」

その山は頂上部が削れたように平らになっていた。

「そうか、あの山がフラットヘッド山、で、この村がフラットヘッド村になった、というわけか」

「そうらしい」

従者の4人と御者2人が近づいて来た。馬車を預けてきたようだ。

聞くと、男3人のうち1人が護衛、もう1人が執事、最後の1人が下男ということらしい。従者の中で唯一の女性はエルザの乳母だということだ。

使用人達の名前は紹介されなかった。

「これはこれは、ランドル子爵のお嬢様、お早いお着きで」

その声に振り向くと、初老の男が立っていた、両脇には若い男が付いている。

「この村の村長。行きにも世話になった」

エルザが仁にそう耳打ちする。往復移動なのだから当然と言えば当然である。

「お世話になる」

そうエルザが言うと村長は一礼して、両脇の男に指示を出した。自分は片方の男と共にエルザの方へ行く。

「エルザ様はこちらへどうぞ」

エルザと乳母がそちらへと向かう。

「お伴の方はこちらへ」

それぞれの男が案内に立った。仁はお伴達の方へ付いて行こうとすると、

「ジン君とレーコちゃんは私と一緒」

エルザに手招きされた。

「エルザ様、こちらは?」

村長がエルザに尋ねる。エルザはそれに答えて、

「ジン君とレーコちゃんはランドル伯爵家のお客さま」

それを聞いた村長は目を丸くして、

「ほほう! それはそれは! ジン殿、レーコ嬢、どうぞこちらへ」

ということで仁、礼子、エルザ、乳母、そして村長の5人は村中央にある大きな家へと向かった。ここが村長宅らしい。

「ようこそいらっしゃいました」

数人の使用人が出迎える。エルザは行きにも泊まったので慣れているようで、笑顔を向けて頷く。

仁は慣れない歓迎に戸惑っていた。

「さあさあ、どうぞ、この部屋でおくつろぎ下さい」

仁と礼子が案内されたのは、二間続きになった部屋で、一つ一つの部屋は8畳くらいだ。奥まった部屋にはベッドが2つ。手前の部屋には割合豪華なテーブルセットが置いてあった。

「わりと裕福な村なのかな」

カイナ村の村長宅に比べてみる仁。人口だけでもこちらの方が多いだろうから、まあ裕福なのだろう。

「港町にも近いしな」

と、仁は、礼子の様子がおかしいことに気が付いた。

「礼子、どうした? さっきからしゃべらないがどこか具合でも悪いのか?」

「……お父さま」

すがるような目で礼子が仁の名を呼んだ。

「ん? どした?」

「……私のこと、捨てないで下さい」

「はあ?」

「私、もっともっとがんばりますから!」

「何で、何が、どうした?」

「私、お父さまのお役に立てませんでした!」

「ちょっと待て、いったい何のことだ?」

珍しく支離滅裂な礼子の台詞に面食らう仁。

「お父さまが苦しんでらっしゃるのに気付けず、あの人に後れを取ってしまいました!」

「車酔いのことか? あれは初めてだったし、無理ないだろ。エルザは他にも車酔いの人を見ているからわかったんだろうよ」

「でも、でも……!」

まだぐずぐず言っている礼子を仁はそっと抱きしめる。

「礼子、お前は俺の娘だろう? 俺は娘を捨てるような事はしないよ。それに娘なんだから、役に立とう立とうとあせらなくていいから」

「でも……」

「俺はお前がそばにいてくれるだけで安心できてるんだから」

そう言いながら礼子の頭を撫でる仁。

「私は……お父さまのお役に立つために生まれたのです……お役に立てなければ……存在する意味がないのです……」

「だから、そばにいてくれるということで、もう助かってるんだよ」

そのまま礼子を抱きしめ、背中を撫でてやっていると礼子も落ち着いてきた。

「本当に……わたし……お役に立ててますか……?」

「ああ、もちろんだ。お前は俺の自慢の娘じゃないか」

「ありがとうございます……」

そう言って礼子からも仁の体をそっと抱きしめてきた。

(礼子もずいぶんと感情が豊かになって来たな)

そう思いながら仁は礼子の背中を撫でていた。

「ジン君、いる?」

そんな折、エルザがドアを開けた。そして抱き合っている2人の姿を見、

「……ごめんなさい」

そう言ってすぐにドアを閉めた。足早に立ち去る足音が遠ざかっていく。

「あれ、今のはエルザか? 何か用があったんじゃないのか?」

わかっていない仁であった。

* * *

それからしばらくして、仁は村長宅の庭に出てみた。

「あー、いい眺めだな」

南国の夕暮れは暖かく、庭には花木が植えられていて、名前はわからないが白い花を付けている。

空は夕暮れ、フラットヘッド山の向こうに太陽が沈むところであった。その時、背後から何か音が聞こえた。

「?」

その物音に仁は振り返る。そこにいたのはエルザ。部屋着なのか、ゆったりしたガウンのような服を着ている。

「……さっきはごめんなさい」

その彼女が頭を下げる。

「ん、さっき?」

謝られる憶えはない仁である。だが。

「その、人形と、そういうことをする人がいる、というのは聞いてはいた」

なんとなく嫌な予感を憶える仁。

「……そういうこと?」

「異性でなく人形を相手にする趣味」

「……ちょっと待て」

「レーコちゃんは可愛いし、そういう気になるのもわかる……ような気がする」

さすがに朴念仁でもエルザが何を言っているのかは理解できた。

やっぱり誤解している。それも最悪な方向性で。

「だいじょうぶ。ジン君がそういう趣味でも私は気にしないから」

思いっきり気にしてるじゃないか、と仁は心の中で叫んだ。