作品タイトル不明
25-27 試乗会
「ジ、ジン・ニドー卿! こ、これは何でありますかっ!?」
案の定、 宮城(きゅうじょう) 入口で門衛に止められ、驚いた顔をされた仁たち。
「馬無し馬車、『自動車』というんだ。後ろの車は陛下に献上する物だよ」
「そ、そうなのですか? と、とにかく、少しお待ち下さい!」
初めて見る自動車を、仁の作だからといってあっさり通過させていいものか、門衛には判断が付かなかったので、1人が大急ぎで上司へと確認に行ったようである。
待っている間、仁はもう1人の門衛にいろいろ質問されていた。
「馬がいないのになぜ動くんですか?」
「速度はどのくらいまで出るのでしょうか?」
「操作は簡単なのですか?」
等々、いろいろと聞かれたのだが、一番嬉しかったのは、
「これって、私でも所有できるでしょうか?」
という質問だったりする。
興味を持ち、所有してみたいと思う人もいる、ということがわかったからだ。
10分くらい待っていただろうか。
「ジン殿、失礼した! 門衛! 問題はない! お通ししろ!」
近衛女性騎士、フローラが走ってきて、仁たちの通行許可を出した。
「申し訳ないことを致しました、ジン・ニドー卿!」
門衛は仁と仁の自動車に敬礼をした。仁も簡単に答礼し、自動車を発進させた。
「エドガー、ゆっくり走らせるように」
「はい、かしこまりました」
宮城(きゅうじょう) 内なので、歩く速度より少し早い程度に抑える。フローラはそんな自動車の横に付き、早足で伴走した。
「ジン殿、この『馬無し馬車』は、馬車用の駐車場に駐めて欲しい」
「わかりました」
その指示通り、馬車専用の駐車場に2台共駐めた。管理はエドガーに任せ、仁、エルザ、礼子はフローラの先導で女皇帝に会いに向かう。
「ジン君、窓から見ていたわ。面白いものを作ったじゃない」
開口一番、自動車について話し出す女皇帝である。
「はい、1台は陛下に献上するものです」
「本当? 嬉しいわ。後でゆっくり見せて貰うわね? まずは、あれを渡しておかないと」
女皇帝が横に座る宰相に目で合図する。宰相は2枚の皮紙を差し出した。
因みに、ショウロ皇国がミツホから輸入し、最近出回り始めた『木紙』は、まだ公文書に使われるには至っていなかった。
「これがミツホへの訪問許可証、こっちが身分証明書だ」
「ありがとうございます」
仁は礼を言ってそれを受け取った。
「さあジン君、くれるという『馬無し馬車』、見せてちょうだい!」
横で宰相とフローラが嘆息しているのを知ってか知らずか、女皇帝は勢いよく席を蹴って立ち上がったのである。
* * *
「……これが『馬無し馬車』?」
仁、エルザ、礼子、女皇帝、宰相、フローラの6人は 宮城(きゅうじょう) 前広場端にある駐車場にやってきていた。
「自動車といいます。こちらが献上する自動車です。ここが客室で……」
仁が一通りの解説をすると、宰相が感心した声を上げた。
「おお……、これは素晴らしい」
品よく纏められたデザイン。
「お許しを頂ければ、この紋章を取り付けさせていただきたく」
と、皇帝家紋章の 交差した3本の剣(ドライシュヴェルト) を見せる仁。
もちろん、女皇帝に否やはなく、仁は手早く紋章を取り付けた。
「これは危険がないのよね?」
「はい、陛下。現に、拙宅からこちらまで走らせてきたわけですが、何の問題も生じませんでした。そうだ、こちらの自動車を走らせてご覧に入れましょう」
仁は、自分用に作った自動車を、エドガーに命じて走らせて見せることにした。
「それじゃあエドガー、広場を一周して戻って来てくれ」
「はい、かしこまりました」
そして自動車は発進する。
「まあ、本当に馬なしで走っているわ!」
「ふむ、それほど速度は出ないのですな」
女皇帝と宰相は物珍しそうな顔。フローラは先程伴走しながら見ていたのでもう驚かない。
数分で、エドガーが運転する自動車は 宮城(きゅうじょう) 前広場を1周して戻って来た。
「と、いうわけです。危険なことは無いので、どうぞご試乗下さい」
仁が言うと、女皇帝は待ちきれないといった表情で宰相とフローラをせっついた。
「そうよね。……宰相、フローラ、どうかしら?」
「は、陛下。どうぞ、お乗り下さい」
まず近衛女性騎士フローラが乗り込み、女皇帝に手を差し出し、乗車のサポートを行う。ついで宰相が乗り込んだ。
「ジン殿、一緒に乗って説明を頼む」
と宰相から要請があったので、仁と礼子が最後に乗り込んだ。
3人掛けの席が前後2列なので、前方右がフローラ、中央に女皇帝、左が宰相。2列目右に仁、左に礼子、という席順である。
「運転は、運転専門のゴーレムが行います。行き先指示は口頭で告げて下さい。例えば『広場をゆっくり1周しろ』」
〈はい、かしこまりました〉
簡潔な言葉が返ってきて、自動車は走り出した。
「動いたわ。乗り心地はいいわね」
「うむ、振動がほとんど感じられないな」
時速5キロくらいで 宮城(きゅうじょう) 前広場を走る自動車。少し早足に歩いているくらいの速度だ。
「馬車で、御者に指示を出す要領です」
「なるほどね。もう少し速くできるのかしら?」
「はい。指示してみて下さい」
「わかったわ。『もう少し速く走って』」
〈はい、かしこまりました〉
返事の後、速度が増した。時速10キロくらいか。
「ああ、速くなったわ。どのくらいまで速度を出せるのかしら?」
「時速20キロくらいです。普通の馬車と同じくらいでしょうか」
普通の、というのはどの程度を指すかが曖昧だが、この世界での長距離馬車はおおよそ時速10キロから15キロくらいである。
道が舗装されていないことがその主な原因だ。短時間なら時速40キロくらいまでは出せるだろうが、馬と馬車の負担が大きすぎるので実用的ではない。
「それでもすごいわ。連続ではどのくらい走るのかしら?」
「限界試験はしていませんが、壊れない限りはいつまでも大丈夫なはずです。『 魔力素補給機(マナサーバー) 』を積んでいますので、 魔力素(マナ) 切れの心配はないんです」
「うーん、すごいわ」
「すごいですな」
説明を聞いた女皇帝、宰相はうなり、窓から外を見つめた。
「眺めもいいし、乗り心地はいい。それで現行の馬車以上。欠点は高価なこと、かしら?」
「そうですね、これ1台で100万トールを越えます」
と仁が答えると、宰相が呆れた声を出した。
「ジン殿、それは材料費であろう? ジン殿が手掛けたなら、手間はその2倍、3倍、いや5倍は取ってしかるべきだ」
「はあ……」
『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』である仁の謹製、ということで、そのネームバリューも入れたら、1台500万トール(約5000万円)は下らないだろうと宰相は言った。
長距離を行く場合、生き物である馬の世話が大きな要素となってくる。水、飼い葉、それに適度な休息。身体も洗ってやる必要があるだろう。
自動車の場合はそれを単純に無視できるのだ。
仁としては、1万キロくらいなら整備なしで走るだろうと思っている。
「車輪だけは交換が必要になると思いますが」
いくら強化、強靱化されているといっても木製であるから、おのずと限界はある。
「一応予備の車輪は一式積んであります」
直径50センチ、車輪巾5センチなので積み重ねても20センチにしかならず、場所をとらないため、床下の収納部に入れてある。
「こうした整備の知識は運転ゴーレムが知っています」
「至れり尽くせりね」
前庭を1周して戻ってくる頃には、すっかり満足した女皇帝であった。
「これでもまだまだ改良の余地はあります。もしお気づきの点がございましたらお教え下さい」
仁はそう付け加えるのを忘れなかった。