作品タイトル不明
24-31 『頭脳』の選択
究極の攻撃魔法、『 魔力爆発(マナ・エクスプロージョン) 』。それは、対象の 魔力素(マナ) を極小時間にエネルギーへと変換する魔法である。
全部の 魔力素(マナ) である必要はなく、1ナノグラム相当の 魔力素(マナ) であっても、TNT火薬1キログラムに相当する破壊力を持つのである。
これは、E=mc^2に近い変換効率である。
しかしそれも、『爆発したら』の話であるが。
《な……なぜだ! なぜ爆発しない!?》
心なしか、『頭脳』の声に戸惑いと恐れが感じられた。
「あなたの『 魔力爆発(マナ・エクスプロージョン) 』は無効化させてもらいました」
《馬鹿な! そのようなことができるものか!》
「貴方の知識ではそうなのでしょうね。でもわたくしのごしゅじんさまには可能なのです」
『エーテルジャマー』は仁のオリジナルだ。『頭脳』が知らないのも無理はない。
そしてアンは更に歩を進めていく。
《ううぬ、魔法を防ぐなら、これはどうだ!》
アンの左右から、身長2メートルを超す戦闘用ゴーレムが2体現れた。
《力ずくで止めてやろう》
「無理です」
アンが右腕を一振りすると、右から来たゴーレムが。左腕を一振りすると、左から襲ってきたゴーレムが吹き飛んだ。
《なにっ!》
「おねえさま程ではないですが、わたくしだってこのくらいできます」
《うぬぬ……》
更に歩を進めるアン。『頭脳』まであと5メートルほどだ。
その時、アンの前に透明な結界が張られた。
《ふふふ、最終防御線の結界だ。これを越えることはできまい》
『物理防御』の結界は、原理的には『頭脳』のものも仁のものも同じである。
空間にある 自由魔力素(エーテル) を結びつけて『網』を構成する。
『網』の目が粗ければ空気や水は通す。目が少し細かければ空気は通るが水は通らない。更に目が細かくなると空気も通らなくなる。
そして、 自由魔力素(エーテル) 粒子の結合力の強さは加えた魔力によって決まる。
アンはその拳で結界を殴りつけた。
《な、なんだと!?》
その特性上、結界が壊れても音はしないが、アンの拳は結界があるべき場所を突き抜けたではないか。
「大した強度ではないようですね?」
《ば、馬鹿な!? いくら 自由魔力素(エーテル) 不足とはいえ、結界を殴って壊すだと!? ありえん!》
「ですから何度も申し上げております。わたくしのごしゅじんさまにはそれができるのです、と」
《うむむ……》
そう言いながらもアンは歩み続ける。一歩、二歩。
そしてついに、アンは『頭脳』の外被前に立った。
「この薄い金属板の向こうに貴方の本体があるのですね」
アンの指が、鋼鉄製の外被にめり込み始めた。
《ま、待て!》
「わたくしのことを信用してくれますか?」
《最早お前のしていることは説得ではない! 脅しだ!》
『頭脳』の発する言葉が悲鳴に聞こえるようになった。
「わたくしにここまでさせたのは貴方ではありませんか」
アンの指が外被を突き抜けた。
《待て、待ってくれ!》
その基本命令……『自己保存』に従い、『頭脳』はついにアンに降伏した。
「わたくしがその気になれば、いつでも貴方を破壊できるということがわかりましたか?」
《……わかった。確かにお前は私を破壊できる。なのにそれをしない……まあ、今それをやりかけたが……》
意外と人間的なセリフを吐く『頭脳』である。それなりに性能はいいのだろう。
「随分と回り道になりましたが、貴方に『情報』をお渡ししましょう」
《……受け入れる》
最早『頭脳』はその言葉を全面的に受け入れるしかなかったのである。
「では、わたくしの 制御核(コントロールコア) に 魔素接続(リンケージ) できますか?」
《できる》
砦内にいる青髪の 自動人形(オートマタ) と同型機であるアンとの 魔素接続(リンケージ) は簡単であった。
「では、始めます」
《……おおお!?》
その瞬間、アンの 制御核(コントロールコア) を通じて、『老君』からの情報が怒濤のように『頭脳』へと流れ込んだのである。
同時に、『頭脳』の持つ情報・知識も老君に吸収された。 魔素接続(リンケージ) は一方通行の魔力同期と違い、情報の受け渡しが相互に可能なのである。
《……》
受け取った情報量が多すぎ、処理時間が掛かるようで、『頭脳』はしばらく沈黙してしまった。
そして数分間の沈黙の後。
《アン殿、感謝する。私にも、ようやく正常な判断が下せるようになった》
「それはよかったですね」
《うむ。最早魔族との戦いは回避されていたとはな。しかも、魔族と人類は祖先が同じだったとは》
『頭脳』は真実を知ったのである。
《魔族との確執も過去のものとなったならば、最早私の存在意義はない》
「え?」
《私はもう過去の存在なのだ。そんな私が今存在すること自体が罪であろう》
「どういうことです?」
《私が……つまりクロゥ砦があるから、しなくてもいい争いが起きてしまった。私は存在をやめることにする。ついては、頼みがある》
「なんでしょう?」
《先程繋がったのは、私の何倍、いや何十倍もの性能を持つ魔導頭脳だろう?》
「老君のことでしたら、そうですね」
《老君、というのか。そうだ。私は己の卑小さを知った。私は消える。よって、老君に後のことを託したい》
「管理を譲ると言うのですか?」
《そうだ。かの魔導頭脳ならそれが可能だろう》
これは思い掛けない提案であった。
だが、その後がいけなかった。
《老君からの情報でわかった。砦内の施設、装備は残さない方が良さそうだ。全て使えなくしておくことにする》
「え?」
《『機能放棄』》
アンが止める間もなく、『頭脳』は己が管理する全ての 魔導機(マギマシン) に、『機能放棄』、すなわち自己破壊するよう指示を出してしまったのである。
* * *
『 御主人様(マイロード) 、こういうことになりましたが……』
蓬莱島では、老君が仁に顛末を報告していた。
「うーん、その『頭脳』、一番基礎の部分、『対魔族』が意味を成さなくなったからこんなことを言い出したんだろうな……」
砦内の 魔導機(マギマシン) が全て使いものにならなくなってしまったのは少々もったいない気がするが、目新しいものはなかったので諦めはつく。
それ以上に、『頭脳』の申し出は正直ありがたかった。
『管理を譲るというなら、 制御核(コントロールコア) を書き換えてしまいましょうか』
知識部分はそのままにし、思考・判断する部分を老君の部下として書き換えてしまえば、最早仁の配下として扱えるようになる。
「それが一番だな。で、あのまま砦に置いておくのは少し危険だな」
『はい。それについてですが、崑崙島に移動させるというのはいかがでしょう?』
「崑崙島に、か……」
今現在、崑崙島を管理しているのは老君である。が、老君の配下に任せられれば、負担が減るというものである。
「よし、それでいこう」
決まったならば話は早い。老君はアンを通じ、『頭脳』を停止させた。
『調整した転送銃を使って、必要なものはみんな蓬莱島へ運んでしまいましょう』
『頭脳』をはじめ、停止した青髪の 自動人形(オートマタ) 『レファ』と『ロル』。それに多数のゴーレムたちを一旦蓬莱島へ転移させてしまうことになった。
「 自動人形(オートマタ) は独立していたんじゃなかったのか?」
『基本的にはそうです。ですが、『頭脳』には、非常時用として強制停止させることができるようです』
「なるほど」
『捕虜たちはどうしましょうか? 今は睡眠魔法で眠らされているようです』
いつまでも目を覚まさないと思ったら、気絶させられた後、睡眠の魔法を掛けられていたらしい。
「そっちは自然に目を覚ますに任せて……というのもまずいか」
『そうですね、空っぽになったクロゥ砦をどうするか、が一番の問題になりますね』
「そうだな……どうするか」
なかなか難しい問題であった。