軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23-48 エルザ/最後の仕事

時間は少し遡る。

『コンロン2』は迎賓館の上空に浮かんでいた。

中では、各国代表がとりとめもなく会話を交わしていた。王位の行方が気になり、集中した会議にならなかったのである。

一方、エルザはエドガー、リリーと共に操縦室にあって、やはり考え込んでいた。ローズはキャビンアテンダント役で客室である。

「……ジン兄が心配」

礼子が付いているし、 守護指輪(ガードリング) も持っている。また、着ている服は蓬莱島特製だ。滅多なことはないと思われるが、物事に絶対はない。

「……正統な、王位継承……」

それはやはり、先王からの譲位であろう。

そういう意味では、『王太子』という地位にあるセザールが正統なのは間違いないのだが、それを証明出来ないのを良いことに、王弟がしゃしゃり出てきて王位を簒奪しようとしている。

「私に、できること……」

リシャールは未だに昏睡状態から覚めていない。覚めたとしても、脳に障害が残ることはまず間違いないだろうと思われる。

「それ、でも……」

エルザは、同じく脳の障害を持つ父親のことを長いこと診察してきた。脳内出血により、血の塊が脳を圧迫し、それが元で脳細胞にダメージが残ってしまったのである。

「……王の場合は、ジン兄が言っていたようにおそらく、薬物。でも、脳への治療法はそれほど変わらない、はず」

脳内の出血は全て治療した。にも関わらず、意識が戻らないのだ。

「……ひょっとして、脳以外の原因?」

そのことに思い至ると共に、エルザは反省した。脳の治療にばかり拘りすぎていたことを、だ。

一旦、思考の落とし穴から脱出してみれば、いろいろと可能性が考えられる。

「……循環器系……血圧、かもしれない」

謎のアルカロイドは、内臓にもかなりのダメージを与えていた。とりわけ、心臓を酷使していた反動が大きい。

「……そう、血圧!」

超高血圧の反動で、極端な低血圧になっている可能性に到達したエルザ。

「……やってみないと」

そこでエルザは操縦室から出て客室へと向かった。

「エルザ、どうしたの?」

エルザがまず向かったのは女皇帝の元。自国のTOPであり、仮とはいえ、世界会議の議長である。

「陛下、思いついたことがあります。……」

エルザは自分の推測を述べた。

「なるほどね。……で、試してみたいのね?」

「はい。それでリシャール陛下の意識が戻れば……」

「王弟の嘘も破れる、というわけね」

そこに、ゲーレン・テオデリック侯爵が口を挟んだ。

「だが、都合良くセザール王太子を支持してくれるかな? 逆の結果になる可能性は?」

「……」

それには、エルザも返答のしようがなかった。が、代わって女皇帝が答える。

「そうなったらそれは仕方ないわ。それがセルロア王国の運命なのでしょう」

他の国の代表たちも話は聞こえていたはずだが、何も言わない。その無言を肯定と捉え、

「エルザ、行っておいでなさい」

と、女皇帝はその背中を押した。

その言葉に勇気づけられ、エルザは医務室へ向かうことを決心した。

『コンロン2』はリリーの操縦で一旦迎賓館の屋上に着陸する。

エルザはエドガーを伴い、『コンロン2』を降りた。

治癒室は迎賓館1階の奥にある。エルザは、治療法をもう一度頭の中で反芻しながら階段を駆け下りた。

「エルザ様……」

治癒室勤務の治癒師が、エルザの姿を見て意外そうな顔をする。他国からの客たちは、皆避難したことを知っているのだ。

「……陛下の治療に関して、思いついたことが、あります」

エルザは短く言うと、リシャールの寝台横に立つ。

「『 診察(ディアグノーゼ) 』」

魔法は万能ではない。イメージがしっかりしていないと、結果が出ない。それは治癒系の魔法でも同じ。

『 診察(ディアグノーゼ) 』も、何を知りたいか、術者がはっきり認識していなければ、得られる情報は少ないのだ。

そして今回、エルザは循環器系中心に調べていくのだった。

「……やっぱり、血圧が低い」

デジタルに何mmHg、という値がわかるわけではないが、高い低いは感覚的にわかる。自分や周りの人々と比較すれば、尚のこと、リシャールの血圧が極端に低いことを知ることができたのである。

「……やっぱり、心拍数が少ない。それに鼓動も弱々しい」

更に詳しく見ると、脳へ行く血管も詰まり気味である。

「『 快復(ハイルング) 』……『 治療措置(ハイルフェルファーレン) 』」

今度は、治療部位がわかっているので、効率良く治癒魔法を掛けていける。

まずは脳の血管を修復。血圧が戻った途端に、弱った血管が破れたら一大事だからだ。

次いで弱った内臓全般を賦活する。

そして心臓を集中的に活性化していくのである。

この方法が医学的に正しいかどうか、エルザには今一つ自信がなかったが、少なくとも悪い影響はないだろうとの判断の下に、段階を踏んで治療をしていくのであった。

そして治療後、10分が経過。リシャールの顔色は目に見えて良くなっていた。

「……ん、む……」

身じろぎをするリシャール。意識が戻りかけたようだ。

「陛下!」

ずっと黙って控えていた女性が嬉しそうに声を掛けた。服装から判断するに、侍女のようだ。

「……うう……ここ……は……?」

「迎賓館の治癒室です! 陛下はお倒れになり、ずっと意識がなかったのですよ!」

「……そう……か……」

目を閉じるリシャール。侍女は慌てた。

「陛下! 陛下!」

だが、リシャールは再び目を開けた。

「……だい……じょう……ぶだ。……セザール……は……ぶじ……か?」

「あ、はい、ご無事でいらっしゃいます」

「そう……か。……あやつに……あと……を……つがせね……ば」

そして、譲位の意志を示したのである。

「王位を、でございますか?」

「……そう……だ」

「ですが、陛下。弟君……アラン様が今……」

侍女がリシャールに説明する。

エルザは、意識が戻ったばかりであまり心を煩わせるのはどうかとも思ったのだが、現状を思うと止めることはできなかったのである。

「……あやつ……め……」

身体を起こそうとするリシャール。

「陛下! いったい何を!?」

「……知れた……こと。……アラン……の……奴めを……止める」

脳の障害は残っているようだが、薬物が抜けた結果、判断力だけは正常にもどったようだ。

「しかし、そのお身体では!」

侍女が止めるも、リシャールは聞かない。

「……これが……王として……最後の……仕事だ。我は行かねば……ならぬ」

まだよく動かない身体を押して、ベッドから降りようとするリシャール。

その決心が固いことをエルザは知った。そして今現在、セザールが苦戦していることも知っているので、

「エドガー、陛下の手助けを、お願い」

と、リシャールをできるだけ安全にシベール館の会議室へ連れて行く方法を取ったのである。

「わ、わたしもお供します!」

付いていた侍女が叫ぶ。

「うん、一緒に」

こうして、エルザと侍女、リシャールを抱えたエドガーらは、迎賓館治癒室を出、シベール館へと向かったのである。

途中、止めようという兵士もいたが、リシャールの姿を見ると何も言わずに下がっていったので、道中は楽であった。

そして、シベール館、会議室前で、リシャールは抱き上げていたエドガーの腕から降り、自らの足で立った。侍女は後ろへ下がっている。

開く扉。

眼下の壇上には、王太子セザールと王弟アランがおり、今しも、アランがセザールをやり込めているところであった。

「セザール、もう諦めろ。誰が見てもお前が嘘をついている。次の王は私だ」

それを聞いたリシャールは、喉を振り絞り、精一杯の声を放った。

「……いや、うそ、を、ついて、いる、のは、お前、だ……!」