軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

03-20 そして念願の

(この2体、水中行動に特化していますね)

気配を殺して近づきながら、礼子は相手を観察、分析していた。

(小さい体躯、細い体型、手足の 水かき(フィン) )

2体とも同じ形式である。

(前腕の突起は攻撃力が高そうですね)

そして、5メートル程度まで近づいた礼子は、その場に身を潜めた。

あたりは水深2メートルもないような浅い場所だが、岩が多く、潜む場所には事欠かない。

(アローの気配が近づいていますね)

水中から見ていると、ラインハルトとエルザの浅底艇、気障男バレンティノ達の単胴船、そしてマルシアの双胴船の順に近付いてくるのが見えた。

その瞬間、水中ゴーレムに動きがあった。

1体はエルザ艇、もう1体は シグナス(白鳥) へと向かおうとしている。

(何をするつもりか知りませんが、行かせません)

ゴーレム相手なら礼子にはためらいという物は無い。身体をバネのようにしならせ、岩を蹴って一瞬の間に水中を移動。

まず近い方のゴーレムの脚を掴んだ。そのまま一気に握りつぶす。

(内部は空洞、ですか。お父さまのお作りになるゴーレムとは比べものになりませんね)

そしてもう一方の脚も握りつぶし、動きの鈍ったゴーレムはその場に放置し、礼子はもう1体のゴーレムに向かう。

(あの突起で艇体を切り裂くつもりですか)

双胴船を狙ったゴーレム。だが一瞬速く礼子の腕がそのゴーレムの腕を捉えた。

(この突起は鋼、軟らかいですね)

礼子はそのまま腕をねじり切った。空洞の内部に水が入り、一気にゴーレムの動きが鈍った。

(これで終わりです)

動きの鈍いゴーレムなど礼子の敵ではない。残りの腕と両脚をねじ切った礼子は、もう1体のゴーレムも同じように処理した。

心臓部の 制御核(コントロールコア) はそのままなので、犯人の特定も出来るだろう。

(さあ、お父さまに報告しましょう)

礼子は、動けなくなったゴーレムを一旦そこに放置し、仁の乗る小船に向かう。

その背後では、トップグループが何事も無く通過していったのであった。

「お父さま、全て済みました」

船縁からそっと顔を出し、礼子が報告した。

「そうか、ごくろうさん。さて、証拠のゴーレム、どうやって持って帰るかな」

「あの程度でしたら、私が引きずって帰れますが」

平然と答える礼子である。

「そ、そうか。なら、頼むとするか」

「はい」

礼子は仁に頼られるのが嬉しいようで、笑顔で行動している。

まず、ねじ切った手足を更にひねり、撚り合わせ、伸ばして不格好なロープを作り上げた。工学魔法すら使わない、強引な力業である。

それを用いて2体のゴーレムを繋ぎ合わせる。とんでもないことをやっているのだが、礼子自身は20パーセントの出力しか出していないので無自覚である。

まあ似た者 父娘(おやこ) なのかも知れない。

そうやってゴーレムを船尾に繋ぎ止めると、再び礼子は小船を背負って泳ぎだした。

「何だ、あの小船?」

「漕がないのに動いてやがる?」

今度は観光船の何人かが気付いたようだが、乗っている仁の顔までは分からず、この後も仁がこの件で追求されることはなかった。

* * *

「折り返し地点の無人島『イオ』を回ってきたトップグループ! 順位はゼッケン3、1、35、28の順です!」

実況は相変わらずのテンションでアナウンスし続けていた。

「ここからはゴールまでの最終ステージは遮る物のない高速区間ですね」

解説が入る。

広い海の上では、ゼッケン35、マルシアがゼッケン1の後ろを離れ、斜めのコースを取っていた。リーチェに進路妨害をさせないためだ。

そして一気にスパートした。

「おおっ、ゼッケン35、速い! 水飛沫が後方に飛んでいきます!」

斜めに進んだ分のロスもものともしない、 シグナス(白鳥) の快速。

「抜いた! 抜きました! ゼッケン35、チーム『MJR』、ついにゼッケン1を抜きました!」

初めてマルシアはリーチェの前に出た。焦ったのはリーチェ。

「何で!? 抜けない! そんな! あの船がそんなに性能いいなんて!」

マルシアの乗る双胴船が上げる水飛沫を浴びながら、ゼッケン1、リーチェは信じられない思いであった。

ヴァレリオ卿の作ったゴーレムを限界以上に酷使しているのに差が縮まらない。まるで悪夢のようだった。

マルシアは更に加速、トップのエルザに肉薄する。

「速い。……ライ兄が見込んだだけのことはある」

エルザは、船の絶対性能の違いを感じ、進路妨害をするのを止めることにした。

「正々堂々の勝負」

反則ではないにせよ、進路妨害は決勝戦のクライマックスには相応しくないと思ったからだ。

その代わりに、ローレライを励まし、速度を限界以上まで上げた。ローレライはそのしなやかな身体を波打たせ、水を後方へと蹴り出している。

一方、 シグナス(白鳥) では、アローが限界まで漕ぐペダルに駆動される水車が、白い水飛沫を高々と上げながら艇体を前方へ推し進めていた。

「あー、つくづく水車は効率悪いな」

遠目で見ながら仁は溜め息をついた。

一見派手だが、水飛沫が上がっているということは、水車が余計な仕事をしているということに他ならないということは以前書いた。

「やっぱり船はスクリュー、だよなあ」

スクリューを駆動するのに適した動力がまだ開発できない仁。

「研究所に帰ったらやっぱりそのへんを重点的に考えたいなあ」

前にも思ったことを考えながら、船に揺られる仁であった。

「頑張って、ローレライ」

必死にローレライを制御するエルザであったが、ゼッケン35はじりじりとその差を詰めてきていた。

やがて、

「おーばーわーくデス、ますたーえるざ」

ローレライが、限界を超えたことを告げてきた。このペースでは、ゴールまで保たないだろう。

仕方なく、エルザはローレライの出力を落とす。そしてついに シグナス(白鳥) はトップに立った。

「信じられない速さです! 今、『 青い海(ブルーマリン) 』をも抜き、ゼッケン35、今大会初めてトップに立ちました!」

「この競技が終われば、チーム『MJR』は引っ張りだこでしょうね」

無名だった『MJR』だが、優勝したとなれば、あちらこちらの金持ちや貴族が声をかけてくるだろう。

「そうですね。手元の資料によれば、操船者のマルシア嬢は、 造船工(シップライト) でもあるそうです。そしてゴーレムを作った 魔法工作士(マギクラフトマン) 、ジン氏は無名ですが、これで一気に名前が広まるでしょうね」

決勝で初めて、 シグナス(白鳥) がトップを走っている。

目ではもうその様子は見えないが、実況の声を聞き、仁は微笑んだ。

「さあ、礼子。俺達も急いで帰ろう」

マルシア達とは違うコースを選んで進むので、多少大回りになるのは否めない、が、まさかトップを行く船の横を抜いていくわけにもいかない。

仁を乗せた小船は、大きく迂回するコースを取って、港町ポトロックを目指すのであった。

* * *

ゴール地点、ポトロック中央港では、決まりつつある競技の趨勢を 魔導投影窓(マジックスクリーン) で眺めつつ、歯ぎしりをしている者が一人。

言わずと知れた気障男、バレンティノである。

「うぬう、リーチェの奴、何とふがいない! ヴァレリオ卿もヴァレリオ卿だ、あれだけの金を注ぎ込んだのに何だ、あのざまは!」

悔しそうにそう呟いた後、一転して暗い笑みを浮かべ、

「こうなったら仕方ない……」

そう呟いた時。

「バレンティノ、もうすぐゴールです。ゴール地点で競技者達を出迎えてやりに行きませんか?」

貴賓席の帳を退けてそう言ってきた者がいる。バレンティノを呼び捨てに出来る者はそうはいない。

今回声を掛けてきたのはバレンティノの上司でエリアス王国南部ザウス州の女性領主、ドミニク・ド・フィレンツィアーノ侯爵であった。

バレンティノは内心舌打ちをするが、それを顔に出すことなく、領主に従って貴賓席から下り、ゴール地点へと向かったのである。