軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22-09 外科的治療

翌1月26日、仁とエルザは朝食を終え、その日の予定について話し合っていた。

そんな時、仁たちの部屋のドアがノックされた。

「どうぞ」

礼子がドアを開けると、そこにいたのは。

「……兄様?」

エルザの兄、フリッツ・ランドルであった。

フリッツはどこか気恥ずかしそうな顔をしながらエルザに頭を下げた。

「エルザ、しばらくだったな。……そして、いつかのことは謝る。済まなかった」

「……頭を上げて。私はもう、恨んでないから」

エルザの声にフリッツは頭を上げ、次いで仁に向き直った。

「ジン殿、いや、ジン・ニドー卿にも、いろいろと失礼なことをした。謝罪したい」

そして頭を下げる。仁は慌てた。

「頭を上げてください。エルザが気にしてないなら、俺も気にしませんから」

そう言った仁に、ようやくフリッツは頭を上げた。

そして、再びエルザに向き直ると、

「エルザ、こんなことを頼めた義理ではないのだが……」

と、言いにくそうにしている。そんな兄が珍しく、エルザは首を傾げた。

「兄様、何かあったの?」

「……うむ、実は……クライン王国の女性騎士、グロリア殿が大怪我をしてな。どうも治りがよくないのだ。一度診てやってくれないだろうか?」

そしてすぐに付け加える。

「……顔から右肩にかけて、魔物の吐く液体に焼かれてしまったのだ」

「……そう」

仁とエルザは老君から報告を聞いてはいたが、フリッツの口からあらためて聞くと、やはりショックを禁じ得ない。

「……わかった。グロリアさんは知らない仲じゃない。兄様の頼みなら是非もない」

「おお、ありがとう!」

快く引き受けてくれたエルザの手を取り、フリッツは何度も頭を下げた。

そして、

「それでは俺は一旦戻る。副官のシンシア殿に言付けをして、いつなら都合がいいか聞いてくるよ」

と言い残して部屋を出ていった。

「……迂闊だったよな」

仁がぼそっと呟いた。

「熱気球で搬送した後の追跡をしてなかった。遺跡のごたごたの方を優先してしまった」

「それは仕方ない。ジン兄の責任じゃない。老君でさえ、それ以上の追跡をしなかったのだから」

エルザがフォローする。

「ジン兄が何もかも背負う必要はない。……私がなんとかする。安心して」

「うん、ありがとうな」

そんな会話をしていると、ドアが乱暴に開けられた。

「エルザ! 今ならいいそうだ。頼む!」

「……兄様、ちゃんとノックして」

「あ、ああ、すまん。……来てくれ!」

「ジン兄、行ってきます」

「うん、しっかりな」

そしてエルザはフリッツと共に治癒棟へ向かった。

グロリアの部屋の前ではシンシアが待っていた。

「お待ちしてました。エルザ様、よろしくお願い致します」

「……全力を尽くす」

「俺は外にいるよ」

フリッツは中には入らず、外で治癒が終わるのを待つ、と言った。

「失礼します」

シンシアと共にエルザは部屋に入った。そこには変わり果てた姿のグロリアが横たわっていた。

「……エルザ殿」

「グロリアさん」

互いの名を呼び合うだけの短い挨拶を交わすと、エルザは早速診察を開始する。

「『 診察(ディアグノーゼ) 』」

数回に分けて診察を続けていくエルザ。シンシアは心配そうな顔つきだ。

「……どうでしょう、エルザ様?」

「普通の治癒魔法では無理」

その言葉を聞いたシンシアは肩を落とした。

「そうですか……では、グロリア様はもう……」

だがエルザは首を横に振る。

「普通の、と言った。治す方法は1つ、ある」

「そ、それは?」

「ちょっと残酷だけど」

古傷に治癒魔法を掛けても治らないのは、その状態が固定されてしまっているからである。

これを打開するには、古傷を取り除き、2次感染を防ぎつつ、上級の治癒魔法を掛ければいい。

『 麻痺(パラライズ) 』を掛けて行えば、患者に痛みは与えずに済むだろう。

だが1つだけ問題がある。

エルザはそんな手術の経験がないのである。

(どうしよう……)

危険性を考えると不安になる。

(出血と、2次感染……それを防ぐには……)

エルザは必死に考える。

(低温? ……そう、それなら)

要は、患部の異常な組織を危険無く取り除けばいいのである。

エルザは、患部を凍結させることで壊死させ、そこに治癒を掛けることで正常な組織に戻す方法を思いついた。

現代地球でも、魚の目などの治療に、液体窒素を使って同じような事をやっている。

他にも、現代地球ならレーザー照射などを繰り返して火傷跡のケロイドを治療するやり方があるが、エルザにはそこまでの精密な照射はできない。

逆に、現代医学では不可能な超高速治癒が使えるエルザであるから、この場合は適切であると思われる。

ただ一つ問題があるとすれば、それは。

(……上手くいくかどうか、保証がない)

そう、エルザにとっても初めて行う方式の外科的治療法であること。

(ここに、ジン兄が、いてくれたら)

そう思わないでもない。

「……エルザ殿?」

考え込んでしまったエルザを訝しんで、グロリアが声を掛けた。

「……やはり、私の傷は治らないのですか?」

「……いえ。治せると思います。ただ、初めて試す方法なので、自信がなくて」

正直に打ち明けたエルザである。

「私は、我が国の陛下を見事に治療なさったエルザ殿を信じますよ。どうせこれ以上悪くなろうがあまり変わらないでしょうし」

やや自嘲気味に笑うグロリア、その様子を見たエルザは心を決めた。

「やります。任せて下さい」

「お願いする」

「『 麻痺(パラライズ) 』」

まずエルザはグロリアを麻痺させる。

「『 殺菌(ステリリゼイション) 』」

次いで患部全体を殺菌消毒。近くで見ると、ケロイドはかなり酷い。

「『 冷却(クーリング) 』」

使うのは工学魔法の 冷却(クーリング) 。対象物の温度を下げる魔法である。イメージにより強力な効果を発揮し、マイナス80℃、ドライアイスの温度以下まで下げることができる。これは水属性魔法でもあるため、生体にも効果があるのだ。

「……『 快復(ハイルング) 』」

外科系治癒魔法中級。これにより、低温で壊死した皮膚がぼろぼろと剥がれ、表皮、真皮、皮下組織を含めた皮膚が再生する。

「……うまくいった」

まず最初に、もっとも酷く焼けただれていた右肩部分に行ったところ、問題なく皮膚が再生したのである。

「これなら……!」

自信を付けたエルザは首筋、顔面、そして右胸部の治療を行っていく。

「す、素晴らしいです……」

少し離れたところから見守っているシンシアの口から感嘆の言葉が漏れた。

「『 治療措置(ハイルフェルファーレン) 』」

仕上げに、内科系高度治療を行い、体内の循環系を整えて、治療は終了したのである。