作品タイトル不明
21-42 その後……
フリッツらが、逃げ出した馬をなんとか呼び集めた時には、デウス・エクス・マキナとレイはどこにも見あたらなかった。
「マキナ……いったい何者なんだ」
一行がようやく落ち着きを取り戻したのは午後2時、もう大きく移動できる時刻ではない。
だが、 岩狼(ロックウルフ) や 牙猪(サーベルボア) が出没し、化け物に襲われたこの場所に長くとどまりたい者は誰もいないのも事実。
「少し移動するぞ!」
クライン王国調査隊隊長のベルナルドとエゲレア王国調査隊隊長のブルーノは、憔悴しきっていたため、やむなくフリッツが一行を率いることになった。
最もダメージを受けた『ゴリアス4』はなんとか歩くことだけはできそうなので、可能な限り歩かせることにした。
その日は10キロほど移動した場所にテントを張り、休息。
誰も彼も疲れてはいたが、フリッツは率先して夜警を買って出たのである。
「……フリッツ様、お疲れでは?」
もうすぐ交代の時刻となる深夜少し前、交代要員のシンシアがやって来た。
「……このくらい、何でもない」
「ですが、かなり顔色がお悪いようですが」
「……そうか? 暗いからだろう」
「少し早いですが交代いたします。お休み下さい」
「……すまない。そうさせてもらう」
心配そうなシンシアの言に、フリッツは一つ頷くと、自分のテントへと戻ったのである。
その背中を見つめながら、シンシアは小さく溜め息をついたのであった。
* * *
「ジン兄、ありがとう」
蓬莱島司令室で 魔導投影窓(マジックスクリーン) を見つめていたエルザが、ほっと息を吐き出した後、呟くように言った。
実の兄フリッツが危ないところを、デウス・エクス・マキナが救ったところを見ていたのだ。
「うん、間に合って良かったな」
仁が頷いた。
『 御主人様(マイロード) 、マキナ及びレイ、帰還しました』
「ああ、ご苦労だった」
司令室にマキナとレイが現れた。
今回のマキナは老君が操作していたのだ。そしてレイはというと。
「お父さま、ただ今帰りました」
礼子が中に入って操作していたのである。
「お帰り。どうだった、『レイ』の具合は?」
「はい……申し上げ難いのですが……あまり良くないです」
「そうか、やっぱりな……」
『レイ』の正体は礼子。両腕には『 延長(エクステンション) の 籠手(ガントレット) 』、両脚には『 延長(シークレット) の 靴(ブーツ) 』を履き、フルフェイスの兜を被り、鎧に身を包んだ状態である。
こうして体格を20センチほど誤魔化していたのだが、これで動きやすかったらその方がおかしいというものだ。
「だけど正体を知られずに行動できるんだから我慢してくれ。次回はもう少しましな物にするから」
「はい、期待しています」
全部、仁が間に合わせで用意した物だ。調査隊の危機を知り、およそ5分で全部作り上げ、マキナとレイを『転送機』で現場へ送り込んだ。
そしてなんとかフリッツの危機に間に合ったというわけだ。
帰りは、少し離れたところに 転移門(ワープゲート) 搭載の『ペリカン1』を送り込み、蓬莱島へ戻ってきた、とこういう手順である。
「老君、アン、それで、あの怪物については何かわかったか?」
『はい。魔導大戦時の遺物……失敗作なのは間違いないでしょうね』
「『ギガース』の亜種のようなものか」
仁の呟きにアンが同意する。
「私もそう考えます。『ギガース』と同様、作ってはみたが使い勝手が悪すぎた、廃棄するのは惜しい、なら使い途が見つかるまで保管しておこう、と、こういう背景ではないかと」
色々な可能性を検討してみた結果、そういう結論に達したということである。
石のように見えたものが特殊な『 魔力核(コア) 』だったのだろう。
仁もその可能性が高そうだ、と頷いたのである。
「だけど跡形もなくしちまったな」
「はい、あの場合は仕方ないかと」
工学魔法『 加熱(ヒート) 』に見せかけてあるが、その実は『 超冷却(アブソリュートゼロ) 』と対極をなす、『 超過熱(オーバーヒート) 』。原子がプラズマ状態になるまで対象物の温度を上げてしまう魔法だ。
このため、対象がどんな物質だろうと、後腐れ無く無害になってしまうのである。
「……旧レナード王国にはまだそういう遺物が眠っている可能性もありますね」
アンが付け加えた。
「そうだな。老君、今回の遺跡について、何かまだ残っている可能性もあるから追調査しておいてくれ」
『わかりました。今回の出来事を踏まえて、既知の遺跡も調査するように致します』
第5列(クインタ) を使い、旧レナード王国の遺跡調査を進めている老君であるが、住民に知られている遺跡は後回しにし、未知の遺跡の探索を優先していたのである。
そのため今回のような事が起きてしまい、老君もやり方を改めようというのだ。
「任せる」
仁は頷いた。更にアンが助言を口にする。
「ごしゅじんさま、それに加え、セルロア王国の動向にも注意した方がいいと思います。あの国にも遺物は沢山あるはずですから、それらを研究していて事故を起こさないという保証はありませんし」
「わかった。老君、セルロア王国での 第5列(クインタ) に伝えておいてくれ。必要なら数を増やしてもいい」
『わかりました』
そして仁は、気になっている事を尋ねた。
「ああ、あと、グロリアはどうなっている?」
『はい。応急手当のあと、熱気球で最寄りの町へ運んだあとは 追跡(トレース) しておりません。調べますか?』
「そうだな……緊急性がなければ慌てなくていいか。命に別状はなさそうなんだろう?」
それに関しても楽観的な回答が返ってくる。
『はい。腐食液による火傷のようなものですから、上級治癒魔法で治ると思われます』
「それなら、いつでも見舞いに行けるように、居場所だけは把握しておいてくれ」
『そのように取りはからいます』
* * *
一晩を過ごした調査隊は、予定通りに南北に別れることになる。
クライン王国調査隊は南へ、つまりエゲレア王国へ。
エゲレア王国調査隊は北へ、つまりクライン王国へと。
それぞれ首都まで行き、各王に謁見する予定である。
「フリッツ殿、お世話になった。またいつか、会えるといいな」
「貴殿たちのおかげで、クライン王国への道が拓けた。感謝する」
「元気でな。また会おう」
その後は大きな事件もなく、エゲレア王国調査隊は北上。
そしてクライン王国調査隊も、2日後の1月18日、国境を越え、ヨークジャム鉱山を経てライトン村に至ったのである。
「これで役目も終わりか……」
独り呟くフリッツ。
クライン王国調査隊に協力するという役目も、無事とはいえないが終わったのである。
「……フリッツ様、本当にお疲れ様でした」
「ああ、シンシア殿か。貴女方も慣れない遠征で大変だったろう」
「……はい、それはもう。1泊程度の遠征しかしたことがなかったですから。グロリア副隊長と違って」
グロリアの名が出ると、フリッツは僅かに顔を 顰(しか) めた。
「グロリア殿か。そういえば、この剣も返さないといけないな」
フリッツの腰には2振りのショートソードが提げられていた。1振りは自分のもの、もう1振りはグロリアの剣である。
「グロリア殿はどこで治癒を受けているんだろうな?」
「……気になります?」
少し寂しそうにシンシアが尋ねた。
「うん、やはり気になるかな」
「……そうですか……」
俯くシンシア。そんな彼女を見咎め、フリッツが訝しげに尋ねた。
「ん? どうかしたのか? 元気がないようだが」
シンシアは苦笑しながら返答する。
「……ほんと、気が利くんだか利かないんだかわからない人ですね」
「え?」
「いえ、何でもないですよ。副隊長ですけど、おそらくグロゥリの町に搬送されたと思います。そしてそこから首都アスントへ行ったのではないかと思います」
「ふむ、そうか。どのみち王都へは行かねばならないからな。その時に剣を返し、見舞いもできるだろう」
「……でしたら、もうしばらくご一緒できますね」
その言葉を口にする時のシンシアは幾分嬉しそうであった。
「ああ、そうだな。もう『調査隊』ではないが、アスントまでよろしく頼む」
「こちらこそ」
あと少し、2国混成の部隊は共に歩を進めるようだ。
季節は寒さの続く1月。まだ春の足音は聞こえてこない。