軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21-40 もどき

1月15日、午前10時。

『 御主人様(マイロード) 、緊急事態発生です』

工房にいた仁は老君の声に顔を上げた。

泊まっていたラインハルトとエルザも、工房にいて、同様に耳を傾ける。

「いったいどうしたんだ?」

『はい、旧レナード王国調査隊が大変な事に』

「何だって!」

「……兄様たちも?」

『はい。画像をごらん下さい』

魔導投影窓(マジックスクリーン) に映されたのは、上空からスカイ21が撮影した画像。

「な、何だあれは?」

『魔導生物ではないか、と推測しますが詳しいことは不明です』

* * *

「な、何事!?」

いきなり背後の土が吹き上がったことで、全員が驚いて振り返った。その目に映ったのは半透明の 岩狼(ロックウルフ) 。

いや、 岩狼(ロックウルフ) の形をした『何か』だった。

「あ、あれは!?」

「 岩狼(ロックウルフ) ? いや、違う!」

形だけは 岩狼(ロックウルフ) に似てはいるが、その体表面を覆っているのは毛皮ではない。ぬめっとしたテカり方がそれを証明している。

そんな 岩狼(ロックウルフ) もどきが18体、土を蹴散らして現れたのである。

「……まさか……!」

その質感には全員覚えがあった。あの謎の半流動体である。

* * *

「老君、何、あれ?」

魔導投影窓(マジックスクリーン) を眺めたエルザからの質問。事ここに至るまでの事情を知らないのだから無理もない。

『推測になりますが……』

ずっと観察を続けていた老君は、まずこれまでの経緯を簡単に説明する。

「ふうん、あの持ち出した容器の中身を捨てたのか」

『はい。そしてそれを掘った穴に全て廃棄したのです。つまり、期せずして容器の中身を混ぜ合わせたということになりますね』

それを聞いた仁は、思いつくことがあった。

「それって、もしかして、魔導大戦時の……」

『はい、 御主人様(マイロード) 。私もそう思います。魔導大戦時の不完全な兵器ではないでしょうか』

かつて、『ギガース』と言う名称の魔導兵器があった。周囲の 魔力素(マナ) を取り込み、自らのエネルギーに変えるという怪物である。

同じく、ここに封印されていたものも同様のものではないか、と老君は推測した。

不完全な情報からの推測ではあったが、仁にも、それはかなり的を射ているのではないかと思われた。

『捨てるに惜しく、使うに危険。苦肉の策として辺境の穴蔵に封じ込め、注意書きを添えていたのではないかと』

「うーむ、そして歳月が流れ、何を封印していたのかも伝わらなくなり、注意書きも散逸した……」

『はい、そう推測いたしました』

とはいえ、怪物の由来が推測できただけで、事態の解決にはならない。

念のため、アンに尋ねてみたが知らないということであった。

『半流動体の原形質に似たもの。硫酸に似た腐食液。灰色の石。そして 岩狼(ロックウルフ) の死骸』

それらを一つの穴に廃棄したところ、 岩狼(ロックウルフ) の姿をした化け物ができあがった。

『 岩狼(ロックウルフ) でなく人間を加えていたら……』

「ありうるな」

魔導大戦時の兵器だとすれば、敵の死骸を取り込み、敵の姿を模倣する怪物を作り出したとしてもおかしくはない。

「だとすると、その灰色の石というのが鍵か」

『その可能性は高いです。 制御核(コントロールコア) 、いえ、 魔力核(コア) に相当する物ではないでしょうか』

そこまで仁と老君が推測を進めていった時。

「兄様!」

エルザが悲鳴に近い声を上げた。

* * *

「うわあ!」

岩狼(ロックウルフ) もどきの動きは、元となった 岩狼(ロックウルフ) に比べたらやや遅い。

だが、襲ってきた 岩狼(ロックウルフ) もどきを斬り付けたところ、剣が溶かされてしまったのである。

瞬時に溶けて無くなったわけではないが、剣幅が3分の2ほどになってしまっていた。薄い刃の部分が溶かされたのである。

「腐食液を吸収したのだからな……。ということは迂闊に触れないぞ!」

その様子を見たフリッツが顔色を変えた。

「『ゴリアス』も溶かされてしまうだろうからな……」

触れられない、剣で斬ることもできない、ということは攻撃手段が魔法しかないということ。

「『 風の刃(ウインドカッター) 』!」

だが、元々が半流動体、風属性の魔法とは相性が悪い。 岩狼(ロックウルフ) もどきは、切り裂くそばから回復してしまっていた。

「火属性の攻撃魔法を使える者は攻撃してくれ!」

後ろに下がって距離を取ったフリッツは、全員に聞こえるような声で指示を出した。

「『 火の弾丸(ファイアバレット) 』!」

その言葉に呼応し、火属性の中級魔法が放たれた。それは狙い過たず 岩狼(ロックウルフ) もどきに命中。

だが、その程度では 岩狼(ロックウルフ) もどきを倒すには至らなかった。身体を半ば消失したものの、次の瞬間には元の形状に戻ってしまう。

さすがに大きさは縮んでいたものの、決定的なダメージとはなっていなかった。

気落ちする騎士たち。

更に悪いことに、馬が驚いて逃げ出してしまったのである。今しも出発しようとしていた矢先のことで、繋がれていなかったためである。

これで逃げる手段は己の足と『ゴリアス』、それに空に浮かぶ熱気球ということになる。

「『 火の弾丸(ファイアバレット) 』!」

再度の攻撃がなされるが、 岩狼(ロックウルフ) もどきは怯んでいない。少々身体を焼かれても、大きさが少し縮むだけで、すぐに元に戻ってしまうのだ。

「いや、まったく効いていないわけではない! 続けて放て!」

そう、大きさが縮んだということは弱体化したことになるのだろう。フリッツはともすれば挫けそうになる騎士たちを鼓舞し続けた。

そこに、騒ぎに惹かれたのか、はたまた迷い込んだだけなのか、1頭の『 牙猪(サーベルボア) 』が現れた。

牙猪(サーベルボア) は体長2メートルほどの猪であるが、1対の巨大な牙を持ち、興奮すると突撃してくる。

この 牙猪(サーベルボア) も、 岩狼(ロックウルフ) もどきに驚いたのか、突進して攻撃を仕掛けた。

その突進を受けた 岩狼(ロックウルフ) もどきは、巨大な牙に貫かれたと思ったその瞬間、形を崩し、粘性流動体に戻る。そして 牙猪(サーベルボア) を包み込んだのだ。

半透明なので、包み込まれた 牙猪(サーベルボア) がどんな運命を辿ったのかが観察できた。

見ている間に毛皮が溶け、肉が崩れ、骨が溶解する。そして、 岩狼(ロックウルフ) もどきだった粘性流動体は、 牙猪(サーベルボア) もどきに姿を変えたのである。

「奴は取り込んだ相手の姿になれるのか!」

誰かが叫ぶ。これでは、接近戦を仕掛けるのは自殺行為だ。

「『ゴリアス5』! ジェードと女性を乗せろ!」

フリッツが命を下す。

『ゴリアス』の1体が屈み、両手を差し出す。そこにジェード・ネフロイと、女性騎士2名が乗った。

そして立ち上がる『ゴリアス』。

さしあたり、まるで戦闘に向かない3人の安全を確保したフリッツは、ロングソードを構え直した。

今のところ、『ゴリアス』は攻撃されていない。攻撃対象になっているのは生物だけのようだ。

「全員でゴリアスの上に上がったらどうなるか……」

岩狼(ロックウルフ) もどきの攻撃を避けながら、フリッツは頭の隅で考える。だが、その考えを実行するには至らなかった。

岩狼(ロックウルフ) もどきが、『ゴリアス5』に群がり始めたのである。その手の上に乗っている3人を狙っているのは明らかだ。

その時、上空から『 炎玉(フレイムボール) 』が降ってきた。熱気球からの攻撃だ。

ようやく何が起きたのか察し、援護を始めたようだ。

岩狼(ロックウルフ) もどきの1頭が『 炎玉(フレイムボール) 』をまともに喰らい、炎に包まれた。