軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21-19 蓬莱島の元日

当然、蓬莱島にも新年は巡り来る。

カイナ村で楽しい元日を過ごした仁とエルザは、同日夜、蓬莱島にやって来た。

『 御主人様(マイロード) 、明けましておめでとうございます』

「明けましておめでとうございます」

「明けましておめでとうございます」

蓬莱島を預かる魔導頭脳『老君』以下、ゴーレム達が2人に向かって挨拶をした。

「ああ、明けましておめでとう。今年もよろしく頼む」

『はい、もちろんです』

「新年と言うことで、今年の抱負を述べてみようと思う」

『拝聴いたします』

「まず、崑崙島を正式に俺の領地としたい」

「どういうこと? ジン兄」

当然なエルザの疑問。正式にも何も、崑崙島を知っているのは仁と仁ファミリーだけであるし、他のどんな既知勢力が来ても奪取できるとは思えないからだ。

「ああ、正式に、というのは、各国に認めさせる、という意味だ」

『わかりました。本来の拠点である蓬莱島を隠すためですね?』

「その通りだ」

元々、蓬莱島のダミーとして開発した崑崙島である。そこには仁と仁の師匠が暮らしていたことになっているのだ。

『今の国々なら、概ね認めそうですが、問題はセルロア王国とフランツ王国ですね』

「そういうことだな。だが、それを話し合う前に、もう一つの目標を話そう」

『はい、 御主人様(マイロード) 』

「旧レナード王国を再興し、王と王妃にはアーネストとリースを据えたい」

『なるほど、隣接するクライン王国とエゲレア王国それぞれの血縁ある統治者を据えるということですね』

老君は仁の構想をきちんと理解しているようだ。

「理解できる。そうなると、崑崙島はレナード王国の東にあるから、ジン兄がレナード王国建国に力を貸していればおそらく領土問題にはならない」

今度はエルザが正解を口にした。

「ああ。それに、セルロア王国を通らずにクラインとエゲレアを行き来する街道も整備できる」

『いい目標ですね。行動の指針が明確になります』

そのためにクリアすべき問題が明らかになる分、老君も動きやすくなるというもの。

「ああ。まず、年明けに、クライン王国から旧レナード王国を調べる動きがあるというしな」

『はい。1月3日に出発するという情報を得ています。メンバーの一人はグロリアさんですし、相談役としてローランドさんも参加されるとのことです、ショウロ皇国からはフリッツさんが、『ゴリアス』を率いて協力されるようですよ』

「え、兄様が?」

ショウロ皇国から『ゴリアス』を率いてクライン王国に『乾燥剤』を運んだ責任者はエルザの実の兄、フリッツだったのである。

また、ローランドは商人として旧レナード王国を何度か訪れたことがあるため、案内や、現地の者たちとの折衝を任されたらしい。だが、民間人を徴用するあたり、人材不足が感じられる。

「あと、フランツ王国にレジスタンス組織があったよな?」

『はい。レグルス41を潜入させています』

「ああ、それはいいな。例えばだけど、そういう不満分子をレナード王国再興時に国民として受け入れる、とかな」

『なるほど。それでしたら、『 懐古党(ノスタルギア) 』も使えると思います』

「それは言えるな」

そして更に続ける仁。

「あとは細かいことになるから、抱負とはちょっと違うかな」

「でも、聞かせて」

エルザの要請に仁は答える。

「ああ、資材の管理とか、環境への配慮とか」

「……気にしてる?」

エルザが言っているのは、『シャチ』を作った際に指摘した、蓬莱島の資材の使用状況のことである。

「少しは、な。でもまあ、必要なものが大半だったと思ってるから浪費じゃないと思……いたい」

最後の方は少し声が小さくなった。

「で、それらのために、 自由魔力素(エーテル) に関してもっと調べたいと思っているんだ」

「……なぜ?」

「俺のいた世界では、けっこうエネルギーの枯渇とかが問題になっていたんだよ。 自由魔力素(エーテル) も、 魔素暴走(エーテル・スタンピード) で激減した事を考えると、無尽蔵というわけでもなさそうだしな」

今でこそ、無公害なエネルギー源として、仁たちは好き勝手に使っているが、もし枯渇したら、この世界の根底が揺らぐことになる、と仁は考え始めていた。

『仰ることはよくわかります。今のところ、海中での分布は大気中と変わらないこと、それに成層圏あたりまでも地表とほとんど変わらない、とわかっていますが』

「ああ、それは確かにいい傾向だよな。おそらく、宇宙空間にもある程度は分布するんだろう。なら、なぜ北に多く、南に少ないのか? こんな事すらわかっていない」

「なら、700672号に聞いてみるのは?」

『サーバント700672号』。彼は、魔導士の『 始祖(オリジン) 』が作り上げた人造生命体、いわゆる『ホムンクルス』。

今、仁たちがいるアルス世界でもっとも古い存在と言える。

「うーん、わからないからって聞くのは、正直情けないし、依存心ができるのもまずいと思っているんだが」

「お父さま、今回は特別ではありませんか? この世界の根幹に関わることですし」

礼子が助言をしてきた。老君もそれに同調する。

『 御主人様(マイロード) 、そのとおりだと思います。今回の質問内容は、放っておいていいことではないのですから』

「うーん、そうか」

礼子と老君から言われた仁は、エルザの顔をちらと見ると、彼女も頷いた。これで仁の心も決まった。

「よし、わかった。これから行ってこよう」

700672号のいる場所はわかっている。もう飛ぶことのない『天翔る船』内部、『白い部屋』だ。

仁が整備し、 転移門(ワープゲート) も設置してあるから、すぐに行くことができる。

「ジン兄、私も連れて行って。魔力過多症が治ったのもその700672号のおかげだし」

「よし、わかった」

ということで仁は、手土産代わりのペルシカジュースを持つと、礼子とエルザ、エドガーを伴って転移した。

* * *

「……ここが……『天翔る船』……」

転移門(ワープゲート) は『白い部屋』の手前に設置してある。

転移すると、 転移門(ワープゲート) を保守し、『天翔る船』を調べている 職人(スミス) 32と33が出迎えた。彼等は交代でここにやって来ているのだ。

「ようこそ、ご主人様」

「ご苦労。変わった事はないか?」

「はい、ございません」

「そうか」

短いやり取りを交わすと、仁は『白い部屋』の扉に手を当てた。

仁を認識した扉がゆっくりと開いていく。

「……ジン様ですか?」

扉の向こうに立っていたのは白い少女、ネージュだった。

「ああ、ネージュ、久しぶりだね。君の父さまに会いに来た」

「はい、どうぞ。レーコさんも久しぶり。……そちらの方は、どなた?」

エルザとエドガーを見て、ネージュは少しだけ身を固くした。

「彼女はエルザ。そしてそっちはエドガー」

「エルザさん、とエドガー?」

「そう」

エルザは頷いて見せた。

「私は、あなたの父さまのおかげで、病気が治ったの。それで、一度お会いしてお礼が言いたかったから」

それを聞いたネージュの顔が綻んだ。急に機嫌が良くなったようだ。

「そう! わかったわ! 父さま、父さま!」

部屋の奥に向かって少し大きな声で父を呼ぶネージュ。どうやら、700672号は寝たきりから回復したらしい。

「どうした、ネージュ? ……おお、ジン殿ではないか」

「ご無沙汰してます」

部屋の奥からゆっくりした足取りで歩いて来た700672号は、仁を認めると、嬉しそうな顔になった。

「よく来たよく来た。見せたいものがあるのだ」