軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21-12 捜索隊

「何だって! マルシアが……遭難!?」

アローの説明を聞いたロドリゴは席を蹴って立ち上がり、表へ飛び出そうとした。

それを止めたのは仁。

「ロドリゴさん、落ち着いて下さい」

「ジン殿、これが落ち着いていられますか。娘が、遭難したんですよ! 生死さえわからないというのに!」

「娘!?」

「娘ですって?」

その叫びを聞いて、ジェレミーとバッカルスは驚いている。

「ああ、こんな時で何だが、ロドリゴさんはマルシアのお父さんなんだ。……それよりも……よし!」

仁は工房の奥に行き、バッカルスを呼ぶ。

「バッカルスさん、この工房に、ゴーレムの材料なんか置いてないですか?」

「え? ええ、そりゃ、少しは……」

「見せてください! 早く!」

仁の剣幕に驚いて、バッカルスは工房奥の半地下庫へ案内する。貴重な素材をしまってあるスペースだ。

「ああ、青銅があるな。……これは? …… 凶魔海蛇(デス・シーサーペント) の革か! 使えるな。それに、 魔結晶(マギクリスタル) ! よし、これならいいぞ」

仁は必要な素材を取り出すと、礼子に手伝わせて持ち出した。

「アロー、修理してやるぞ」

そう断って、もう一度アローを停止させる。そして 全力で(・・・) 修理に取りかかった。

破損した腕の骨格を作り、 魔法筋肉(マジカルマッスル) を取り付け、魔導神経を配線していく。

補助の 魔素変換器(エーテルコンバーター) を取り付け、出力を1.5倍まで持っていく。最後に、全体のメンテナンスを行って完了。

ここまで10分かからない早業である。

見ているロドリゴ、ジェレミー、バッカルスらはあんぐりと口を開いたまま。

「よし、『起動』」

「はい、 製作主(クリエイター) 様」

「アロー、調子はどうだ?」

「はい、とてもいいです。ありがとうございます」

それを聞いた仁は頷く。

「よしアロー、それなら『シグナス』を使って、遭難した海域へ行けるな?」

「はい、もちろんです」

「よし、それなら、全力でシグナスを運転してマルシアを捜しに行くんだ」

アローとマルシアの間には、極々微弱ながら、魔力的な繋がりがある。仁はそれに賭けることにした。

「わかりました」

もちろん、仁は仁で全力を尽くすつもりである。

(礼子、老君に連絡し、マーメイド部隊と 空軍(エアフォース) を出動させろ。 空軍(エアフォース) は 不可視化(インビジブル) を使わず、高空から探索だ)

不可視化(インビジブル) を使った場合、可視光線に制限がかかるため、視認性が悪くなるからである。

こうして仁は、蓬莱島勢に指示を出した後、自らも捜索に動き出す。

まず、仁は工房の表に看板として立てかけてある『シグナス』を、礼子とアローに指示してそっと持ち上げさせ、海に浮かべた。

調子が落ちていないことは確認済みである。

「よし、アロー、行け!」

仁がアローに命じた、その時。

「じ、ジン殿、私が乗ってはいけないでしょうか?」

ロドリゴが聞いてくるが、仁は首を横に振った。

「駄目です。『シグナス』は2人乗り。アローが乗り、マルシアを救助したとしたら定員オーバーになります」

「そ、そうか」

がっくりと項垂れるロドリゴ。だが仁はそんな彼に言葉を掛ける。

「ロドリゴさん、これから急いで迎賓館に戻りましょう。そして俺の飛行船に乗り、空から捜索するんです」

「おお! その手がありましたね!」

今度は元気になったロドリゴ、今にも走り出さんばかりだ。仁はジェレミーとバッカルスに向き直り、指示を出す。

「マルシアを見つけたら全力で戻ってくるから、ここで待機していてくれ」

「は、はい!」

あまり余計な事をされても邪魔になるので、仁はそんな指示を出したのである。

「さあロドリゴさん、行きましょう」

「おう!」

仁たちは走り出した。

仁は、細胞が活性化され、その気になれば身体強化により超人的な体力を発揮できる。礼子は言わずもがな。

対してロドリゴは普通の中年男である。

「ふう、ふう……」

5分も走らないうちに息を切らし、速度がめっきり落ち込んだ。

「礼子、面倒だ、抱えていけ」

「はい、お父さま」

「すまないね……う、うわっ!」

ロドリゴを抱え上げた礼子。仁は心置きなく疾走を開始した。その速度、時速30キロ。礼子と違って仁は生身なので、それ以上は危なくて街中で出せなかったのである。

それでも、8キロ弱の距離を15分ほどで踏破。慌ただしく迎賓館の門を通過した仁たちは、飛行船を固定してある中庭へと向かった。

中庭では、老君から連絡を受けていたスチュワードが、離陸準備を整えて待っていた。

「ご苦労。ロドリゴさん、行きますよ!」

「……あ、ああ」

礼子に抱えられて、経験したことのない速度で地上を疾駆してきたロドリゴは半分魂が抜けたような顔であった。

それでも、これから娘を捜しに行くというその想いでロドリゴは立ち直る。

何ごとかと出てきた衛兵に、仁は、

「海で遭難した人を助けに行ってくる」

とだけ告げ、離陸した。

通常飛行の最高速度、時速100キロで飛ぶ飛行船。60キロなら36分で飛ぶ。

一方、アローの駆る『シグナス』も、時速50キロ近くで疾走している。時間差と速度差を考え合わせると、ちょうど良いくらいだ。

「マルシア、どこだ……!」

ロドリゴは、初めて空を飛んだ感激よりも、娘の心配が先に立ち、ずっと海を見下ろしている。

仁はバックアップ要員として、蓬莱島からマーメイド部隊を転送機で派遣するよう老君に指示を出していた。

そしてイオ島を過ぎ、トリュ島に差し掛かる。

「遭難したのはこのあたりのはずだが……」

上空から見ても、何も見つからない。アローの駆る『シグナス』さえも見あたらない。

「と、すると、やはり海流に流されたか……」

冷静に判断する仁と対照的に、ロドリゴは目を血走らせて海面をのぞき込んでいる。

「マルシアー!」

ロドリゴの様子を見ていると、普段の温厚さは微塵も無い。

乗り出しすぎて、今にもゴンドラから落っこちそうで、仁は礼子に指示してロドリゴの腰に命綱を縛り付けさせたくらいだ。

そして、仁は飛行船を北へと向けた。

そのまま移動すること5分。

「あそこに『シグナス』が……!」

ずっと下を見ていたロドリゴが指差し、叫んだ。

それは確かに『シグナス』だった。

更に驚いたことには、マルシアらしき人影が乗っているではないか。

アローは、見事に主人であるマルシアを見つけ出したのであった。魔力的絆に賭けた仁の読みは見事に当たったのである。

「やるなあ、アロー」

アローは、仁たちが乗る飛行船を見上げ、手を振って見せた。

「お父さまがお作りになった、わたくしの妹ですもの」

礼子まで誇らしげである。

礼子も、かつて世界を巡って仁を捜し出した、その記憶を思い出していたのかもしれない。

『シグナス』目指して少し飛行船の高度を落とす仁。

「……間違いなくマルシアさん、ですね」

礼子がその視力にものを言わせ、『シグナス』の上の人物を確認した。仁は更に飛行船を近づける。

マルシアに間違いないのはいいが、その右脚は血にまみれており、意識も無いようだ。一刻も早く治療しないと危ないかもしれない。

と、その時。

「マルシアー!」

いつの間にか命綱を 解(ほど) いていたロドリゴが、飛行船のゴンドラから海目掛けて飛び込んだのである。

その高さはまだ10メートルほどある。

仁が止める間もない、あっと言う間の出来事であった。