作品タイトル不明
03-09 真価
やがて火はすっかり消え、あたりには焦げ臭い臭いが立ちこめた。
「ラインハルト、ありがとう」
仁はラインハルトに近寄り、礼を述べる。
「やあ、ジン。ここは君達のドックだったのかい?」
「ああ」
「そうか……僕が煙に気が付いた時にはもう火が出ていて、どうすることも出来なかった」
「いや、消し止めてもらえただけでありがたいよ」
そう言う仁に向かってラインハルトは残念そうに、
「しかし、中には君達の船があったんだろう? これではもう灰になってしまったんじゃ……」
「え?」
「えっ?」
何を言ってる、と言わんばかりの仁の反応、そしてそんな反応が帰ってくると思わなかったラインハルト。
「ああああーっ! あたしの船が!!」
そこに、マルシアの叫び声が響き渡った。
「何で……なんでこんなことに! あたしが何したってんだよ! やっとの思いで完成した船が! ちくしょう!」
大粒の涙を流し、地面を叩くマルシア、仁はそんなマルシアに近寄り、
「マルシア、泣かなくてもいいぜ」
ぽんぽん、と肩を叩いてそう告げたのである。
「……ジン」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになったマルシアの顔を、ハンカチで拭いてやりながら仁は、
「アロー!」
と大声で呼んだ。と、
「ハイ」
と返事が返ってくる。だが、なぜか背後から。
「ほら」
仁が後ろを指差す、その先には、海に浮かぶ『 シグナス(白鳥) 』があった。
「な、何で……」
唖然とするマルシアであるが、仁は平然と、
「アローは自律したゴーレムだからな。船を守るのは当然じゃないか」
「ハイ。カサイガハッセイシタノデ、イソイデウミニフネヲタイヒサセマシタ。ヘサキガスコシコゲテシマイマシタガ」
「そうか、御苦労だった」
へさきが焦げた位すぐに直せる。船が無事だったのを見たマルシアは、今度は安堵の涙を流していた。そんな仁達に、
「いやあ、ジン、君の作ったゴーレムかい? 見事だな! 自律思考が出来るゴーレムを作れるなんて! 我が国にだって何人もいないよ!」
「……誰?」
ラインハルトを見て怪訝そうな顔をするマルシアに、仁は、
「昨日知り合ったラインハルト。ショウロ皇国の 魔法技術者(マギエンジニア) だってさ。火を消すのを手伝ってくれた。というか1人で消してくれた」
「そう、か。あたしは 造船工(シップライト) のマルシア。よろしく」
そう言ったマルシアに向かってラインハルトは軽く礼をして、
「これはこれは。ジンの紹介通り、ショウロ皇国の 魔法技術者(マギエンジニア) 、ラインハルト・ランドルと申します」
そこへ、野次馬をかき分けて、警備隊が3人やってきた。
「火事は消えたようだな。関係者はいるか?」
隊長らしき人物からそう尋ねられたので、
「ドックを借りていたマルシアだけど」
「同じく、仁」
「ラインハルト。ショウロ皇国の 魔法技術者(マギエンジニア) だ」
と、その隊長は、
「ん? あなたは確か、ゲストの……」
ラインハルトは笑って、
「知ってるのか。そうとも、僕は今回のゴーレム艇競技に招待されたショウロ皇国の者だ」
すると隊長は敬礼をして、
「失礼しました! ですが、貴殿のドックは港の中央部ではありませんでしたか?」
「ああ。僕は、たまたま通りかかって、火事に気が付いたので魔法で消し止めたんだ」
すると隊長は再度敬礼をし、
「それはそれは! 感謝致します」
そしてマルシアと仁に向かい、
「事情聴取をしたいから詰め所まで同道してもらおう」
と、明らかにラインハルトとは違う態度で接してきた。
仁は小声で礼子に、
「後のことを頼む。これ以上船に何かさせるな」
と指示を出し、港を出て、街区の外れにある詰め所へと向かうのだった。
* * *
野次馬が散っていく中、礼子はあたりに気を配っていた。得体の知れない魔力を感じていたからである。
そして、それを感じ取ったのは礼子だけではなかった。
「何だ? この感じ」
ショウロ皇国のラインハルトもまた、異様な魔力を感じていたのである。
* * *
一方、警備隊の詰め所では事情聴取が行われていた。
「だから、あたしは午前中は漁の手伝いでいなかったんだってば!」
「俺も、適当に遊んでから港へ来てみたら火が出ていたってわけで」
仁もマルシアも不在の時の火災である。
「ふむ、しかし、火元がお前の借りているドックからだということは間違いない」
「だから、ドックに火の気なんて無いって!」
「それは間違いないですよ。俺は火なんて使わずに加工するし」
「うーむ、そうすると放火という事になるが」
今一つ煮え切らない雰囲気の警備隊隊長である。仁はだんだんと苛立ってきた。
「とにかく、自分で自分の船に火を付けるわけはないんだから、放火か失火、どちらかでしょう?」
仁は自分からそう切り出してみた。
「う、うむ。まあ、そうだが」
ここぞと仁は、
「他のドックが無事だったことから、ゴーレム艇競技に出場する予定の我々を狙った放火と言う可能性だってあるんじゃないですか?」
すると、
「ええい、うるさい! 貴様なんぞに指図されるいわれはない!」
いきなり怒り出す隊長。これは少々変だ、と仁は思う。以前、仁のいた孤児院が脱税しているというデマを鵜呑みにして調べに来た税務署員が似た雰囲気を出していた。
そこで仁は、
「俺の造ったゴーレムは自律型です。あいつに聞けば、何か有益な情報が得られるかも知れませんよ?」
そう言ってみる。すると隊長は驚き、
「何? お前はそんな高度なゴーレムを作れるというのか? ……それなら確認する価値がありそうだ」
そこで、警備隊隊長は、
「よし。マルシアと言ったな、お前は残れ。そしてジンだったか、お前は付いてこい」
そう言って、他の隊員にマルシアを任せ、自分は仁と共にもう一度貸しドックのある区域へと向かうのであった。