軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18-27 献上品

10月29日の朝は快晴だった。

「ああ、よく寝た」

「おはようございます、お父さま」

「ああ、礼子、おはよう」

仁は大きく伸びをすると、布団から起き上がる。寝間着を用意してなかったので下着姿だ。仁は手早く服を身に着け、洗面所へと向かった。

「それでは私は朝食の仕度をしてまいります」

礼子は台所へ向かう。

「昨日は疲れていたせいか、よく寝たな……」

仁としては、ショウロ皇国の 古代遺物(アーティファクト) である巨大ゴーレムの修理よりも、家の改造の方がより熱中し、疲れる作業であった。

「ジン兄、おはよう」

「ああ、おはよう」

エルザも起きてきて、一緒に顔を洗う。タオルがないことに気が付き、仕方なく工学魔法『 加熱(ヒート) 』と風属性魔法『 風(ブリーズ) 』で乾かす。

「……これ、温風乾燥機に使えるな」

などと新しい生活用魔導具のことを考えながら、仁とエルザは台所へ向かった。

食材はまだ買いそろえていないため、老君が蓬莱島から送ってきたものを使い、礼子が用意した物はといえば、パン、シトランのマーマレード、豆のスープ、ベーコンエッグ、サラダ、フルーツジュース。

仁もエルザも食べ慣れた味である。

「ジン兄、今日はどうするの?」

フルーツジュースを飲みながらエルザが尋ねてきた。

「うん、バロウとベーレをこっちに呼んで、ハンナも呼んでやろうと思ってる」

こくん、と頷いたエルザはジュースの入ったコップを置き、

「そうなると、この館に飛行船の発着所が欲しい」

と言う。

「あー、確かにな。……作るとすれば……」

やはり屋上だろう、と仁は思った。

「今ある屋根を取っ払って 陸(ろく) 屋根(平らな屋根)にするか……いっそ、ちゃんとした屋上にしてしまうか」

などと考えた末、屋上を作ることに決定。

「改造はともかく、発着の件はさすがに許可もらわないとまずいだろうな……」

宮城(きゅうじょう) に飛行船を取りに行くついでに、許可を取り付けてしまおうと仁は画策した。

「……この前考えていた『 解毒(エントギフテン) 』の魔導具を作って献上するかな」

皇族や政府要人なら必要とするであろうから、これはいけると仁は思った。

早速蓬莱島から 魔結晶(マギクリスタル) を取り寄せる。

「エルザ、形は何がいいかな? 指輪? 腕輪? ペンダントかな?」

相談されたエルザも少し考える。

「……解毒という事を考えると、身体の中心部に近い方がいいと思う。指輪より腕輪、腕輪よりネックレス」

「なるほどな。なら、ペンダントトップにするか」

使い方を説明し、胸の前に来るように鎖の長さを調整してもらえばいいだろう、と仁は言った。

「ん。それがいいと思う。チェーンはミスリル銀で」

「わかった。じゃあデザインはエルザに任せる。俺はまずチェーンを作ってしまおう」

ミスリル銀も取り寄せ、仁はネックレス用のチェーンを作製。喜平チェーンと呼ばれるデザインだ。普通の鎖の駒を90度捻って平たくした物。

仁もこの鎖の名称だけは知っていた。

ミスリル銀は無垢では強度が弱いので、銅を混ぜた925ミスリル銀。かつてエルザの誕生日に贈った短剣と同じ素材である。

一旦普通の鎖を作ったあと、捻って平たくする加工をほどこしていく。とりあえず10メートルほど作っていたら、エルザに呆れた目で見られた。

「そんなに沢山作って、どうするの?」

「いや、少なくとも10人以上には配ることになるだろう?」

その発言に、更にエルザは呆れてしまう。

「ジン兄、まずは陛下への献上品とすることが大事。つまり一品物として、価値を強調するの」

魔法工学師(マギクラフト・マイスター) の作ったものの価値というのはそういうもの、とエルザに諭されてしまった仁である。

「なるほどなあ……」

言っていることは理解出来る。仁は素直に頷いた。

「でもまあ無駄になることはないだろう? エルザも使えばいいんだし、ミーネとかマーサさん、ハンナをはじめとして、サキやステアリーナやヴィヴィアンや……あ、そうだビーナとかリシアにも」

リシアの名前が出た時、エルザの眉がぴくりと動いたのは気のせいではないだろう。

「……ジン兄がそういう人だと言うことを、改めて認識した」

「?」

小さく溜め息をついたエルザが呟いた言葉は仁の耳に入らなかったようだ。

「……とにかく、まずは献上品を作ることが先」

「わかったよ」

エルザの提案で、ペンダントトップはミスリル銀で菱形の台座を作り、そこに加工した 魔結晶(マギクリスタル) を嵌め込むことにした。

午前9時、仁とエルザはまずはその献上品を携えて 宮城(きゅうじょう) へ。

魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、ジン・ニドーはもう有名人で、ほとんど顔パスに近い状態で控え室に通された。

一緒にいるエルザと礼子も顔をよく知られており、何の問題も無し。

そして待つ事20分。

「ジン君、今日は何かしら?」

宰相に会えれば上出来だと思っていたら、女皇帝の執務室に通された仁とエルザ。

「 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) から話があるというなら、いつでも聞くわよ?」

横にいる宰相が少々疲れた顔をしているが、仁は見なかったことにし、目的を告げた。

「解毒の魔導具……。素晴らしいわ!」

「エルザがデザインし、俺が作りました」

黒檀に似た黒い木で作った箱に入れ、ペンダントトップとチェーンを献上。

「これを付けていると、解毒の効果があるのね?」

「はい。付けているだけでも軽い効果はあります。例えば悪酔いしなくなるとか……」

仁は効能を説明していく。

「ですから、例えば致命的な毒を飲んだときにも、すぐには倒れたりせず、本来の機能を発揮させる余裕ができるわけです」

毒が効いてしまってから発動させようとしても手遅れになることがあるからである。

「おかしいな、と思ったら、ペンダントトップを強めに叩いて下さい。それで発動します」

毒の効果で痺れるなどして口がきけなくなった時の事を考慮したのである。

「常時発動している軽い解毒効果があるので、手が麻痺することはまず無いと思います」

間違えて叩いても、身体が正常なら何の悪影響もない、と補足説明もしておいた。

「ありがとう、ジン君。ありがたく受け取るわ」

ニコニコしながらペンダントトップを受け取った女皇帝は、

「それで終わり? 何か頼み事があるのではなくて?」

と、鋭さを見せつけた。

「あ、はい。1点、許可をいただきたいことが」

そこで仁は、もらった屋敷の屋上に飛行船の発着所を設けたいと言うことを説明した。

「なるほどね……宰相、いいんじゃないかしら?」

女皇帝は熟考したあと、宰相にも意見を聞いた。

「はい陛下、左様ですな。今後、熱気球を所持する者が出た場合にもそういった許可を出す事になるでしょうから、前例を作ると言う意味でも、 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) たるジン・ニドー卿に範を示してもらうというのは良いと思います」

つまり、どういう形式にするのか、仁のやり方を見て今後の参考にさせてもらうということである。

「さっそくの許可、ありがとうございます」

仁はお礼を言って退出した。さすがに雑談を交わすほど、女皇帝は暇ではないのだ。

「ジン兄、良かったね」

「ああ、エルザのおかげだな」

許可内容が書かれた皮紙を手に、仁とエルザ、礼子の3人は意気揚々と飛行船の係留所にやって来た。

「礼子、待機している 職人(スミス) たちに、作業開始と伝えてくれ」

「わかりました」

許可が出ることは十中八九わかっていたので、どのように改装するかは打ち合わせ済み。

職人(スミス) 10体は指示を受けて早速改装を開始した。

職人(スミス) ゴーレムの生産能力は仁の10分の1くらい。それが10体であるから仁と同等かというと、そうではない。

数の有利があるため、今回の作業で言うと、屋根の解体、解体した屋根の撤去、屋根裏の再整備、屋上の建設、そして駐機場の整備。

細かい作業を省いてもこれだけある工程を分担して行えるのは大きい。

仁とエルザが飛行船に乗ってマギルーツ村へ飛び、バロウとベーレを連れて来るまでの時間で十分に改装は終わっているはずであった。

首都ロイザートからマギルーツ村までは130キロくらい。

時間が惜しくなった仁は、高高度飛行でマギルーツ村へ向かった。やりたいことがあるとせっかちになる仁である。

1時間足らずで村に到着。今度は驚くものはおらず、ただ興味津々な目で迎えられただけ。

「ジン殿、ようこそいらっしゃいました」

村外れの空き地に着陸すると、村長が出迎えてくれた。

「今日はどんな御用ですかな?」

「バロウとベーレを迎えに来たんですよ」

そろそろ仕事に戻ってもらいたい、と仁は説明した。

「勤めている以上当たり前ですな。彼等をよろしくお願い致します」

そう言って村長は仁に頭を下げた。