軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18-24 地下にて

首都ロイザートでは、2機の熱気球が上空警護をしてるのが見えた。

仁の飛行船が近付くと、保護眼鏡を掛けた乗員が敬礼をしている。飛行船の紋章を見たのだろうと思うが、女皇帝の対応の早さは尊敬に値すると感心した仁である。

眼下では騎士達が着陸地点を誘導している。

宮城(きゅうじょう) の広い前庭には白い丸が描かれており、その一つを目指し、仁は飛行船を降下させていった。

近衛騎士が4人、敬礼で仁とエルザを迎えた。礼子がボラード(係船柱)に飛行船を係留する。

「 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、ジン・ニドー卿、ようこそいらっしゃいました。陛下がお待ちです」

近衛騎士2人が仁たちをエスコートしてくれた。

1人は年の頃は仁と同じくらいだが体格は数段がっしりしており、金髪に青い眼の美形、もう1人は女性騎士で二十歳前くらい、やはり金髪碧眼のすらりとした美人である。

男性騎士の方が仁に、女性騎士の方がエルザに付き従い、 宮城(きゅうじょう) へ。礼子とエドガーはすぐ後を付いていく。

向かうのは執務室。仁を待っていたというのは誇張ではないらしい。

2階にある執務室で待っていたのは、女皇帝はもちろんのこと、宰相ユング・フォウルス・フォン・ケブスラー、 魔法技術匠(マギエンジニア・マエストロ) 、ゲバルト・アッカーマン。それから驚いたことにマルカス・グリンバルトも一緒であった。

「ようこそ、 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、ジン・ニドー卿。そしてエルザ嬢」

女皇帝は仁を歓迎する旨を述べると、相好を崩し、親しげな口調に変える。

「まずは、先日約束した褒賞金、100万トールよ。……よくやってくれました」

「ありがとうございます」

恭しく受け取った仁は、礼子にそれを預けた。100枚の金貨、2キロほどもあるそれを、礼子はスカートのポケットにしまい込んだ。

「……さて、ここからは忌憚のない意見を聞きたいので、何でも言いたいことを言ってちょうだい。許します。まずは堅苦しい口調はやめること。いいわね?」

誰もそれに異議を挟まないので女皇帝は続ける。

「もう一度確認の意味で、これから話し合うための背景を説明するわ。……宰相、頼みます」

「はい。……我が国の西には、ハリハリ沙漠という広大な砂地が広がっているのはご存知と思う。そしてその向こうには異民族が住むということも」

一同を見渡した宰相は発言がないことを確認すると先を続けた。

「異民族は300年ほど前に1度攻めてきている。魔導大戦で疲弊した人類を与しやすしと考えたのだろう。が、それは 古代遺物(アーティファクト) の威力もあり、撃退することができた」

ここまでは仁も知っている内容であった。

「その異民族が、またぞろ侵略を考えているという情報があるのだ。もちろん未確認ではあるのだが、放置するわけにも行かない。そこで……」

宰相は少し声のトーンを落とす。

「城の地下にある 古代遺物(アーティファクト) を再起動する試みを行うつもりだ」

仁も1度見せてもらったことがある『 古代遺物(アーティファクト) 』。それは身長20メートルという巨大なゴーレムであった。

「計画の第1段階は、技術博覧会でマルカスが披露した身長6メートルの大型ゴーレム、『ゴリアス』である」

これは仁に説明しているようだ。

「我々は『ゴリアス』を1号から10号まで10体製造し、保有している。その力を使って『 古代遺物(アーティファクト) 』を整備しようというのが計画の骨子である」

20メートルという巨大さ故に、人間ではできないような作業も多々生じるだろうと思われる。そのような作業を行わせるべく『ゴリアス』を作ったというのだ。

「もちろん、『ゴリアス』そのものも戦力に数えている。専用の盾、剣、メイスなども準備してある」

そこで宰相は一息ついた。

「……と、ここまでが既に終わった内容である。何か質問は?」

「沙漠の向こうの情報ってどこから入ってきたんですか?」

この質問は仁。仁は、その異民族というのが、魔族の従者種族と祖先を同じくするものだろうと確信を持っていた。であるから、できれば争いは避けたく思っているのだ。

「ふむ、ジン殿は知らなかったようだな。ハリハリ沙漠のそばには幾つか町がある。そして、非公式ではあるが、その町では異民族と交流があるらしいのだ。情報はそこからもたらされたのだよ」

あり得る話ではある。

ということは、その異民族と意志の疎通ができると言うこと。幸いなことにこの世界では、言葉の壁が低い。多少の方言っぽい言葉はあるが、ほとんど同一言語である。

おそらくこれは『 始祖(オリジン) 』が言葉をもたらしたからだろう、と仁は推測していた。

「あと1つ。……攻め込むんじゃないですよね?」

「ええ、もちろんよ」

仁の質問に即答したのは女皇帝だった。

「ショウロ皇国はあくまでも防衛に徹します。今回の計画も、地下の 古代遺物(アーティファクト) が宝の持ち腐れにならないようにと言うことが第一だから」

少なくとも、女皇帝のその言葉に嘘は無さそうだ、と仁は思った。

古代の巨大ゴーレムには仁も多少興味はあった。ただ大きいだけではなく、何か特殊な機能があるのかということにも興味はある。

「わかりました」

仁が納得した様子を見、宰相は再度口を開いた。

「ジン殿が協力してくれるなら百人力、千人力だ。本日はとりあえず地下の 古代遺物(アーティファクト) の確認としたいのだが、何か意見はありますかな?」

それは仁以外の人々にも向けられた言葉。

「……私などにも何かお手伝いできるので、しょうか」

自信無さそうなエルザの言葉に、宰相は大きく頷いて返事をする。

「もちろん。エルザ嬢は一流の 魔法技術者(マギエンジニア) ですからな」

そして他には? というように宰相は一同の顔を見回すが、

「特に無いようですな」

誰も口を開かないことを確認し、女皇帝に頷くと立ち上がった。

「では皆さん、ご足労ですがご一緒に地下へ向かいましょう」

* * *

地下は相変わらず 自由魔力素(エーテル) が少なかった。

前回と同様、 隠密機動部隊(SP) は地上に残しておく仁。大事を取ってエドガーも同様にする。一方、礼子は仁に付いてきた。

「やっぱり劣化しているな……」

地下5階、赤錆びたゴーレムの脚部を見て仁は呟いた。

「このゴーレムは人間で言うと筋肉に相当する機構を持っているようですな」

魔法技術匠(マギエンジニア・マエストロ) 、ゲバルト・アッカーマンが巨大な足を触りながら、呟くように言った。

「まずは骨格の修復、次いで筋肉。そして外装の順でしょうかな?」

それに答えたのは仁。

「いえ、まずはこの空間の 自由魔力素(エーテル) 異常を何とかしないと、作業すら満足にできないでしょう」

「何ですと?」

「この地下では 自由魔力素(エーテル) が極端に少ない状態になっています。おそらく、このゴーレムを盗まれたり、不用意に起動されたりしないようにでしょう」

仁がそう言うと、全員気が付かなかった、という顔をする。

「どこかにそういう魔導具が隠されている筈なんですが」

「ふむ……」

しかし、探そうにも魔法が使えないのでは不可能、という状況である。

仁にはおおよその見当が付いていたが、今回はわざわざ指摘するつもりはない。

「探すというのも時間の無駄だな。ならば」

巨大ゴーレムを地上に持ち出せばいい、と宰相が結論を口にした。

* * *

さっそく大がかりな工事が開始された。

地下5階相当の深さから巨大ゴーレムを吊り上げるのである。まずは地上までの道を付けねばならない。

幸い、巨大ゴーレム格納庫の真上は中庭である。敷石を取り除けば穴を開けるのは容易い。

「……ふむ、やはりな」

ゲバルト・アッカーマンは、敷石を見つめて納得したように頷いていた。

「ごらんなさい。ちょうど格納庫の真上は敷石が四角く区切られています。そもそもあの場所に格納する際の通路があるのは当然。そしてそれはやはりここ以外にないでしょう」

論理として当然の帰結ではある。

大型ゴーレム『ゴリアス』を総動員し、敷石が剥がされると、その下にも四角い石の蓋が見つかった。

「やはりこれが正解ですな」

あとは早かった。石の蓋を取り除くと、巨大ゴーレム格納庫が真上から見下ろせるようになっていたのである。

「よし、吊り上げよう」

穴の上に櫓が組まれ、滑車が掛けられる。

そこから丈夫なロープが何本も下ろされ、巨大ゴーレムに縛り付けられていった。その数は10本。それぞれを『ゴリアス』が受け持つ。

「よし、引っ張れ!」

マルカスの掛け声と共に、ロープが引かれた。が、巨大ゴーレムはびくともしなかった。『ゴリアス』も踏ん張りきれていない。

おそらくだが、巨大ゴーレムの重さは200トンを超えていると思われる。そして、『ゴリアス』は1体10トンくらい。10体でも100トンだ。

定滑車で上げられるはずがなかった。

「動滑車を使い、2段以上にしないと無理でしょう」

仁も黙っていられずに助言を行う。教師 自動人形(オートマタ) 、 指導者(フューラー) の教育を受けていたゲバルト・アッカーマンは納得する。

「そうか! こういう時に動滑車を使うのだな」

仁も手伝い、2段動滑車を用意した。4分の1で吊り上げられるタイプである。

これにより、『ゴリアス』6体での吊り上げが可能になった。

「よし、ゆっくり引け。……そうだ、いいぞ」

マルカスが指示を出し、1号から6号までの『ゴリアス』がロープを引いている。

その時、櫓が 軋(きし) み、ロープが切れた。200トンを支えきれなかったようだ。

櫓とロープに『 強靱化(タフン) 』を念入りに掛け、再度挑戦。今度はなんとか吊り上げることができた。

巨大ゴーレムの足が中庭の地面よりも上がった所で櫓を移動させようとして……頓挫した。

仕方なく、巨大ゴーレムを引き上げた穴に再度蓋をし、その上にそっと下ろす。

床材は『 強靱化(タフン) 』『 硬化(ハードニング) 』が掛けられており、200トンの重さが掛かっても壊れることはなかった。

古代遺物(アーティファクト) 、巨大ゴーレムはこうして300年ぶりに陽光の下にその赤錆びた姿を曝すこととなったのである。