軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

02-21 さよなら

礼子が振り抜いた手は、私兵長の顔に一筋の傷を付けるに留まった。が、当の私兵長は泡を吹き、気絶。

「終了しました」

仁に向き直り、スカートに付いた埃を払う礼子。

「礼子、1人も殺してないよな?」

「はい、お父さまを殺人者にはしたくありませんでしたから」

礼子は 自動人形(オートマタ) であるから、その行為の責任は仁が取ることになる。礼子は、先代の 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、アドリアナ・バルボラ・ツェツィの時代もそうであったから、したくはない手加減をしていた。

「それはいいんだが……やっちゃったな」

そう呟いた仁、それに合わせるように、

「まったく、凄まじいものだ」

そんな声が響いた。

「!?」

振り向くと、そこにはセバンスを従えたクズマ伯爵が立っていた。

「ガラナ伯爵が私兵を出したと聞いたので気になって駆けつけてみれば、終わったあとか」

のびている私兵、合わせて11人。

「まったく。そちらのレーコ?嬢の強さは王国筆頭騎士以上かも知れんな」

ちらりと礼子を一瞥した伯爵は、

「だが、これはまずい」

「え?」

怪訝な顔をするビーナに、

「ガラナ伯爵からの招きを断った上、家臣にいわれなき暴行を加えた」

「な……それは!」

反論しようとするビーナを伯爵は押し留めて、

「ああ、わかっている。今言ったのは、そういう扱いにされるだろうという予想だ」

つまり、ガラナ伯爵がその権力を使い、この騒動をそう言う形に捏造するということだ。

「ガラナ伯爵の私兵を叩きのめしたことにビーナは関係ないぞ」

仁は敬語を使うことをやめた。

「うむ、まあ、そうなのだが、証人がおらぬ」

「いるじゃないか。クズマ伯爵という立派な証人が」

そう言い切った仁は、ビーナに向かって、

「ビーナ、知り合えていろいろ楽しかった。もうナナもラルドも大丈夫だろうし、君も魔導具作りのコツを掴んだろう。そして何より、クズマ伯爵という理解者がいてくれる」

「え、え? ちょっと、ジン、何言ってるの?」

ビーナは訳がわからずうろたえる。

「もう俺がいなくても大丈夫だろう?」

そう言って、ポケットに入っていた 魔結晶(マギクリスタル) を取り出す。色は緑色、風属性だ。

「お別れにこれやるよ。うまく役立ててくれ」

そう言って半ば無理矢理、ビーナの手にそれを押しつける。そして仁は伯爵に向かって、

「伯爵、俺はこの国から消えます。ビーナのこと、よろしく。……ビーナ、さよなら」

そう言うと、ビーナが止めるのも聞かず、走り出した。

「ま、待ってよ、ジン! あたし、あなたに満足なお礼も言ってないのに……!」

その言葉を背に走り去る仁。礼子が後に付き従う、が、礼子の方が圧倒的に速いので、途中から礼子が仁を抱き上げて走ることとなった。

「失礼します、お父さま」

「え、ちょ、礼子」

「この方が速いですから」

最後が決まらない仁であった。

* * *

「……」

「…………」

仁が姿を消した後もしばらく、ビーナとクズマ伯爵は無言であった。先に声を発したのは伯爵の方。

「ビーナ、彼……ジンは、いったい何者なのだ?」

問われたビーナも、

「さあ……孤島に住む、ちょっと特殊な 魔法工作士(マギクラフトマン) としか……」

「ふむ、そうか」

その時、礼子に気絶させられた男達がうめき声を発した。そろそろ気が付くものも出てきそうである。

「ビーナ、私の馬車に乗って隠れていろ」

「え、は、はい」

クズマ伯爵は、ガラナ伯爵の私兵達に向かって、

「何をやっている、貴様等!」

そう大音声に呼ばわった。

「このようなところで、醜態をさらしおって。とっとと雇い主の元へ帰らんか!」

伯爵にそう怒鳴られて、気の付いた私兵は、まだ気絶している者を自分たちの馬車に詰め込むと、無言で立ち去っていったのである。

「ビーナ、もういいぞ」

クズマ伯爵がそう言うと、馬車からビーナが出てきた。

「ふむ、しかし、こうなると、ここに住むのも得策ではないな」

「え、は?」

伯爵はにこりと笑い、

「気の毒だが、この家と工房は引き払って、私の屋敷へ来た方がいいな」

「はっ、はい?」

ビーナはまだよくわかっていない。それを見て取った伯爵は、

「つまりだ、ここにいれば、またガラナ伯爵から今日のようなことを仕掛けられるということだ。だから私の屋敷へ来いと言っておる」

「あ、あの、あたしが、伯爵様の?」

「うむ。だが安心しろ。別にビーナに何かさせようとか言うのではない。ただ、家と工房を私の屋敷、その敷地内に移せと言っておるだけだ」

「……」

展開の早さに付いていけないでいるビーナに向かって伯爵は、

「さ、そうと決まったら、急いで荷物をまとめるのだ。セバンス、一旦屋敷に戻って、荷物を運ぶ馬車を用意して戻って来い」

「承りました」

そう答えたセバンスは、馬に乗って駆け去る。伯爵は、

「どうした? ビーナ、早く荷物を。それとも、私が手伝おうか?」

伯爵がそう言ったものだから、ビーナは飛び上がらんばかりに慌てて、

「と、と、とんでもないっ! 今すぐ、仕度しますからっ!」

そう言って家へと駆け込んでいったのである。

* * *

「結局、こうなったか」

蓬莱島の家で寛ぎながら、仁が呟いた。

「ええ、でもタイミング的にはちょうど良かったのでは?」

礼子はお茶を淹れながらそう言った。

「まあな、言い訳無しにビーナの手伝い止めたわけだが、まあ仕方ないな。だけど、よく考えると、ブルーランドの城壁の中、見損ねたよな」

「それはそうですが」

「この世界のこと、まだよく知らないんだよな……」

「では、これからどうしますか?」

「うーん、そうだな。季節的に、暖かいところへ行ってみたいな」

「それでしたら、南の海辺へ出る 転移門(ワープゲート) があります」

「南の海、いいな。何か面白そうなものがあるか?」

「島が多く、海運が発達しています」

「海運か! ということは船があるな!」

「はい」

「よし、次はそこにしよう。この世界の船というものを見てみたい」

「わかりました」

こうして、また別の土地で、仁と礼子の冒険が始まる。