作品タイトル不明
17-24 ガーディアン
時速20キロで10時間。
途中、食事も摂り、睡眠をとる。
蓬莱島との時差は3時間半くらい、仁本人も睡眠をとった。その間は老君が『ダブル』の操作を引き受けている。
とはいえ、その時間は『ダブル』も寝たふりをしているから、老君がやることはあまりないのであるが。
そして12日早朝、カプリコーン1は目的地周辺へと到達していた。
「さて、この辺の筈なんだが」
キャビンからあたりを見渡す。
周囲は地衣類がわずかにこびりついた青灰色の岩ばかり。目の前には高さ20メートルほどの岩壁。
「えーと、 魔力探知装置(マギディテクター) は、と」
50メートルほど右手の地下に反応があった。
「4……いや、5つ反応がある」
「行方不明者は4人の筈……もしやアルシェルか?」
ベリアルスが希望的観測を口にする。この時『ダブル』を操作していた仁は『それはないだろうな』と思ったが口には出さなかった。
「そうなると入り口は、だ」
その時、地面が微かに震えた。仁たちが何ごとかと身構えると、正面の岩壁が崩れ、身長2メートルほどのゴーレムが姿を現した。
「ゴーレム!」
「……守護者、ってとこか」
あの『ゴルグ』に比べたら、 魔力素(マナ) の総量から見てもまるで問題になりそうもない。
だが、新しい型の敵ゴーレムをじっくり見てみたくなった仁は、 魔法無効器(マジックキャンセラー) を発動。次いでエーテルジャマーを発動した。
つまり、敵ゴーレムの持つ 魔力素(マナ) を強制的に 自由魔力素(エーテル) に戻してしまい、更にはその 自由魔力素(エーテル) を支配下に置くことで完全に動きを封じてしまうことができるわけだ。
動きを停止したゴーレムを見て、仁はまたアイデアを得ていた。
「 魔法無効器(マジックキャンセラー) とエーテルジャマーを組み合わせたら使い勝手がいいな」
と。
もう攻撃がないか、礼子とアンに周囲を警戒させる仁。同時に入り口も捜させる。
自分は、動かなくなったゴーレムの調査を開始する。
仁(の『ダブル』)は瞬く間にゴーレム胸部を分解してしまった。
「ふんふん、 魔力反応炉(マギリアクター) はやはり長い結晶の両端を使っているのか。効率はともかく、 魔結晶(マギクリスタル) の無駄遣いだな……」
仁のように双晶を使えば、効率も上がる上、 魔結晶(マギクリスタル) の節約にもなるのだ。
「なるほど、やはり筋肉組織は無し、か。有り余る 魔力素(マナ) に任せて『 変形(フォーミング) 』で……いや、ちょっと違うか」
『 変形(フォーミング) 』系ではあるが、似て非なる 魔導式(マギフォーミュラ) であることに仁は気が付いた。それだけが、前回調べた敵ガーゴイルと異なる点だった。
「うーん、と……なるほどなるほど。『 変形動作(フォームドライブ) 』か」
動作専用の『 変形(フォーミング) 』であるといえばいいだろうか。仁は、ステアリーナに教えたら喜びそうだ、と思った。
こうして、『 負の人形(ネガドール) 』が使っていたと思われる技術を調べてしまった仁は、
「どうだ? 入り口は見つかったか?」
と礼子たちに尋ねた。
「はい、ゴーレムが出てきた奥に、整備用と思われる通路があります。小さめですが、わたくしなら何とか通れると思います。まずはわたくしが確認してきます」
礼子は簡単に報告すると、その整備用通路に踏み込んだ。礼子がやっと通れる程度の狭い通路である。『 負の人形(ネガドール) 』でもやっとだろう。
特に何の罠も無く、礼子は内部に達することができた。そこもやはり資材倉庫と思われた。
若干の 魔結晶(マギクリスタル) と 軽銀(ライトシルバー) が貯蔵されていたのである。
そして、更に奥に小部屋があった。
罠の発動を防ぐため、 魔法無効器(マジックキャンセラー) を発動させながら扉を開けると、そこには目指すもの……行方不明の魔族4人が横たわっていたのである。
その横には身長2メートルほどのゴーレム。こいつが4人を運んできたらしい。
そのゴーレムは礼子を見つけると跳びかかって来たので、迎え撃った礼子が軽く払いのけるとばらばらになってしまった。
「……脆すぎます……」
仁に調べて貰うこともできないほど見事にばらばらになった敵ゴーレムの破片を見て、礼子は肩をすくめた。
仕方なく、残った 制御核(コントロールコア) と部品の破片を幾つか確保しておく、仁ならこれだけでも何かわかるだろう、と。
他に部屋もなく、めぼしいものも見つからないので礼子はアンに連絡し、4人を運び出すことにした。
だが他に通路らしきものは無く、アンには通れそうもない。ということは、魔族も通れないと言うことである。
「……どうしましょうか」
方法はいくつか考えられるが、最善の方法は何か、と礼子はしばし考え込んだ。
「通路を拡張しましょうか」
仁には敵わなくとも、礼子も工学魔法は使える。そして、仁と共にいることで、その使い方も仁に倣っていた。
「『 掘削(ディグ) 』」
本来は穴を掘る土属性魔法でもあるが、仁は温泉を掘ったり、地下鉱脈を掘ったりと、土木工事に使っている。
礼子もそれを真似、今の通路を拡張するのに使ったのである。
「彼等を運び出す間だけですから、『 強靱化(タフン) 』の必要はないでしょう」
そして礼子はアンを呼び寄せた。
「おねえさま、お呼びですか」
「ええ、あの魔族を運び出すのに手を貸して下さい」
礼子とアンは気を失っているらしい魔族のうち2人ずつを抱えると、早足で表に出た。
とりあえずシートを敷いてそこに横たえておく。気を失った原因が不明なので軽く『 回復(ヒーリング) 』だけ掛けておくことにした。
「それからですね、中に若干の 魔結晶(マギクリスタル) と 軽銀(ライトシルバー) がありました」
「あー、そうか……。運び出してくれるか?」
戦利品ということでいただいておくことにする仁。
身を翻して中に戻ろうとする礼子に、ベリアルスが声を掛けた。
「……レーコ殿、他には誰もいなかったのか?」
「はい、誰も」
礼子は一瞬足を止めると、それだけを答えてから通路奥へと戻っていった。アンもそれに続く。
そして出てきた時は、 魔結晶(マギクリスタル) 数十個と、50キロほどの 軽銀(ライトシルバー) のインゴット2つを運び出したのである。
「ご苦労さん」
仁(の『ダブル』)は簡単に労うと、カプリコーン1の倉庫へと運び込ませた。持って来た食糧がもう4分の1ほどしか残っていないのでスペースは十分にある。
「それと、転移マーカーがありましたので回収しておきました」
これで、この拠点での用は済んだといえる。
「うう……」
折から、気を失っていた魔族たちが目を覚ました。
「こ……ここは?」
「確かドネイシアを追いかけて……」
「お前はベリアルスか?」
ドネイシアを追った3人がまず目を覚ました。ベリアルスはそんな彼等に簡単に状況を説明してやった。
「何? もう全部片付いたというのか?」
「ジン殿が? ふうむ……」
「そういえばドネイシアはどうした?」
そのドネイシアは未だに目を覚まさない。
「思い出した。我々を気絶させたのはドネイシアだ。まるで誰かに操られているかのようだった」
「確かにあの時のドネイシアは人が変わったようだった」
「何者かに操られていたのやもしれんぞ」
仁はドネイシアを調べてみたが、『 操縦針(アグッハ) 』は見あたらなかった。それでベリアルスに尋ねてみる。
「シオンに聞いたけど、洗脳隷属魔法を掛けられた場合は感情が消えるということだったな?」
「ええ、その通りです。ですから、ドネイシアは魔法で操られていたのではなさそうですね」
しかし、仁は知っている。通常の 知識転写(トランスインフォ) が魔族に効かないことと、その理由を。周波数が低いと、魔族の 知識転写(トランスインフォ) はできないと言うことを。
(もしかすると、周波数を上げた『普通の』隷属魔法は効くのかもしれない。それなら、感情が消えていないことも説明が付く)
仁がそう思い当たった時、ドネイシアの目が開いた。
「う……ここは……お前たちは!」
心配そうに見つめる仲間、『 諧謔(かいぎゃく) 』の氏族たちを見つめたその目は敵意に溢れている。
どうやらまだ操られたままのようだ、と仁は思った。
「あたいを見くびるんじゃないよ!」
5メートルほども飛び下がったドネイシア。
「『gravita』!」
そして重力魔法を放つ。だが、それは何の効果も発しない。
「な、なんで?」
礼子が放った 魔力妨害機(マギジャマー) である。詠唱の効果を無くし、魔法を発動させないという効果がある。そして更に礼子は攻撃を加えた。
「『 麻痺(スタン) 』」
「きゃあ!?」
人間の場合と同じなら、これで『普通の』隷属魔法から解き放たれたはずである。
「一応縛っておくか……」
地底蜘蛛(グランドスパイダー) の糸から作ったロープで縛り上げておいて、『 回復(ヒーリング) 』を掛ける。
「うう……」
麻痺から回復したドネイシアが目を開いた。
「あれ? あたい、何で縛られてるの?」
「ド、ドネイシア、治ったのか?」
「ドネイシア、俺たちがわかるか?」
「ジン殿、あなたは何という……」
いともあっさりとドネイシアを隷属状態から治した仁に、3人の魔族は多少なりとも尊敬の念を抱いたようだった。
そして、ドネイシアの口から、彼女を操っていた、というか隷属魔法で洗脳した相手というのが『 負の人形(ネガドール) 001』であるということがわかった。
彼女と、3人の魔族を気絶させて地下倉庫へ運び込んだのはおそらく礼子に破壊されたゴーレムが転移魔法を使ったのであろう。
判断の根拠は転移魔法が使えなければ不可能であったからだ。
そう言う意味では解析不可能なほどばらばらになってしまったのは残念だった、と仁は思った。
そして今度こそ、帰る準備を進める一行であった。