軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17-01 第一の中立派

9月4日。

カプリコーン1は、魔族の棲むゴンドア大陸、その東側を離れ、西へと向かっていた。

* * *

仁(の 身代わり人形(ダブル) )が魔族の土地を訪れて半月。

『福音』の氏族を手始めに、『森羅』、『 傀儡(くぐつ) 』の氏族を『 操縦針(アグッハ) 』による『 負の人形(ネガドール) 001』の支配から解放していた。

その後、『深遠』の氏族40名、『久遠』の氏族35名、『 玩弄(がんろう) 』の氏族28名、『 不易(ふえき) 』の氏族35名、そして『宵闇』の氏族31名を解放し、穏健派の中心となる氏族と友好関係を結んでいた。

「……大変だったなあ」

蓬莱島司令室で、仁がぽつりと漏らした。

『深遠』の氏族、『久遠』の氏族、それに『 玩弄(がんろう) 』の氏族と『 不易(ふえき) 』の氏族は、『 操縦針(アグッハ) 』による支配が継続中だったため、『 麻痺(パラライズ) 』により全員麻痺させ、大急ぎで『 操縦針(アグッハ) 』を抜き出したのである。『宵闇』の氏族は『森羅』氏族と同様、支配から逃れていた。

ナース1、2が頑張ってくれたおかげで、それぞれ半日で解放を終えることができ、彼等も 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) に心酔。

作り慣れた農作業用ゴーレム『アグリー』をそれぞれに15体ずつ作り、霜害防止の結界発生器も置いてきた。

約1000人という魔族の半数を占める穏健派の中でも規模が大きく、発言力も強い氏族が味方に付いたことで、ゴンドア大陸東側ーーー穏健派の勢力圏はほぼ統一されたと見てよかった。

そこで、いよいよ中立派を説得・懐柔するために大陸西側へ向かう事になったのである。

穏健派約300人、中立派も約300人。過激派が約400人、だそうである。

穏健派と中立派を味方に引き込めれば、過激派に対する交渉にぐっと有利になるのだ。

メンバーは『ダブル』、礼子、アン、ランド1。そして魔族側の協力者として、『 傀儡(くぐつ) 』のベリアルスが同行している。

彼の役目は主に道案内である。

地形はわかっても、どこにどの氏族がいるのか、仁たちにはわからない。それで、比較的大陸地理に詳しい『 傀儡(くぐつ) 』氏族の中から、ベリアルスが協力を申し出たというわけだ。

「正直なところ、行方不明のアルシェルが気になるというのもあります」

本当に馬鹿が付くほど正直に、ベリアルスは事情を説明した。

以前、クライン王国でグロリア一行を襲ったギガントーアヴルム(巨大ハサミムシ)を操るアルシェル。彼女は、歳の離れた、ベリアルスの妹なのだそうだ。

「『 傀儡(くぐつ) 』の氏族は、灰色の髪と黄色い目が多いのですが、あいつは黒髪で赤い目、『狂乱』の氏族と似ているんですよ。それで、自分はここの血を引いていないんだなどと言いだして、今では家を飛び出す始末でして」

そんな危うさに付け入って、過激派が彼女を取り込んだ可能性もある、という。

「ギガントーアヴルムを操る事ができ、転移魔法も使えるとはいっても、まだ43歳の子供ですから」

因みに、魔族の平均寿命は人間の5倍ほど。43歳を人間に換算すると8歳と少し、くらいになると思われる。

人間の成長と比較はできないが、知識は豊富になっても、80歳を超えないと精神的に成熟しないと言われているそうだ。

「できれば見つけ出して連れ帰りたいのです」

仁にも、兄としてのそんな気持ちもわからなくはない。

カプリコーン1はゆっくりと西を目指す。

目指すは中立派の一角、『侵食』の氏族。

「中立派の中でも穏健派に近い氏族です。最初に接触するにはうってつけかと思います」

ベリアルスの案内で一旦海岸線から離れ、内陸へ。

「小さな丘が見えますか? あの麓です」

丘、というよりも大地の盛り上がり、と形容した方がいいくらいの、ささやかな丘。その麓に『侵食』の氏族は住んでいた。

「おおよそ30人の小氏族です」

約2キロ離れた地点でカプリコーン1は停止した。時刻は午後2時。

「さて、どうするか」

『ダブル』が呟く。

「まずは、私が出向いてみましょう」

「うん、それがいいかもな。アン、一緒に行ってくれ」

「はい、ごしゅじんさま」

今、『ダブル』は仁本人が操っている。そういう場合礼子やアンは、 身代わり人形(ダブル) であろうとも『お父さま』『ごしゅじんさま』と呼ぶようだ。

「済まん」

ベリアルスとアンはカプリコーン1を降りて走り出す。

数分で居住地に到着するだろう。

「さて、どう出てくるかな?」

仁は、老君からの最新報告を思い返した。

* * *

老君は、パワーアップした『老子』を使い、『 負の人形(ネガドール) 001』の動向を探っていた。

それによれば、『 負の人形(ネガドール) 001』の拠点は礼子達が発見したものの他に2箇所。

2つともずっと西の方にある。氷に覆われた場所だ。

『1つは規模が大きそうですので、こちらが本部かと思われます。もう1つは過激派の魔族居住地に近く、前線基地といったところでしょうか』

「なるほど。その可能性は高そうだな」

仁は報告を受けながら地図を確認し、頷いた。

『001と名乗っていますが、他の 負の人形(ネガドール) は確認できておりません』

「うーん、やはりか。700672号は全部消去したはず、と言っていたくらいだからな。免れたとしても1体か、せいぜい2体だろう」

敵の数が少ないというのはこちらにとって都合がいいのだが、基地が2箇所あるということは、安直に攻めてもまた転移で逃げられてしまう可能性があるということだ。

「なんとか転移を妨げる方法を考えないとな」

一つは『マーカー』を探し出して処分することであるが、総数がわからないので現実的ではない。

それでも、700672号がいる拠点のマーカーは撤去したので、あそこへ戻ってくることはないと思われる。

「『天翔る船』か。貴重な古代の遺物だからな。落ち着いたらゆっくり見に行きたいよ」

ぼそりと独り言を言い、仁は思考に集中した。

「転移は、転移先を魔力により感知して初めて行えるものだ。だとすると、転移先を見つけられなくすればいい。と、なるとやはり 妨害器(ジャマー) ということになるか……」

魔力、もっと正確にいうと魔力線は、電磁波と同じく波の性質を持つらしい。ということは周波数と波長、波形があるということだ。

個人を識別する魔力パターンも、この周波数と波長、波形の組み合わせで成り立っている。

「……」

そこまで考えた仁は、思考の迷路に迷い込んでしまった。

その時、魔族領に動きがあった。

* * *

「アンから連絡が入りました。『侵食』の氏族の『 操縦針(アグッハ) 』も働いていないようです」

「お、そうか。なら好都合だ。ランド1、カプリコーン1をゆっくり進ませろ」

「わかりました」

『ダブル』による指示に従い、時速15キロ程度でカプリコーン1はゆるゆると進んだ。そして残り500メートルといった距離で停止。

「よし、ここから歩いて行こう」

カプリコーン1をあまり接近させるのは得策でないと仁は判断した。

「小麦50キロを手土産にするか。礼子、頼む」

「はい、お父さま」

『ダブル』、礼子、ナース1、2はカプリコーン1を降りて『侵食』の氏族が住む居住地へ向けて歩き出した。

『ダブル』はフードの付いたコートを羽織っている。色は茶褐色。見栄えはよくないが、実はグランドラゴンの皮でできており、耐魔法性の高い防具なのである。

試作として蓬莱島で作られ、1番適任と思われる『ダブル』が着ることになったのであった。

ゆっくり歩いても10分かからずに、アンとベリアルスの待つ居住地入り口に到着した。

そこには『侵食』の氏族が数名、仁を出迎えていた。

「ようこそ、 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、ジン殿。私は『侵食』の氏族長、ドメニコスと申します」

ドメニコスは小柄な老人であった。白髪交じりの金髪は大分薄くなっており、紫色の瞳も光に乏しかった。

「先日、我等を支配していた声と苦痛が突然止まりましてな。今伺ったところに寄りますと、ジン殿のおかげとか。いくら感謝してもし足りませぬ」

そう言って仁の手を取る。そして後ろに控えている壮年の男女を紹介した。

「これは私の息子夫婦で、息子の方はもうじき次の氏族長になる予定です」

「ジャラルドスと申します」

「イェミニエナと申します」

壮年の男女はそれぞれ名乗った。2人は魔族としてはやや小柄である。『侵食』の氏族は小柄な者が多いようだ。

「さて、とりあえず我が館へどうぞ」

ドメニコスは先に立って仁たちを案内していく。『ダブル』、礼子、アン、ベリアルス、ナース1と2と続き、そして最後尾がジャラルドスとイェミニエナ。

氏族長、ドメニコスの館は居住地の中央部に建っていた。

ここの建物は他の氏族と同じように石造り。それも平屋建てがほとんどであるが、氏族長の館は3階建てであった。

「さあ、どうぞ」

中に招き入れられた一行。外に比べ、温度もさることながら、湿度も高めてあるようだ。

「まずはこちらでお寛ぎください」

応接室に通された仁一行。部屋は質素ながら落ち着いた造り。仁本人が招かれたとしても落ち着けそうな佇まいである。

いよいよ、中立派との交渉、その第一段階が始まろうとしていた。