作品タイトル不明
16-10 始まりの一族
「しかし、そんな方法で隷属させられていたとは、気が付きませんでしたわ」
溜め息混じりにイスタリスが呟いた。
「面目ないことです」
「いいえ、氏族全員が同じ目に遭っていては致し方ないですわ」
「しかし、そうなると……」
渋面を作ったネトロスが呟くように言った。
「『森羅』の氏族も同じ目に遭ったということでしょうか?」
「ああ、そうでしょうね。『針』を埋め込むのには時間は掛かりません。細長い筒のようなものを胸に当てれば一瞬で埋め込まれてしまいます。耳の後ろも同じです」
「誰がそれをやったのかは?」
「わかりません……」
「では、いつ埋め込まれたのかは?」
「そちらの方は、推測になりますが、半月前、氏族会議の時に氏族長が集まった事があるでしょう? その時ではないかと思いますよ」
しかしイスタリスは知らないようだった。
「……存じません。私たちが出発してからのことのようですね」
そのため、イスタリスとシオン、ネトロスとルカスは支配されることを免れたのだろう。
そんな会話を断ち切ったのはシオン。
「それよりもこれからどうするか話し合った方がいいと思うの」
「そうね。その通りだわ」
「私としては、我が氏族全員をこの『針』から解放してもらいたいというのが本音なのだが……」
顔を顰めてアレクタスが言った。
「それは私も同じです。『森羅』の氏族も解放してもらえたら、と思います」
解放を望むアレクタスとイスタリスに対し、シオンは現実的な意見を述べた。
「でも、大変よ? 何処の何奴だか知らないけど、隷属化した者たちが解放されるのを黙って見ているとは思えないもの。どれだけ時間がかかるか……」
「ここは、まず大元を叩くのがいいのではないでしょうか」
魔族たちでの話し合いの感を呈していたが、そこへアンが意見を述べた。
「『針』を埋め込んだ奴を見つけ出し、なんとかする、ってこと?」
シオンが形のいい眉を顰めながら言った。
「できるかしら? まずそいつを見つけること。そして、見つけたとしても『針』を使うような相手に敵うかしら……」
自信が無さそうに言ったのはイスタリス。
「やり方次第だと思いますよ。別に真正面から立ち向かう必要もないわけですし」
アンは事も無げに言う。
「相手の居場所を見つけ、こっそり侵入して、無力化する」
大雑把であるが、今の情報量では仕方がない、と補足した。
「どうやって見つけるの?」
「そう言う方法がある、と言っておきましょう。なにしろごしゅじんさまは 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) なのですから」
「……」
しばしの沈黙のあと、イスタリスは小さく頷いた。
「やってみるしかないですものね。……ジン様、お願いできますか?」
「私からもお願いする。 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、ジン殿。どうか、頼みます」
「わかってる」
仁の勘であるが、この問題はおそらく魔族に留まらない様な気がしていた。
ここできっちりケリを付けておかないと、いずれ人類にも被害が及ぶ、そんな漠然とした予感があった。
「まず相手の居場所を見つけることが先決だ」
「し、しかしどうやって?」
事も無げに言う仁に対し、アレクタスは懐疑的である。
「取り外した『針』はまだ未知の相手と魔力で繋がっているはずだ。その線をたどればいい」
「なるほど……」
「どうやって、という質問にはまだ答えない。出来る、ということを信じてくれ」
今仁(の 身代わり人形(ダブル) )を操縦しているのは老君である。仁なら『 魔力探知装置(マギディテクター) 』がある、と話してしまったかもしれないが、その点老君は慎重だった。
ランド1に指示を出し、魔力の方向を測定する。おおよそ真北、であった。
「よし、少し東に移動してもう一度測定だ」
測量の基本である。
実際のところ、蓬莱島には 魔力探知装置(マギディテクター) よりずっと高性能な 魔力探知機(マギレーダー) があるので、老君は既に謎の存在の位置を掴んでいた。
だが現地でもう一度測定することで、より精度を上げる事が出来るので、2度手間ではあるが、カプリコーン1自身にも測定を行わせていたのである。
「北北西です」
2つの線が交わるところ、そここそが目指す相手のいる場所となる。簡易地図でその場所を特定する仁。
「ここだな。ここにある山の向こう側だ」
仁が略地図を指差せば、アレクタスは目を見張った。
「……始まりの地……」
「え?」
「……そこは『始まりの地』です。とすると、これを行ったのは『始まりの一族』ということになるのですが……」
「始まりの地。ベリアルスから聞き出した情報にあった地名だな」
『福音』の氏族が1番近くに住んでいる、という情報とも一致していた。
「そうか、そいつらが元凶か」
仁は地図から顔を上げ、窓の外に見える北の山を見つめた。とにかくこれで目標がはっきりしたことになる。
「まずはその『始まりの地』に向かおう。どうするかは道中話し合えばいい」
「わかったわ」
「うむ、異議はありません」
こうしてカプリコーン1は一路北の山を目指すことになった。
「『始まりの一族』について何か知っている事は?」
操縦はランド1に任せ、仁たちは話し合いを続けていた。
「そうですね……彼等は古い技術を持っていると言われています」
答えたのはアレクタス。
「古い技術?」
「ええ。私たちの遠い祖先が持っていたという魔法技術です」
「……」
貴重な情報だ。2000年以上前の技術を持つという『福音』氏族よりも古い技術。
老君は、ヴィヴィアンが語り伝えている昔話と併せ、補完してみた。
空を翔る船=宇宙船、でこの星にやってきた人類と魔族の先祖。
人とほとんど変わらない従者……= 自動人形(オートマタ) 。
こう当て嵌めてみれば、一応辻褄は合う。
今のところ、仁にも『宇宙船』は作れない。そうしてみると、先祖の技術は恐るべきものである可能性も。
「接触は慎重にやらないといけないな」
仁を上回っている可能性も視野に入れて計画を立てる必要があると老君は判断した。
「そうですね。しかし『始まりの一族』というのはそんなに危険なのですか?」
不思議そうにアンが尋ねた。
「いや、会ったことはないのです」
済まなそうにアレクタスが頭を下げた。
「我等『福音』の氏族も、『始まりの一族』が近くに住んでいるということしか知りませんでしたから。そして、『始まりの一族』は声だけで連絡してくるのです。それも不定期に」
『福音』の氏族は昔からそういう魔導具を持っており、時折そこから助言がもたらされるのだそうだ。ゆえに『福音』の氏族なのだろう。
だが、ここで疑問が一つ。
他の氏族が食糧難に苦しんでいるというのに、『始まりの一族』はどことも交流せずに食糧を調達しているのだろうか。
「それも魔法技術のおかげだとすれば」
難しい顔をしたイスタリスの発言。
「そんな相手に敵うのでしょうか……」
「姉さまは弱気ね。敵うかどうかじゃなくて、氏族のためにも何とかしなけりゃいけないのよ」
シオンは前向きである。
「そ、そうね……」
「別に、最初から敵対するわけでもないのですし」
そんな話がなされていた時。
「行く手に結界があります」
ランド1が報告してきたのである。