軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16-05 内陸部

カプリコーン1はゆっくりと北上を開始した。

ゆっくりとはいえ、休息のいらないランド1、礼子、アンがいるので昼夜兼行で進めるから、1日に進める距離は数百キロに及ぶ。

その1日も無駄に過ごしてはいない。ベリアルスには『 強制忘却(アムネジア) 』を掛けておいた。

今は仁たちに何故捕まったのかもわからない状態になっているから、この先情報が漏れるようなことは最小限で済むだろう。

イスタリスとシオンたちは十分休息し、もはや体力的にも全快していたのである。

そして今、浅いが広い川を渡り、北緯55度線を越えたあたりで一行は、氷に覆われた山を前にしていた。

「この山の麓に住むらしいということまではわかっているんですが」

自信無さそうにそう言ったのはイスタリス。

「ほとんど他の氏族と関わらない者たちなので」

「うーん、このままだと埒があかないか。……ランド1、 魔力探知装置(マギディテクター) はどうだ?」

「はい。……左方2キロほどのところに反応があります」

「よし、そこへ行ってみよう」

カプリコーン1は左に転進した。

所々残雪が残る土地を進んでいく。外気温は摂氏2度。かなり寒い。

「空調を念入りに仕上げていて良かったな」

仁(の 身代わり人形(ダブル) )は暑さ寒さに影響されないが、病み上がりのイスタリスとシオン、ネトロスとルカスにはやはり急激な気温の変化は堪えるだろうから。

そのまま進んでいくと、じきに目的の場所に着いた。

「このあたりに大きな魔力反応があります」

だが、周囲は岩と残雪、それに氷に覆われた山があるだけ。

「うーん、おかしいな」

* * *

その時、蓬莱島にいる、つまり本物の仁はあることに思い至っていた。

「幻影結界……」

そう、旧レナード王国の上空に張られていた結界である。人間だけでなく、仁が作ったゴーレムの目さえも欺くことのできる幻影結界。仁はそれを思い出したのである。

「老君、あの幻影結界について何かわかったか?」

旧レナード王国に派遣した 第5列(クインタ) たちは昼夜を分かたず調査しているはずである。

『はい、 御主人様(マイロード) 。誰が、何のために、などの全貌はまだわかっておりませんが、効果は少しわかりました』

「そうか、で?」

『はい。まず特筆すべきこととして、あの結界は赤外線領域から紫外線領域までの光学的幻影のみならず、1Hzから30000Hzまでの音波も騙しております』

「聴覚もか」

要は、あたかもそこに物体があるかのように音波を反射させるということである。

聴覚は、人間の感覚の中でも視覚に次いで役立っていると言う説もある。視覚のように方向性が無く(少なく)、目を瞑るなどの遮断機能がない(耳を塞ぐことはできる)。

眠っていても危険を察知できるのは聴覚、そして床などの振動を察知する触覚、まれに火事などの臭いを感じる嗅覚、の順になる。

「実体を持った幻影ということか?」

『いえ、そこまでは。触覚を騙すことはできていません』

「で、発生方法は?」

『発生方法や原理などは未だ不明です』

「そうなのか……」

光学的な幻影なら今の仁にも作れそうではあるが、音響的な幻影となると、すぐには作れそうもない。

かなり複雑で高度な幻影のようだ。

『それでですね、対策ですが、これが魔法により発生させているならば、エーテルジャマーで破れるのではないかと。少なくとも試してみる価値はあると思います』

「なるほど」

* * *

「よしランド1、エーテルジャマー発動だ」

「了解」

エーテルジャマーが初めて、実戦に投入される。

最初は何も変わらないようだった。が、およそ1分後。

「おお?」

残雪の残る岩山の一部が消え、巨大な洞窟が口を開けたではないか。

「あれが入り口らしいな」

「ジ、ジン! いったい何をやったの?」

外を見ていたシオンが驚いて声を上げた。

「結界があったらしい。その結界を解除してみただけだよ」

「だけだよって……はあ、まあ、ジンだものね」

だが、洞窟の大きさは、大きいとは言っても幅4メートル、高さも4メートルほど。カプリコーン1が通れる大きさではない。

「試しにジャマーを切ってみろ」

「了解」

だが、エーテルジャマーを切っても、結界が復活することはなかった。何か発生条件があるのだろうか、と仁は思うが、今は洞窟だ。

「結界が消えたことに気が付いて誰か出てくるといいんだがな」

だが、なかなかそう上手くはいかないようで、30分ほど待っても誰も出てくることはなかった。

「様子を見に行かないと駄目か……」

「なら、俺が行こう」

ネトロスが立候補した。

「俺なら、自分の身も守れる。事情も知っている」

「……そう、ね……ネトロス、行ってきてくれるかしら?」

この場合、仁側のメンバーではまずいだろうから、他に適任者はいない。ルカスではまだまだ未熟だ。

「はい、イスタリス様。行ってまいります」

ネトロスは扉を開けると、地上へ飛び降りた。そしてゆっくりと洞窟を目指し歩いて行く。

仁たちはカプリコーン1の中からそれを見守っていた。

ネトロスが洞窟に消え、5分が経ち、10分が過ぎた。

仁たちはじりじりする思いで待つ。

そして15分。

「あれは?」

洞窟入り口に人影が動いたのである。

「ネトロス……と、誰かしら?」

1人は間違いなくネトロス。もう1人は真っ白い髪をした、やせ気味の壮年の男だ。顔立ちはここからではよくわからない。

その男は洞窟入り口に立ち、ネトロスだけが歩いて戻って来た。

カプリコーン1を見上げ、大丈夫だというように手を振ってみせる。仁はカプリコーン1本体を地表へ下げる。

若干の用心をしながら扉を開けると、ネトロスが乗り込んできた。

「ただいま戻りました。洞窟の中には推測通り『福音』の氏族が住んでいました」

ネトロスが報告した。

「これまでの事情を簡単に説明したところ、我々を歓迎してくれるそうです。扇動については理由があり、説明してくれるそうです。そしてゆっくりこちらの話も聞きたい、ということでした」

「そう、よかった……!」

「ああ、ほっとしたわ!」

胸を撫で下ろすイスタリス、シオン。礼子はネトロスの様子をこっそり伺ったが、洗脳されたりはしていないようだ。

「では、ランド1を留守番に置いて、残る全員で……そうだな、ベリアルスも連れて、『福音』の氏族のところへ行こうじゃないか。今は友好的に見えても黒幕かも知れない氏族だ、油断は禁物だぞ」

仁が締めた。異論は出ない。

「よし、それじゃあ、少し食糧も持っていこう。アン、小麦粉を100キロほど持っていくことにしよう」

「はい、ごしゅじんさま」

「礼子は桃花を持って行くこと」

「はい、お父さま」

仁(の 身代わり人形(ダブル) )はその他に若干の回復薬やペルシカジュースを持った。

捕虜であるベリアルスはネトロスが連れていく。

「よし、行くか。ランド1は、我々が出た後、200メートル後退し、バリアを張って待機だ」

「了解です」

こうして仁たちは、ようやく話が通じそうな氏族と出会うことができ、その居住地へと向かうことになったのである。