軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15-17 出発

仁が店の片隅に見つけた物。それは紛れもなく『冷蔵庫』であった。

「……冷蔵庫?」

「おや、ジンさん、お目が高い。それはようやく仕入れた魔導具なんですよ。エゲレア王国の伯爵家が販売しているものでして……」

やはりクズマ伯爵がスポンサーとなって製作・販売しているようだ。

仁は、赤毛の 魔法工作士(マギクラフトマン) 、ビーナのことを思い出した。

(そろそろあの2人、結婚式だろうか。機会があったら聞いてみよう)

「……で、これが『ライター』ですね。……ジンさん?」

ビーナのことや、ブルーランドで作った魔導具を見て懐かしく当時のことを思い出していた仁はローランドの声で我に返った。

「ああ、いえ、ちょっと考え事を」

「そうですか。で、こちらが『温水器』です。なかなか良くできていますね。同じ物を作れるかどうか今研究中です」

特許という考え方がないので当然こういう考えが出てくるわけだ。まあ市場が被ることは無さそうだから、仁としてもとやかく言うつもりはない。

「もしわからないところがあったらジンさんにお聞きしてよろしいでしょうか?」

仁が製作者(の1人)だと知らずにそんなことを言ってくるローランドに、仁は笑って頷いたのである。

* * *

是非泊まっていって欲しい、というローランドたちの懇請を断って、仁は蓬莱島へ戻って来ていた。

「さて、そうなると仕度は……難しいな」

「ジン兄、どうしたの?」

司令室で1人悩んでいたらひょっこりとエルザが顔を出した。

「ん? エルザか。いやな、明日、シオンたちを連れてフランツ王国へ行くんだが、どんな格好していこうかと悩んでいるんだ」

「ああ、あの、件」

シオンが仁に信用してもらうため裸身を晒したことをエルザも見ていたのだから知ってはいた。

「でも明日? そんな話になって、いたの?」

「ああ、そうなんだ。で、ラインハルトや、クライン王国のラグラン商会なんかでフランツ王国のことを聞いてきたんだよ。なんか専制政治みたいだし、貴族が幅を利かせているみたいだから、こういう時こそ士爵という身分を強調したいんだが、どこの国の士爵を名乗ろうかと思ってな……」

魔法工学師(マギクラフト・マイスター) であるということは喧伝せずに、まずは士爵という身分で行くつもりだと仁は説明した。

「……だったら、ショウロ皇国に、すべき」

エルザは自分の見解を述べた。クライン王国はフランツ王国と険悪な関係だから論外。エゲレア王国はといえば、宗主国のセルロア王国と仲が悪いので避けた方が無難。

「ショウロ皇国は良くも悪くも、ない」

一応セルロア王国との国交はあるわけだから、敵視されてはいないはず、とエルザは結んだ。

「なるほどな。それじゃあショウロ皇国士爵として訪問するか」

「ん。私はその妹、ということにする」

「ちょっと待て。エルザも行くのか?」

エルザの発言に驚く仁。

「うん。ジン兄1人だと、ショウロ皇国の儀礼とか怪しいから付いていく」

一応ちゃんとした大義名分もあった。それを指摘されては仁も断り切れない。

「わかったよ。ちゃんと 守護指輪(ガードリング) も持っていくんだぞ」

「ん」

こうして、仁、礼子、エルザ、エドガー。そしてシオンとルカスの6名がフランツ王国へ向かうこととなったのである。

明けて8月7日。カイナ村、二堂城前。

この日は朝から今にも雨が降り出しそうな曇天であった。

「さて、行くのは俺、礼子、エルザ、エドガー、そしてシオンとルカス、君らだ」

エルザは見知っていたが、連れているエドガーは初めて見るので少し警戒しているルカス。

「エドガーはエルザの護衛 自動人形(オートマタ) だよ」

仁が説明すると、シオンが感心した様な声を出した。

「ふうん、 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) ともなると弟子もそれなりの腕なのね」

「そういうことだな。さて、準備はいいかな?」

「俺たちは準備と言ったってほとんど無いからな。それよりどうやって、その、フランツ王国だったか? ……へ行くつもりだ?」

「飛んでいくさ」

「はあ?」

仁は2人に説明した。

カイナ村から、フランツ王国ークライン王国国境の町、ストルスクまで直線距離にしておおよそ300キロメートル。飛行船なら3時間ほどで踏破できる距離である。

不思議なことに、宗主国であるセルロア王国とその属国であるフランツ王国を結ぶ街道は存在しないのだ。フランツ王国へ行くには、必ずクライン王国を経由する必要がある。

これについて老君は、おそらく秘密の街道があるに違いないと見て、増強した 第5列(クインタ) に確認するよう指示を出していた。

「飛行船……これも 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) の作?」

魔族には、300年前の魔導大戦時、人類側が熱飛球なる乗り物を使用した記録が残っていたが、これはその想像を超えていた。

あれから改良を少し加え、積載量が増している。具体的には気嚢を大きくし、浮力を増したわけである。

「ああ、これで国境まで行く。クライン王国内なら出入り自由だからな。そこからは馬車で行こう」

その馬車はといえば、あらかじめ転送機で送り込んでおいたゴーレム馬仕様の馬車である。

「よし、行くぞ!」

二堂城から飛び立つ飛行船。一応『 不可視化(インビジブル) 』を使用し、騒ぎにならないよう配慮した。

「まっくらねえ」

とは、シオンのセリフ。高空に上がるまでは『 不可視化(インビジブル) 』を解かないので、外がまったく見えなくなるのは仕方がないことだろう。

だが、それを解除すると。

「うわあ、すごい! 雲の上だわ!」

水平飛行に移ったところで『 不可視化(インビジブル) 』は解除され周りが見えるようになる。

高空から下界を見下ろしたシオンは興奮してはしゃいでいた。

「ジンって……いえ、 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) ってすごい!」

ルカスもまた、あまり顔に出さないでいるものの、興奮気味なのは紅潮した顔でそれとわかる。

エルザでさえ、いや、仁にしても、やはり空からの眺めはいつでも新鮮なのだから。

どこまでも広がるような雲海を見下ろし、飛行船は飛んでいく。

いつしか雲は消え、下界が良く見えるようになっていく。仁は少し高度を落とした。それで地表が更によく見えるようになる。

「広い大地ねえ。やっぱり人間ってたくさんいるわ……」

後ろへ流れていく畑や集落を見ながら、シオンがぽつりと言った。

風の結界で更なる高速化をしている飛行船は2時間ほどでストルスクに到着した。人気のない郊外に、 不可視化(インビジブル) を展開しつつ着陸。

そこには転送機により、ゴーレム馬車が送り込まれていた。御者はもちろんスチュワード。

「さあ、乗り換えだ」

仁が指差すが、シオンは不思議そうな顔。

「じ、ジン……これ何?」

「俺の馬車だけど?」

「いや、でも、だから、どうしてここにあるのよ?」

「いや、それは企業秘密」

「企業?」

「まあそのうちに、な」

「……」

そんなやり取りの後、一行は馬車に乗り換えた。10分ほどでストルスクが見えてくる。

今年4月に起きた紛争の爪痕がまだそこかしこに残るストルスク。

国境の町らしく、城壁に囲まれているのだが、所々崩れかけていたりし、修復が終わっていないのである。

そんな町の外れにある関所へと仁の馬車は近付いていった。

「止まれ!」

関所の手前でクライン王国の国境警備隊兵士が馬車を止めた。

仁は自ら馬車を出、出入国許可証を見せる。もちろん着ているのはショウロ皇国貴族風のコートである。

「……確かに。通って良し!」

王家発行の許可証の効果は覿面で、馬車の中を一瞥しただけで兵士は通行許可を出した。

「……ちょっと甘い?」

兵士たちから十分離れた後、エルザがぽつりと呟いた。

いくら通行許可証があったにせよ、乗客の確認もせずに許可を出しているのは国境兵として怠慢なのでは、ということだ。

ラインハルトと共に外交の旅に出ていたこともあるエルザならではの感想である。

「本当に人材不足なんだろうな……」

仁も、かつてセルロア王国からショウロ皇国に入るときに行われた出国審査を思い出していた。

石造りの門をくぐればいよいよフランツ王国である。