軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15-15 いつわり

カイナ村時間で午後3時。

仁(の 身代わり人形(ダブル) )は様子を見に図書室を訪れた。礼子もちゃんと付いてくる。

「どうだい、シオン」

そして軽い驚きを覚える。シオンは既に10冊以上を読破していたのだ。

簡略化された内容とはいえ、ページ数にして500ページ以上。その速読ぶりは大した物だ。

「あ、ジン様、すばらしい蔵書ですね! 知らないことがたくさんあります!」

仁がちらと見たところ、『応急手当』『身体のしくみ』『身体をほぐす体操』『料理と栄養』『食物連鎖』などの本がそこに積まれていた。

これらは誰が見ても問題ないレベルまで下げ、噛み砕いて解説したものである。それでもこの世界にはなかった概念が多々含まれており、シオンはそれらを積極的に吸収していた。

一方で護衛の……はずのルカスは、本を手に持ったまま突っ伏して居眠りをしている。字が苦手というのは本当のようだ。

「はは、気に入ってもらえたならいいんだが」

そこで言葉を切る。シオンはその雰囲気を少し訝しく思ったようだ。

「ジン様、何かあったのですか?」

「うん? 何で?」

「いつもと雰囲気がなんとなく違いますから」

シオンの感じた違和感が、 身代わり人形(ダブル) だからなのかそれともこれから話そうとしている情報のせいなのかはわからないが、シオンは何かを勘付いたようである。

早めに話した方がいいかと、仁は情報を伝えることにした。

「シオン、イスタリスとネトロスという名前に心当たりはあるかい?」

「えっ!? どこでその名前を?」

「ああ、実は……」

仁はシオンに、その2人が隣国、フランツ王国で捕虜にされたということを説明した。

「なんですってえええ!?」

シオンの絶叫が響き渡った。居眠りしていたルカスも飛び起きるほどの声量である。

「わっ! な、何ごとですか、お嬢様?」

「姉上が捕まったって? 嘘よ! おまけにネトロスまで? ルカスならともかく、あのネトロスが? 信じらんない!」

大声で言い切るシオン。今までと口調が明らかに違う。

「……シオン?」

「お、お嬢様……」

呆気にとられる仁、顔をしかめるルカス。そして当のシオンは。

「……あっ……」

自分の態度と口調に気が付き、顔を赤らめた。

「……し、信じられないわっ!」

「……」

「…………」

言い直しても仁とルカスは無言のままであった。

そして無言の時が過ぎ、ついにその雰囲気にいたたまれなくなったルカスがぽつりと言った。

「……お嬢様、もうご自分を偽るのはおやめなさいませ」

「……はあ、そうね。……ジン、もうあの気色悪い言葉づかい止めるわ」

「う……うん、まあ、いいけど」

お淑やかの皮を被ったお転婆だったようである。

「イスタリス姉さまとネトロスが捕まるなんて嘘よ! ねえ、嘘でしょ?」

「……いや、本当だ。何でも、イーナクの町長が2人を騙して毒を盛ったらしい」

「毒……」

ぎりっ、と、歯ぎしりの音が聞こえそうなほどに口元を歪めたシオンは、悔しげな言葉を絞り出すように口にした。

「……卑怯な……」

「ああ、卑怯だな」

「え?」

同意した仁の言葉を耳にし、不思議な物を見るような顔つきで見上げたシオンとルカス。

「いや、そうだろう? 話し合いに来た相手を騙して毒を盛る。これが卑怯でなくて何なんだ?」

「それはそうだけど……まさか人間からそんな言葉を聞くとは思わなかったわよ」

「ただ、それは第三者としての意見だ。魔族としてみたら、そうされても仕方ない背景がある」

ここで仁は、マルコシアスが侯爵に砒素を盛ったことや、ラルドゥスが魔力性消耗熱を蔓延させたことを説明した。

「……マルコシアスやラルドゥスって、そんなことをしていたの?」

話を聞いたシオンは項垂れた。

「……魔族がみんな好戦的だと思われても仕方ないわよね。でも、信じて! そうじゃない氏族もいるってことを!」

「わかってる、と言うなら簡単だけどな。正直、君らはまだ信用されてない、ということなんだ」

現実を突き付ける仁。シオンはそんな仁を見つめていたが、やがて決心した顔で立ち上がった。

「口でいくら信じて、と言っても駄目なら、態度で示すしかないようね。……ジン、これがあたしにできる証明よ!」

仁が見ている前でシオンは服を脱ぎ、一糸まとわぬ裸身を晒した。

「あなたの好きにしていいわよ!」

目をきつく閉じ、直立するシオン。だが、その頬は赤く染まり、身体は小刻みに震えている。

「お嬢様!」

「ルカス、黙っていて」

抗議しようとしたルカスを黙らせたシオン。

「さあ、 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、ジン! どうするの?」

* * *

「……あー……まいったな」

蓬莱島では本物の仁が頭を抱えていた。

「ジン兄、何が、どうした、の?」

折悪しく、そこへエルザがやって来たのである。

「え、エルザ?」

「?」

狼狽する仁を訝しんだエルザは、仁の正面にある 魔導投影窓(マジックスクリーン) を見た。するとそこに映っていたのは。

「……シオン、さん?」

全裸になったシオンであった。

「……ジン兄? どういう、こと?」

エルザの冷たい声。

「い、いや、それが、その、なんというか……ああ、これだよ、これ。これで困っていたんだ」

焦っていたので、たどたどしくかなり支離滅裂な説明だったが、エルザは何とか事情を察したようだ。

「わかった。とりあえず、服を着させて上げた方が、いい」

「あ、ああ、そうだな」

魔族というのはところどころで人間と違う突飛なことをするから侮れない、と仁は冷や汗をかいていた。

* * *

意を決して裸身を晒したというのに、何もしてこないのを訝しみ、シオンは閉じた目をそっと開けてみた。

すると仁は固まったかのように動かないではないか。

(あれ……おかしいな? 人間の男ってこういう誘惑に弱いって聞いていたんだけど)

そんな事を考えていたら仁が動いた。身構えるシオン。

だが仁はそのまま後ろを向いたのである。

「シオン、君の気持ちはわかった。信用するよ。だから服を着てくれ」

「……何もしないの?」

「ああ。しない。だから服を着てくれ」

「……わかったわよ」

変な奴、と心の中で毒づきながら、シオンは服を身に着け直した。これも後ろを向いていたルカスはほっとする。

「……着たわよ」

その言葉に仁とルカスは振り返り、シオンと再び向き合った。

「それじゃあ改めて聞く。シオン、君はこれからどうしたいんだ?」