軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15-09 救援要請

仁がシオンに出来るだけのことをする、と約束した、同じ日の午後。

仁は再びシオンたちと話をしていた。

「済まない、どうしても聞いておきたいことがあるんだ」

「はい、なんでしょう」

ペルシカジュースにより魔力がかなり回復し、昼食も摂ったシオンはかなり元気が戻って来たようだ。

「魔族が使う魔法についてなんだ」

「! ……秘匿されているものが多いのです」

それは仁も理解できる。手の内を全て曝してしまうというのは馬鹿のやることだ。

「いや、俺の知っている範囲で答えてくれればいいんだ。俺が知っているのは重力魔法、爆発魔法、転移魔法、それに隷属魔法なんだが」

「そ、それは!」

声を上げたのはシオンでなくルカスであった。

「秘中の秘じゃないか! 何故知っているんだ!」

「ルカス、失礼ですよ。ジン様、済みません」

シオンは興奮気味のルカスを宥め、仁に詫びた。

「いや、いいんだ。何故知っているかっていうと、出会った魔族が使っていたからだよ」

「……やはり……」

シオンは納得したように1人頷く。

「ん? 何がやはりなんだ?」

「え、あ、はい、言い伝えで、『どんな些細なヒントでも 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) には与えるべきではない』というのがありまして」

要するに 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) の分析力、応用力を危惧した言葉らしい。

「僅かな切っ掛けがあれば、全貌を曝いてしまう、それが 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) だと」

僅かな切っ掛け、というのが少々大袈裟な気がしないでもないが、今の仁を見れば概ね間違ってはいないだろう。

「まあそこまではちょっと、な」

仁は頭を掻いた。

「……それらの魔法は使える氏族が限られています。私は……ルカスもですが……使えません」

「お嬢様! 何もそこまで!」

「いいえ、今私がしなければならないのは信頼を得ることです。話すべき事は話しましょう」

魔族の総数などは直接今の仁と関わらないので話さないが、魔法については話す。

そこにどんな基準があるのかはシオンにしかわからないが仁はそれで十分だった。

「それで……報酬なのですが」

「うん」

仁とて、一方的に利用されるつもりはない。それなりの見返りが欲しいところであった。

「奴隷……でよろしければ、あの……私を含め、10人くらいを……」

「却下」

一言で斬り捨てる仁。

「そんな面倒臭い物はいらない。というか、君たちの間にはそんな慣習があるのか……」

今の世界には奴隷制はない。裏社会は知らないが、少なくとも公にはそういうことになっている。これは人口が減りすぎたことも理由の一つ。

奴隷としての労働力よりも、使用人としての労働力を欲した。それだけではない。奴隷では経済を回せないのである。

つまり、給金をもらった使用人がそのお金でいろいろな物を購入することで経済という物は回るのである。

一言で言って、『お金が動くこと』、これが『景気が良い』状態だ。お金を溜め込み、そのまま抱え込んでいたら経済は少しも活気づかない。

その程度はこの世界の為政者も理解していたらしい。

「で、では、魔物系素材とか……」

「うん、そっちなら」

珍しい素材があったら欲しいと思う仁。だが礼子は渋い顔。

「お父さま、素材でしたら私たちが採取してきます。もっと他の物を要求なさった方がよろしいかと」

ルカスがそんな礼子をじろりと睨むが当の礼子は涼しい顔。

「で、では……」

「君たちの秘匿している魔法とか、 古代遺物(アーティファクト) とかないのかな?」

「え、 古代遺物(アーティファクト) ですか……一応、あります」

「あるのか! で、どんな? 話せる範囲でいいよ?」

「え……と……」

シオンは少し考えてからゆっくりと話し出した。

「実写機……というのがあります。風景とか肖像とかを紙に転写する魔導具です」

(……写真機かな?)

だとしたら仁がまだ作り出せていないものである。

「他には……あ、あの、時刻を知らせる魔導具があります」

(時計か! ……クロックが思いつけなかったんだよなあ)

「それから、小さい物を拡大して見る魔導具」

(顕微鏡かな? まあ、参考になるか)

無言で頷きながら聞いていた仁の顔を覗き込むシオン。

「あの……?」

「ん? ああ、いいかもな。武器や兵器は見せられないんだな?」

念のため聞いておく仁。どうも、軍事関係やそれに準ずる情報は出したくないようだ。まあそれも理解は出来る。

「えっと、あの、はい」

「まあいいか。あと一つ二つ、何か考えておいてくれ。とりあえずはそれで」

「え? い、いいんですか?」

「ああ、いいよ」

実は、単なるお人好し、というわけでもない。

地形から言って、カイナ村はパズデクスト大地峡に比較的近い。ということは、魔族の侵攻が起きたなら、真っ先に襲われる可能性があるわけで、仁としてもそういう事態は看過できないのである。

もちろんこの後、カイナ村北方の監視及び警備を増やす事になるだろう。

「あ、ありがとうございます!」

頭を床に擦りつけんばかりにした礼を言うシオン。土下座に近い仕草である。

「まあ、いいから。俺もそれなりに見返り期待しているわけだし」

そんなセリフでシオンの土下座を止めさせる仁であった。

* * *

「さて、そうなると、具体的な話になるわけだが」

仁はシオンをちらりと見た。

「身体の具合はどうだい? まだ話を続けられそうか?」

「は、はい! 大丈夫です。お願いします!」

もう大分良くなりましたから、と言って両手を振ってみせるシオン。それを見て仁は話を続けることにした。

「過激派を止める、か。具体的に何か案はあるのかい?」

「はい、族長……祖父の意見になりますが」

シオンは話し始めた。

過激派を止めるなら、その理由を潰せばいい。

理由とは突き詰めれば食糧問題である。

まずは当面の食糧を確保し、次いで継続的な調達先を見つけることだ。

自給できるならなお良い。

「……と、祖父は言っておりました」

「ふうん、よくわかる。ただ、それで済むかな?」

「と、仰いますと?」

「ああ、過激派、と言うくらいだ。人類へのちょっかいを止めるだろうか? 現にラルドゥスという魔族は面白半分にやっていた節があるし、奴のせいで死人も出ている。マルコシアスも、一国の重鎮をもう少しで死なせるところだったし」

仁の言葉を聞くと、シオンはその小さな身体をいっそう縮こまらせた。

「そ、それは……」

「被害を受けたのは俺じゃない。クライン王国とショウロ皇国だ。ああ、もしかするとセルロア王国にも何か被害が出ているかもしれないな」

そういった国として見たら、『いままでごめんなさい、もうちょっかい出しません』では済まないだろう、と仁はシオンに説明した。

「食料のことを考えるなら、クライン王国から買うのが一番いいんだがな」

「……」

この時点で仁には腹案があったのだが、まだそれを口に出すのは早いと思っていた。

「あ、最後に一つ。君はこの件について、魔族の中ではどんな位置を占めるんだ?」

「お嬢様は穏健派の中で最大の氏族、『森羅』の族長のお孫さんだ!」

今まで黙っていたルカスが大声を上げた。

「お前! 実力もないのに安請け合いしたんじゃないだろうな?」

「ルカス、失礼ですよ」

「いえ、お嬢様。言わせてください。……お前、俺と仕合をしろ! 俺に勝てば実力を認めてやる!」