軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15-05 謎の2人

「昨日のことなのだが、山鹿を捕りに北の山へ行っていたロックが、この子たちを連れてきてな」

村長ギーベックが経緯を仁に説明してくれた。

仁たちの前にはベッドがあり、少年と少女が眠っている。

少女は透き通るような白い肌に長い銀色の髪。少年は浅黒い肌に短い焦茶色の髪。

見た目はどちらも14、5歳くらいに見える。

「疲労と空腹によるものだとサリィは言うのだが、まだ目を覚まさないのだよ」

「……サリィ?」

「あ、いや、サリィ先生はそう言っておる」

サリィと呼び捨てにしたギーベックの顔を見ると少し照れて赤くなっている。

何となく察したが、正直中年男のそんな表情は見ていて楽しいものではない。仁は話題を変えることにした。

「身元はわからないのですか?」

「うむ、それらしいものは持っていなかった。ただ言えることは、こんな服装は見たことがない」

こんな、とは言っているが毛布が掛けられているのでどんなデザインなのか仁には見えなかった。

そこへ、奥で薬を調合していたらしいサリィがやって来た。そして真面目な顔で仁に尋ねた。

「ジン君、君の意見を聞きたい。彼等は……何ものだ?」

その言葉で、サリィはこの2人が普通の人間ではないことを薄々勘付いていると仁は悟った。

「……断言は……できませんが。きっと遠くからやって来たのではないか、と」

言葉を濁して答えておく。

「ふむ、遠く、か。倒れていた場所、着ていた服から見ても北からやって来たとしか思えない」

サリィは壁に目をやった。そこには毛皮の外套が2着掛けられていた。

「スノータイガーの毛皮ですね」

礼子がぽつりと言った。

「スノータイガー?」

仁、サリィ、ギーベックの3人は同時に礼子を見た。

「はい。ずっと北の森林に棲む魔獣です。お父さまをお捜ししていたとき、11回目に転移した先で見かけ、その姿から『スノータイガー』と呼びました」

真っ白な毛並みに、黒い横縞が入ったその様は確かに虎である。地球にもホワイトタイガーという白い虎がいるが良く似ていた。

「ご主人様、サリィ先生と私の見立てでは、魔力も欠乏しているように感じました」

そこへ更に、サリィの助手をしているナース・ガンマがやって来た。手には吸い飲みを持っている。

「うむ、そうなのだ。だが、1日経っても回復が十分でないと言うその理由がわからなくてな。……ああ、以前聞いた『魔力性消耗熱』とはまったく違うぞ? 単に魔力が無くなり、回復しないと言うだけだ」

魔力性消耗熱であったら伝染性であるからこんな悠長なことはしてはいられない、とサリィは言った。

「それで、体内の 魔力素(マナ) を回復させる薬を調合していたというわけだ」

ナース・ガンマが手にしている吸い飲みの中身がそれであるらしい。

「ああ、念のために言っておくと、魔物の血とかの動物由来ではないよ」

それが元でかつて迫害されたサリィは、動物由来でない回復薬を作ろうと日々努力を重ねていた。

「これは君からもらったペルシカジュースを精製したものだ」

サリィは独力でそこまで辿り着いたらしい。もっともナース・ガンマの助力もあるのだろうが。

食物繊維などの固形分を取り除き、遠心分離で 魔力素(マナ) の濃度を高めたという。もちろん振り回したのはガンマだ。

(礼子、『 麻痺(パラライズ) 』の準備。それからランドたちを呼び集めておいてくれ)

(わかりました)

(ランドたちにも『 麻痺(パラライズ) 』を準備させておけ)

(はい、お父さま)

(バリア)

仁は礼子を通じて、不意の出来事にも対応できるよう指示を出した。

そして最後の保険として。

(『 知識転写(トランスインフォ) レベル8・マイルド』)

『 知識転写(トランスインフォ) 』で彼等の知識をコピーしたのである。後で解析すれば、もし隠そうとしていても、正体は判明するだろう。

今、サリィは吸い飲みを少女に。ガンマは少年に吸い飲みをくわえさせている。

魔力素(マナ) の回復の効果を持った液体は少しずつ2人に与えられていった。

そして約1分。

「……」

少女の目蓋が動き、やがて目を見開いた。

そして自分を覗き込むナース・ガンマを見て身体を強ばらせた。

「……ひ!」

「ああ、大丈夫。安心していいよ」

その声のした方を向く少女。そこには穏やかな笑顔を浮かべるサリィがいた。

「に……にん……」

少女の顔色が更に青ざめる。

「ほら、無理をしてはいけない。もう少しお飲み」

まだ中身が半分以上残っている吸い飲みを差し出すサリィ。少女は怯えながら、その飲み口を口に咥えた。

* * *

「……あ、の……ありがとう、ございます」

落ち着いた少女がサリィに礼を言った。

「いや、気にしなくていい。身体の調子はどうだ? お腹が空いているのではないか?」

「えっと、はい……」

それを聞くとサリィは台所へ向かった。すっかりこの家に馴染んでいる。

「こちらの方も気が付かれたようです」

ガンマの声にそちらを見ると、少年も目を開けていた。そしてゆっくりと頭を動かし、部屋の中を見渡す。

「お嬢様! ご無事で……」

いきなり大きな声を出したためか、げほげほと咽せる少年。ガンマはそんな少年を横向きに寝かせ、背中をさすってやっていた。

「ああ、ルカス、大丈夫よ。ここのにんげ……人たちはお優しいから」

そして少女はそこにいる者たちを見回すと頭を下げた。

「助けていただいてありがとうございました。私はシオンと申します」

シオンと名乗った少女を改めて眺めると、腰まである銀髪、抜けるように白い肌。そして冬の空のように青い瞳が印象的だ。

片やルカスという少年は短く切られた焦茶色の髪に浅黒い肌、黒い瞳。光と影と言ってもいいくらいに対照的である。

「まあ、まだあまり喋らない方がいい。まずはこれでもお食べ」

台所からサリィはシチューを持ってやって来た。十分に冷ましたシチューである。

「あ、ありがとうございます」

「ありがとうございます」

ルカスとシオンは礼を述べると、むさぼるようにシチューを食べ始めた。よほど空腹だったようだ。

「まだあるから、そんなに慌てて食べなくていいよ」

苦笑しながらも、患者の元気が出てきたことに喜びを隠せないサリィであった。

まだあまり喋らせてはいけないと言われ、仁たちは病室を後にした。

「それで先生、明日ならもう少しいろいろ話を聞いてもいいでしょうか?」

「うむ、そうだな。まあ、大丈夫だろう」

「わかりました。また明日伺います」

仁は、その日はそれで帰ることにした。

* * *

「老君、引き続きカイナ村の厳戒態勢維持を頼む。但し極秘裏に」

『わかっております。あの2人が魔族である可能性は高いですからね。重力魔法、隷属魔法などへの対策及び無力化する手段、最悪の場合は殺害してでもカイナ村の人たちに被害を出さないようにいたします』

「よろしく頼む」

老君は 陸軍(アーミー) ゴーレム、ランド1から20までの、重力魔法対策が済んだ20体にプラズマソード、 麻痺銃(パラライザー) などの武装をさせ、カイナ村へと送り込んだ。

また、ファルコンを5機、カイナ村上空に待機させたのである。

仁はマーサ邸横の自宅に泊まり、 隠密機動部隊(SP) が周辺を念入りに警備、礼子は仁の側を片時も離れる事はなかった。

そして何事も無くその日は暮れ、夜が来て、8月5日の朝となる。