軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14-23 転換点

いくら仁でも、発想だけで新しい魔法や魔導具を作れるわけではない。しばらく考えを纏めることとした。

とりあえずは昼食である。今日はおにぎりだった。

地球では、海苔を消化できる酵素を持っているのは日本人だけ、という話もあるが、この世界では皆問題なく食べている。少なくとも仁の仲間たちは。

「塩味が、おいしい」

エルザはシンプルな塩味が好きなようだ。仁と同じである。

昼食が終わったのとほぼ同時に、老君が連絡してきた。

『 御主人様(マイロード) 。ラインハルトさん、ベルチェさん、サキさん、ステアリーナさんがいらしてます』

ショウロ皇国に行っていた仲間が全員やって来たようだ。仁は地下1階の司令室に全員を集めた。

「ラインハルト、久しぶり」

「まったくだ。ようやく領主の仕事も一段落して余裕ができたよ……」

そんなラインハルトは目の下に少し隈ができているようだ。

「アドバーグは今日も仕事ですけどね」

ベルチェがそんな付け足しを口にする。

「ショウロ皇国への亡命も受け入れていただけたし。落ち着けたわ。トアさんもいい人だし」

「くふふ、父がステアリーナさんを気に入ったようでね。ボクもほっとしたよ」

ステアリーナとサキも近況を報告した。

そんな感じでしばらく雑談をした後、仁は本題に入ることにする。つまり人造 魔結晶(マギクリスタル) についてである。

まずはラインハルトへの説明と詫びだ。

「……というわけなんだ。済まない、ラインハルト」

「くうう! 僕が懸命に仕事していた間にそんな面白いことをしていたのか!」

と、残念そうに叫び声を上げたラインハルトであるが、仁から詳しい説明を聞くと、なんとか落ち着いたのである。

「うーん、仕方ないな。で、今日これから、老君からの報告があるんだね?」

『そうです。皆様、よろしいでしょうか?』

全員無言で頷いた。

『では、説明させていただきます。まず私が目を付けたのはペルシカジュースでした』

特に蓬莱島産のペルシカジュースは 自由魔力素(エーテル) の含有量が高いことがわかっている。それを 自由魔力素(エーテル) ボックスで貯蔵すると更に含有量が上がることも周知の事実であった。

『もちろん、 魔結晶(マギクリスタル) が含んでいる 自由魔力素(エーテル) 含有量には遠く及びませんが、研究する上で役に立つと思ったのです』

そこで老君は、ペルシカジュースから、余計と思われる成分を順次取り除いていくことにしたのだという。

まずは糖分。果糖と呼ばれる糖の一種を工学魔法で分離した。次いで食物繊維を分離。この時点で、 自由魔力素(エーテル) の含有量は10倍に跳ね上がったのだという。

あとはビタミン類と、カリウム、鉄分などの無機質類。これでほとんど水分だけになる。だいたいペルシカの9割くらいが水分ということだ。

『ペルシカに含まれていた水分だけにして、 自由魔力素(エーテル) ボックスで1日保存したところ、含有量が約1200倍まで増えたのです』

「ちょっとまってくれ、その1200倍というのは、収穫時のペルシカと比較して、だよね?」

老君の言葉を遮り、サキが質問した。

『はい。説明が抜けていましたね』

「えーっと、含まれている 自由魔力素(エーテル) の量をどうやって測定するのか、教えてもらえないかな?」

首を傾げながら更にサキが尋ねる。

『わかりました。簡単に言いますと、一定量の『溶液』を 魔素変換器(エーテルコンバーター) で 魔力素(マナ) に変え、 魔力炉(マナドライバー) で魔力を発生させるのです。その持続時間を比較しました』

要は、エネルギーに変え、その量を間接的に比較した、ということ。電池で言えば、同じワット数の電球を何時間点灯させられるかを比較したと言えばいいだろうか。

「なるほど。それでわかったよ。ありがとう」

『続けます。この時の 自由魔力素(エーテル) 含有量は、同じ重さの 魔結晶(マギクリスタル) と遜色ない量です。ゆえに、この『溶液』を結晶化できれば、 魔結晶(マギクリスタル) になるのではないかと考えています。以上が判明した事実です』

一同は深い感銘を受けた。魔法工学において重要な素材である 魔結晶(マギクリスタル) 、それを人工的に合成できそうなのである。

少し間をおいて老君は話を再開する。

『ここからは推測になります。液体の状態においては固体の時よりも、液体の分子、その隙間に 自由魔力素(エーテル) が入り込みやすかったのだと思います』

仁は頷いた。自分もそういう可能性が高いと思うからだ。

「そうすると、ただの水に 自由魔力素(エーテル) を含ませる事ってできないのかな?」

ラインハルトが口にした、それもまた当然の疑問ではある。

『はい、それにつきましては、蓬莱島産ペルシカが含んでいる水分は、普通の水の同位体なのではないかと』

「ああ、なるほど」

銀の同位体、つまり銀の原子核に含まれる中性子60個もしくは62個のほとんどが魔力子に置き換わったものがミスリル銀。

チタンの同位体、つまりチタンの原子核中の中性子26個のほとんどが魔力子に置き換わったものが軽銀。

『このような同位体を 魔力同位元素(マギアイソトープ) と呼ぶことにします。そして、蓬莱島産のペルシカに含まれる水分、その水素と酸素は、おそらく 魔力同位元素(マギアイソトープ) なのです。その理由は、蓬莱島の土が触媒となって 魔力同位元素(マギアイソトープ) となるのではないかと』

「……」

「…………」

「わかったようなわからないような……」

仁以外の者には、いや、仁にとっても、老君が語った仮説の真偽は判断できなかった。

それでも、魔法と魔法工学の長い歴史、その大きな転換点にいるということだけは感じ取ることができたのである。

「エネルギー源として使うなら、固体にする必要は無いよな?」

しばしの沈黙の後、仁が口を開いた。

『はい。 魔素変換器(エーテルコンバーター) を少し変えて、空気中からでなく、『溶液』の 自由魔力素(エーテル) を使用するようにすれば大丈夫かと』

「……ジ、ジン、それって、もしかしたら途方もない出力を得られるんじゃないのかい?」

その意味に気が付いたラインハルトが興奮気味の口調で言った。

「ああ。空気中とは桁違いの 自由魔力素(エーテル) 濃度をもつ『溶液』から 魔力素(マナ) を精製したら…… 魔力炉(マナドライバー) の耐久性を無視するなら、100倍以上の出力が得られると思う」

「…………」

再度絶句する一同。この『溶液』は現代地球における石油のように扱いやすく、核燃料のように高出力を得る事ができるということにあらためて気が付いたのである。

『 御主人様(マイロード) 、この『溶液』ですが、何て呼べばいいでしょう?』

静寂を破ったのは老君の声であった。

「……エーテルを含む溶液なんだからエーテル水というのは?」

「ああ、ジン、それはあまりにセンスがなさ過ぎるよ!」

すかさずサキが否定した。

「……AW?」

エルザの提案。エーテルのAとウォーターのW。エーテル水よりはましだがやはり違う気がする。

「エーテノールというのはどうかしら? いえ、別に深い意味は無いんだけど、エーテルに似ていて語感がいいというか……」

「そうだなあ、いいんじゃないかな?」

そんなステアリーナの提案にラインハルトが頷いた。ラインハルトが頷けば、ベルチェも賛成する。ということで、『エーテノール』でいくことになった。

閑話休題。

「あとはエーテノールを結晶化させる方法か」

『はい。元が水ですから、凍らせれば確かに固体になります。ですが常温ではまた溶けて液体に戻ってしまいます』

ここであることに気が付いたエルザが発言。

「……でも、天然の 魔結晶(マギクリスタル) が含むのは 自由魔力素(エーテル) じゃなくて 魔力素(マナ) だった、はず」

「あ」

『確かに』

仁と老君、同じ勘違いをしていたようだ。先日の検証実験では、 魔力素(マナ) が 魔原子(マギアトム) でできた物質の隙間に入り込んでいる、という結論が得られていたのだから。

今回出来上がったエーテノールは 自由魔力素(エーテル) が 魔力同位元素(マギアイソトープ) でできた物質の隙間に入り込んでいる『溶液』。似てはいるが異なっている。

これはこれでものすごく役に立つ発見なので結果オーライだが。

『そうしますと、 魔素変換器(エーテルコンバーター) で 魔力素(マナ) を発生させ、その 魔力素(マナ) を固定する方法を見つければいい、ということになりますね』

「そうだな。属性によって色が変わるという現象から何かわからないかと思っているんだが」

魔力素(マナ) そのものには魔法のような属性はない。だが、火、水、土、風、光、闇などの属性により、 魔結晶(マギクリスタル) は色を変える。

改めてこれを元に、老君主導で検証をいろいろ行う事となったのである。

* * *

技術的な話の後。

「……また魔族が……」

仁はまずラインハルトに、セルロア王国で出会った魔族、『狂乱』のアンドロギアスの話をし、次いでエルザは知っているが他のメンバーは知らない情報、『 傀儡(くぐつ) 』のアルシェルの話をした。

同時に、魔族の使う重力魔法、破壊魔法、隷属魔法の説明も。

「魔族の使う魔法は体系や構成が我々のものと異なるので、解析に時間が掛かっているんだよ」

そして、それを自分たちの使う書式に直している、と説明した。

「この前、アンドロギアスの重力魔法を打ち消したのもそれだったんだね」

あとで説明してもらうのをすっかり忘れていた、とサキが言った。

「ごめん」

仁は謝り、魔族についての説明を継続する。一部の者には既に聞いた話かもしれないが、もう一度全員で同じ認識を持ちたかったのである。