軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

02-08 ポップコーン

翌日朝。今度はオレンジもどきの実を入れたカゴを持って仁は一人、ビーナの工房を訪れた。礼子は『蓬莱島』のゴーレムメイド達に新しい指示を出すため、居残りである。

「おはよう」

「あ、おはよう、ジン」

「今日はこれ持ってきた」

カゴに入れたオレンジもどきを見せるとビーナは、

「それってシトラン?」

「よく知らないけど甘酸っぱくてうまいから持ってきた」

「この辺には生えてないわよ? ジン、あなた、いったいどこから来てるの?」

当然の疑問である。

「あー、そうだな、その説明はもうちょっと後にさせてくれ。いずれ話すけど、今はまだちょっと」

仁がそう言うとビーナは少し不満そうに、

「むー、仕方ないわね。あたしが頼んで手伝ってもらってるんだから」

そう言いながらシトランのカゴを受け取った。

「で、冷蔵庫はどんな具合だ?」

「冷蔵庫?」

「あ、ああ。昨日作った魔導具さ」

「ふーん、『冷蔵庫』ねえ。いい呼び名じゃない」

仁の命名でないから当然である。

「それで、その冷蔵庫なんだけど、1つだけ欠点が見つかったわ」

「何だ?」

ビーナは冷蔵庫を置いてある台所へ仁を案内すると、

「ほら」

「あー、そっか」

そこには、水浸しになった床が。冷却用の氷が溶け、その水が床に滴ったのである。

「うーん、どうしよう」

「氷が溶けた水が下へ落ちなければいいのよね。でもそうすると冷えにくくなりそうだし」

2人で考えた結果、氷を金属の容器に入れることにした。溶けた水は再度凍らせて使う。

「銅を使うのがいいかな」

「何で? 今は鉄の方が安いわよ?」

「鉄は錆びるから耐久性に難がある。それに銅の方が冷気を伝えやすい」

「そうなの? それにしてもジンっていろいろなこと知ってるわよね」

「まあな。それじゃさっそく改良してみよう」

細かいことは後回しにして、早速改良に取りかかる2人。

内部の冷えには全く問題がなかったので、水漏れさえなくなれば、『冷蔵庫』は一応完成である。

「出来たな」

「ええ。それじゃあ3台くらい作りましょうか」

試作品はビーナが使いながら不具合を見たり、他にもいろいろ試す予定なので、売り物にする分を作ることにした。

「売り物だから外側は見栄えよくしよう」

そう言って仁は、木製の筐体を白く塗った。いわゆる『白物』である。

「へえ、なんかいい感じ」

サンプルがあるので、昼までに3台を完成させる事が出来た。まだ 魔石(マギストーン) を入れていないので動作してはいない。

「できた」

「ああ、おつかれさん」

「もうお昼ね。大した物は出来ないけど、一緒に食べる?」

「そっちがいいなら」

それでビーナは台所へ。何やら煮込んでいる。しばらくすると、野菜のスープが出来上がった。

「ナナとラルドに食べさせてくるから、先に食べてて」

そう言われたが、

「いや、そうはいかないよ。そうだ、シトランを剥いて持っていってやろう」

そう言って仁はシトラン(オレンジもどき)の実を2つ持ち、ビーナと共に弟妹の部屋へ行った。

「あ、ジンおにーちゃん」

ビーナの後ろに仁を見つけたラルドが声をあげた。

「やあ。今日はシトランを剥いてやるからな」

そう言って仁はシトランを剥く。みかんのように手で剥けるので、簡単だ。

「甘酸っぱくておいしい!」

ナナも大喜び。ビーナはにこにこしながら2人が食べるのを眺めていた。

台所に戻ってきた2人は自分たちの食事にする。いろいろな野菜を煮込んであるスープ、味付けは悪くない。だが、

「ん?」

固い歯ごたえ。ビーナは仁に、

「ごめんね。トウモロコシが固いでしょ? 一番安いやつだからいくら煮ても軟らかくならないの」

仁はトウモロコシを見つめ、ゆっくり噛んでみる。

「この感じ、もしかして……ビーナ、このトウモロコシはまだあるか?」

「え、ええ。袋買いしてるからまだあと8キロくらいあるかしら」

それを聞いた仁は大急ぎでスープを平らげ、そのトウモロコシを見せてもらう。手の上でひねくって見ていた仁は、

「これなら多分、できそうだ」

そう言うと、食べ終わったビーナをせっついて工房へと向かった。

「どうしたのよ?」

怪訝そうなビーナに、

「手っ取り早くお金になりそうな事を思いついた」

そう言ってビーナに指示を出し、1つの魔導具を作り始めた。

「そうだ。中くらいの浅い鍋を1つ……それに、大きな深い鍋を1つ。浅い鍋は宙吊りにして、下に 魔石(マギストーン) を仕込む」

そう言いながら仁は 魔導基板(プレート) に 魔導式(マギフォーミュラ) を書き込んでいく。それを見たビーナは、

「え? あたしの目がおかしくなったのじゃなければ、それって雷系の式よね? お鍋を使うのなら火系統じゃないの?」

すると仁はにやりと笑って、

「それがこの道具の特徴なのさ。よく見てみな、発生させる雷は極小にして、しかも極端に短い間隔で切り替えるんだ」

「そんなこと……できているわね」

仁はビーナと共に道具を組み立て、更にビーナに、

「さっきのトウモロコシ、それに油と塩を少しくれないか」

宙吊りの鍋に植物油と塩、それにトウモロコシを入れ、

「うまくいったらおなぐさみ」

そう呟いて、道具を起動した。

少しして香ばしいにおいがしてきたかと思うと、突然『ぱん』という音と共にトウモロコシが弾けた。ビーナはびくっとして、

「な、何なの?」

「よし! 成功だ」

1度弾け出すと、次々にトウモロコシは弾けていく。弾けたトウモロコシは下に置いた大きな鍋にたまっていく。やがて上の鍋にトウモロコシが無くなると、仁は道具を止めた。

「さあ、食べてみよう」

大きな鍋にたまった弾けたトウモロコシ。それをつまんで口に運んだ仁。

「うん、うまい」

それを見ていたビーナは、自分も弾けたトウモロコシを食べてみる。そして、

「あ。おいしい」

そして夢中になって食べていく。あっというまに鍋の中にあった弾けたトウモロコシは無くなってしまった。

「ふう、おいしかったわ。後を引くわね」

「だろ? ポップコーンていうんだ。これを露店で売ったら儲かると思うんだが」

「あ、そうね! 明日からさっそくやってみるわ!」

「冷蔵庫の方も買い手を探さないとな。ポップコーンが評判になればそっちの方も見つかるかもしれないぞ」

「そうね。とりあえず生活費を稼げるのは嬉しいわ。ジン、ありがとう!」

「なんの。……あ、これな、皮の固いトウモロコシでないと上手く弾けないから気をつけろよ」

「ほんと? 良かった。高いトウモロコシ使えばもっとおいしくなるかと思っちゃった」

それで、仁とビーナはトウモロコシや食用油、塩などを買いに行くことにした。

いずれも安い物ばかりだったのでなんとかビーナにも買うことができ、仁もトウモロコシを一袋、もらって帰ったのだった。