軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14-18 亡命……

サキから自分の家に来ないか、と言われたステアリーナはちょっと考え込んだ。

「サキさんの家、ね……」

「部屋はあるし、静かだし。父も一緒だけど普段いないし……」

仁も悪くない、と思った。

カイナ村に来てもらうにしても家を建てなくてはならない。とはいえ一日あれば建つのだが。

それより一番の問題はカイナ村住人とあまり馴染みがないことである。カルツ村は尚のこと。

サキの家は一軒家だし、周囲に家もなく、そういう意味で近所づきあいの必要はない。

更にいえば、国として保護してもらえれば言うこと無し。そう言う意味でもショウロ皇国はベターな選択肢である。

とにかくセルロア王国を出るのは早いほうがいいということで、当面はサキの家に一緒に住むということで話がまとまった。

そうなるとさっそく引っ越しである。

手分けして家財道具をまとめていく。持って行けそうもないものはごく一部の家具だけ。

服、食器、本などは、エドガーやアアル、セレネらが手分けして梱包してしまった。

魔法工作の道具類は重いので礼子が担当。だいたい50キロくらいの包みが3つ。

稀少な素材以外は置いていくことになる。

「……こんなもの、かしらね」

「まあ、最悪後で取りに来ることも可能だから。それより、本当にいいのか? 住み慣れた家だろう?」

少しだけ寂しそうな横顔を見た仁が声をかけると、ステアリーナは微笑んだ。

「……いいのよ。確かに自分の家だし、思い出も残っているけど。それより、不自由な暮らしから完全に抜け出せるなら、その方がいいわ」

「……そう、か」

仁は頷いたが、ステアリーナの寂しそうな顔を見て何やら考えているようであった。

「じゃあ、行きましょう」

それぞれ荷物を持ち、馬車に備え付けた 転移門(ワープゲート) をくぐる。

『しんかい』に一旦荷物を置き、もう一度取りに戻る。 転移門(ワープゲート) が小さいのでいっぺんに大量の荷物を、というのには無理があるのだ。

二往復で荷物は完全に無くなった。ここまで、時間にして約2時間。

馬車はスチュワードが走らせ、適当なところで派遣したコンドル3の 転移門(ワープゲート) で戻ってくる予定である。

ショウロ皇国バンネと、セルロア王国ゴゥアとの時差は2時間ほど。

サキの家に出た時、現地時間は午後1時頃であった。

「お世話になるわね、サキさん」

そう言ってステアリーナは大きな荷物を抱えたまま、エッシェンバッハ邸の玄関をくぐった。

「おや? あなたは?」

男の声。思わずステアリーナは荷物を取り落としてしまった。

「お父さん!」

サキが叫んだ。

そこにいたのは珍しく家に帰ってきていたトア・エッシェンバッハその人だったのである。

* * *

「ふむ、亡命、ということですな」

「え、ええ、それで、ご息女のお言葉に甘えさせていただく事になったのです」

30分後、とりあえず空き部屋に荷物を運び終えたステアリーナ、仁、エルザは、サキと共に応接室にいた。

因みにハンナは『しんかい』からこちらへは来ずに、カイナ村へ送り届けてある。今頃は家でマーサたちと夕ご飯を食べている頃だろうか。

「ご迷惑でしょうが、暫く置いていただきたいのです……」

俯いたステアリーナは、ちらりとトアの顔を見やった。

トアは今年44歳。サキに良く似た赤茶色の髪、紫グレイの瞳。やせ気味で、ステアリーナより少し背が高い程度。

「いや、私は家にあまり居つかないものでね。娘がいいというならいいでしょう」

あまり物事に頓着しない性格のトアはあっさりとステアリーナを受け入れた。どうやってセルロア王国から来たのか、なども詮索されなくて助かっている。

「……で、他の皆さんは?」

これは仁たちへの質問である。

「あ、俺は仁といいます。サキ……さんとは友人です」

「……エルザです。ご無沙汰、してます」

トアはエルザの顔を見てちょっとだけ思い出そうとしたあと、

「エルザ……? ああ、あのお嬢さん! お久しぶり! 随分大きくなって!」

やや高めのテンションで話しかけた。

「は、はい」

サキの父親と言うことで、庶民ではあるがトアは過去にも数回、エルザと顔を合わせていたのである。

「で、ジン君がエルザさんの婿さんかな?」

「え」

「い、いえ、ジン兄は、わた、私の、義理の兄、で」

うっすらと頬を染め、必死になって否定するエルザ。トアの横に並んで座っているサキは、そんな彼女を珍しいものを見るような顔で眺めている。

「ほう、なんだか複雑な事情がありそうですな」

トアはそう言ってそれ以上追求することはしなかった。

ステアリーナはといえば、トアのことを真っ直ぐに見つめていた。

「トア様、錬金術ではクリスタルを作る事ってできますの?」

そんな質問に、トアは笑って答える。

「はは、錬金術という名前ではあっても、ゼロから素材を作る事なんてできませんよ。精々が変質させて用途を増やすくらいなもので」

「まあ、そうなんですの?」

「ええ、元々は黄金を作り出そうとしたらしいのですが……」

なんとなくトアとステアリーナは相性が良いというか、話が合うらしい。

珍しく熱弁を振るう父を、サキはこれまた珍しいものを見た、という顔をして眺めていた。

「まあとにかく、ステアリーナの引っ越しが決まって良かった」

「まったくだね。父も認めてくれたようだし、ほっとしたよ」

「サキ姉、おじさまはステアリーナさんを気に入った、みたい」

エルザがそんなことを言った。確かに、トアとステアリーナは初対面だというのにかなり親しげに語り合っているようだ。

「エルザ、俺たちも一旦蓬莱島へ帰ろうか。エドガーを診てやらなくちゃな」

「……うん。帰ろう」

そういうわけで、仁とエルザは一旦蓬莱島へ戻ることにした。サキは久しぶりに帰って来た父親と色々話すこともあるだろう、と仁は思った。

本当は、内心いろいろとトアに聞きたいことがあったのだが、親娘の時間を優先したのである。仁なりの心遣いであった。

「それじゃあサキ、また」

「ああ、またね」

そして仁、エルザ、礼子、エドガーの2人と2体は蓬莱島へと移動した。

* * *

「まずエドガーを停止させて」

もう蓬莱島は夜だったが、2人が真っ先に行った事は、当然エドガーの整備である。

服を脱いだエドガーは作業台の上に横たわる。製作者であるエルザが『停止』の 魔鍵語(キーワード) を口にした。

仁とエルザは停止したエドガーを手順に沿って分解していく……。

「ああ、やっぱりダメージがあったな」

仁とハンナ、礼子がいない間に何があったのかは聞いて知っている仁であるが、実際にエドガーを診ると、その状況が更に現実的に想像できる。

「骨格が少し歪んでいるな……軽銀で良かった」

軽銀は軽く丈夫な上、粘りがある素材なので、攻撃を加えられても壊れずに済んだのである。もし青銅なら割れてしまう可能性もあっただろう。

「64軽銀に替えてやろう」

「うん」

軽銀より更に強く、『 硬化(ハードニング) 』や『 強靱化(タフン) 』の効果も高い素材だ。更に、重要部分にはアダマンタイトで補強を入れて行く。

基本、作業はエルザ。仁は傍で指導に徹する。

「よし、あとは出力アップだな」

エルザを守る、という目的を考慮すると、今のままでは力不足は否めない。 第5列(クインタ) 並か、もう少し欲しいところだ。

魔法筋肉(マジカルマッスル) を 疑似竜(シャムドラゴン) 素材に替えることにする。

魔素変換器(エーテルコンバーター) と 魔力炉(マナドライバー) も一新し、より出力を出せるように。

3時間を費やして、エドガーの修理と強化は滞りなく終わった。