軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14-16 五人目

「……なかなか優秀な 自動人形(オートマタ) を持っているじゃないか。参考になったよ」

「アンドロ? お、お前……」

雰囲気の変わった少年従者、アンドロに驚くベアトリクス。

「お嬢様、申し訳ないですが、あなたの従者として振る舞うのもこれまでのようですね。せっかく楽しいひとときだったのに。お前たちのおかげで……ねっ!」

アンドロはそこに転がっていた護衛 自動人形(オートマタ) を仁たちに向けて蹴り飛ばした。

驚いたことに、 自動人形(オートマタ) は宙を飛び、およそ5メートル離れていた仁たちのバリアにぶつかって地面に落ちた。

「お、お前、いったい……」

その人間離れした身体能力を見て、アルベールが驚きの声を上げる。

「僕の本当の名前はアンドロギアス。『狂乱』のアンドロギアスだ」

その名乗りを聞いた仁は思わず尋ねてしまう。

「お前……もしかして魔族か」

「へえ? 魔族を知っているの?」

アンドロギアスの顔が少しだけ驚きを浮かべた。

「魔族!? アンドロ、お前、魔族だったの?」

ベアトリクスの大声。

「うるさいなあ。我が儘お嬢様、黙っててよ。僕は今こいつと喋ってるんだから」

冷たい声でベアトリクスを遮ったアンドロギアスは改めて仁に向き直った。口調も、こちらが地なのだろう。

「……で、君、魔族を知っているの?」

「……いや、会ったことは……ああ、マルコシアスとか言う奴と会ったことが……いや、『会った』わけじゃないな」

ただ、蓬莱島勢としてみると、ラルドゥス、ドグマラウド、ベミアルーシェ、そしてマルコシアスに続き、五人目の魔族である。

「ふうん? よくわからないけど、魔族を知ってはいるようだね」

そこでアンドロギアスの雰囲気ががらりと変わる。

「……生かしてはおけないね、『gravita』」

「まずい! 『 軽量化(エア・ライヒテルン) 』」

仁は、たまたま持っていた軽量化魔法の刻まれた 魔結晶(マギクリスタル) を起動させた。老君が、飛行船の墜落事故に備えて持たせてくれたものである。

そして、それはアンドロギアスの重力魔法を辛うじて相殺した。詠唱はアンドロギアスの方が先だったが、魔法の発動は仁の方が早いようだ。

「なっ!? なぜ君たちは平気なんだ? 今、君たちの体重は10倍以上になっているはずなのに!」

エルラドライトを使わなければ、単独で使えるのが10倍までなのか、それともアンドロギアスが未熟なためなのか、それはわからないが、今、仁たちを襲っているのは10倍ではなく1.2倍程度の重力であった。ちょっと重い荷物を背負っている感じで、ハンナでさえ『何?』という顔をしている。

「『 麻痺(スタン) 』」

「くっ!?」

アンドロギアスが一瞬呆けた隙に、礼子が魔法を放った。殺す気ではなく、生け捕りにしていろいろ聞き出す目的のため、気絶させる魔法だ。

「あっ!?」

「きゃっ!?」

だが、その魔法はアンドロギアスが纏っていた不可思議な結界に阻まれ、四散した。そしてその余波で、我が儘兄妹、ベアトリクスとアルベールが巻き添えを食らってひっくり返ったのである。

倒れた2人には目もくれず、礼子は次の魔法を放つ。

「『 風の斬撃(ウインドスラッシュ) 』」

気絶させる電撃をはね返されたので、半ば物理的な攻撃でもある風魔法をぶつけたのだ。

「ふん」

だが、その攻撃もアンドロギアスは笑って受け流したのである。

「そっちの 自動人形(オートマタ) から先に片付けるか。『gravita』」

礼子の身体が一瞬ぶれた。重力が増えた証拠だ。

「……」

「ふん、こっちは重力魔法を使えないようだな」

にやりと笑うアンドロギアス、だが礼子は何も感じていないような顔で歩いて行く。

「な! なんだ、お前! まさか、効いていないのか?」

「いえ、確かにわたくしの体重は今、300キロ程になっていますが、それがどうしたというのです?」

数トンであろうとものともしない礼子である。アンドロギアスは蒼白になった。どうやらこれが彼の限界らしい。

「魔法は跳ね返されましたが、これはどうですか!」

その言葉の後、礼子は地を蹴った。

一瞬でアンドロギアスの前まで移動した礼子は、右ストレートを鳩尾目掛けて繰り出す。

結界は礼子の拳を食い止めるかに見えた。が、それは一瞬のことで、出力30パーセントで繰り出された礼子の拳はほとんど勢いを殺されないまま、アンドロギアスの腹部に突き刺さった。

しかも、体重30キロの礼子が放ったのではなく、300キロの礼子が放ったパンチとして。

アンドロギアスを数メートルだけ吹き飛ばすに留まったものの、途轍もなく重いその一撃は彼の意識を刈り取るのに十分であった。

気絶したため重力魔法も解け、仁も軽量化魔法を解いた。

「ふう、これを持っていて良かったよ……」

「ジ、ジン! 君も重力を操れるのかい?」

サキが驚いているが、仁は説明はあとだ、と宥める。

「それよりもあいつをどうするか、だ」

仁たちから10メートルほど離れた道路上に伸びているアンドロギアス。魔族の貴重な情報源になり得る。何故こんな事をしていたのか、興味は尽きない。

「まずは『 知識転写(トランスインフォ) 』を試してみるか」

気絶しているとはいえ、いつまた気が付くかわからないので、仁は慎重に一歩を踏み出した、その時である。

「『 炎玉(フレイムボール) 』」

「なっ!?」

炎魔法が放たれ、アンドロギアスに直撃した。

「『 炎の嵐(フレイムストーム) 』」

そしてもう1発。

魔族の少年は、一瞬びくんとしたがそれも束の間。強力な炎はたちまちのうちにアンドロギアスを灰にしてしまったのである。

「ハンナ、見るな」

咄嗟に仁はハンナの視界を塞ぐように抱きしめた。

「……はあ、はあ」

炎玉(フレイムボール) を放ったのはベアトリクス、 炎の嵐(フレイムストーム) を放ったのはアルベールであった。

「……なんてことを!」

仁がそう叫ぶと、ベアトリクスはキッと仁を睨み付ける。

「何よ? こいつは魔族、人間の敵なのよ!」

「その通りだ。我々を騙し、 唆(そそのか) していた。それを罰して何が悪い」

先程の『 麻痺(スタン) 』、その余波を喰らって精神操作は解けたのではないかと思われるのだが、その性格はあまり変わっていなかった。

「……いや、色々取り調べた方が良かったのに、と思って」

「取り調べ? 必要無い。魔導大戦でも最終的に人類が勝った。次があったとしてもまた人類の勝ちだ」

仁の言葉にも耳を貸す気配のない我が儘兄妹。正気に戻ってもこのざまだ。

「……」

もうどうしようもないので、勝手にしろ、と言う気分で仁は肩の力を抜いた。

抱きしめたハンナの頭を撫で、

「帰ろうか」

と言えば、エルザもサキもステアリーナも無言で頷く。

「き、貴様等、どこへ行くつもりだ!」

アルベールが何か叫んでいるが、仁は耳を貸さない。

エドガーも自力で歩けるようで、そのまま振り返ることなく歩いて行く仁一行。

「覚えていろーーー」

まだ何か言っているが、礼子が怖いのだろう、我が儘兄妹が近付いてくることはなかった。

* * *

「……何か疲れた」

ステアリーナの家に戻った一行は精神的に疲れ、ソファに沈むように身体を預けていた。

ハンナも歩き疲れたらしくお昼寝中。礼子が傍に付いてあげている。

「ほんっとうにごめんなさい!」

土下座せんばかりの勢いでステアリーナが頭を下げた。

「まさかこんな事になるとは思わなかったの! 特にエルザさん、ごめんなさい」

「……気にしてないし、そんなに謝らなくて、いい」

「……ありがとう」

別にステアリーナが意図したわけでも無し、それを責めるような者は誰もいなかった。

「ステアリーナがこの国を見限りたくなる気持ちが良くわかるよ」

徐に仁が口を開いた。うんざりしたような顔をしている。

「でしょう?」

「本気で引っ越した方がいいだろうな。今日の事で目を付けられただろうし」

仁たちはステアリーナの今後を相談することにした。

「もうここにもいられそうもないわ……」

疲れたような声のステアリーナ。

「ああ、ボクもそう思うね」

「……私も」

全員、引っ越した方がいい、という意見だった。

そうなると、引っ越し先である。仁のカイナ村か、それとも蓬莱島か。はたまたラインハルトのカルツ村か。

さすがに蓬莱島だと、完全な引きこもりになりそうであるし、 転移門(ワープゲート) があるのだから、ということでカイナ村かカルツ村の二択となる。

「いや、ボクの家に来ないかい?」

そこへ、第三の選択肢として、サキが提案をしてきたのであった。