軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13-29 苦戦

「ジ、ジン……どうする気なんだい?」

青ざめた顔のサキが震え声で言った。

「物理的に潰すしかないだろう」

「物理的に……何だって?」

「サキ姉、ジン兄が言う意味は、力でなんとかするという、意味」

エルザの解説にサキは尚更わからないという顔をした。

「礼子、先頭の1匹を止めてくれ!」

『わかりました、お父さま』

本来なら最後尾を抑えるのがセオリーなのだろうが、僅かとは言えレーザーで傷付き、暴れている個体を優先して始末しようとしたのである。

タイタンの速度は時速150キロ。 巨大百足(ギガントピーダー) の8倍近い。あっと言う間に5匹を追い抜いて回り込み、傷付いて凶暴に暴れ回る1匹を捕まえた。

だが体長50メートルの 巨大百足(ギガントピーダー) は思った以上に力が強く、タイタンに巻き付いて押さえ込もうとした。

他の4匹は我関せずとトカ村方面を目指していた。一斉に掛かってこないのは正直助かる。

「このっ!」

タイタンの拳が 巨大百足(ギガントピーダー) の頭部に炸裂。驚いたことに、礼子の200パーセントと同等という出力で振るわれたその一撃でも頭が潰れることはなかったのだ。

多少動きが鈍った程度である。だがそのおかげで、2撃、3撃と拳を叩き込むことができ、さしもの 巨大百足(ギガントピーダー) も目に見えて動きが鈍くなった。

「よし、礼子、どけ!」

仁は 魔力砲(マギカノン) の照準を合わせた。

「発射!」

ほんの数百メートル先ということで出力を調整、マッハ3ほどの速度で打ち出されたアダマンタイトの弾頭は、狙い過たず 巨大百足(ギガントピーダー) の胴体を貫いた。

途端に黄色い体液が噴き出す。

体液が掛かった付近の岩から煙が吹き出した。強烈な腐食性の体液らしい。強酸かもしれない。少なくとも口から吐く液と同じ物のようだ。

「礼子! 気を付けろ!」

酸の組成によっては、軽銀(=チタン)といえど、まったく無事というわけにはいかない。礼子は対物質用の 障壁結界(バリア) を張った。

真ん中から千切れかけた 巨大百足(ギガントピーダー) は、かえって暴れ出した。

口から液体を噴射。タイタンは辛うじて避けたが、その液体が掛かった岩は白煙を上げて溶け始めた。やはり体液と同じ組成のようだ。

報告を受けてはいたが、目にすると驚異ではある。

「奴め、体内で何か強酸を合成しているのか?」

もしかすると、酸よりも強力な何か……物質を腐食させるような液体かもしれない。

とにかく、迂闊にタイタン、礼子、そしてゴーレム達を接触させないようにしないとまずい、と仁は警戒を強めた。

残った4匹の 巨大百足(ギガントピーダー) は少し速度を上げ、時速30キロほどでトカ村を目指していた。

「頭を完全に潰す必要があるのか……」

胴体を貫いたくらいではなかなか死なず、周囲に破壊を撒き散らす千切れかけの1匹を見て、仁は考え込んだ。

「ぶつ切りにでもしないと止まらないな…… 水流の刃(ウォータージェット) もいいが……そうか!」

仁は以前作った魔法剣、『村正』と『正宗』を思い出した。

「ここは熱系が有効だろうな……老君、『正宗』をこっちへ送ってくれ」

作ったきり、ろくに使わず、箪笥の肥やしならぬ倉庫の肥やしになっていた魔法剣。

それは 転移門(ワープゲート) 経由ですぐに送られてきた。

「よし、ここをこうして……」

すぐに改造に入る仁。そんな彼を不安そうに見つめる4つの瞳。

「ジ、ジン、何をしているのかわからないが、そんなのんびりしていていいのかい?」

「ジン兄……」

なすすべもなく不安そうなサキと、仁でさえ持て余しているらしい 巨大百足(ギガントピーダー) におののくエルザ。

「……よし、できた」

改造の終わった魔法剣を持った仁は、ペガサス1の天窓を開けると、空へ向けて作動させた。

紫色を帯びた青白い光が伸びる。その光の剣は10メートル程にも達した。すぐにそれを止める仁。魔導回路に過負荷をかけて作りだした即席の武器だ。

「よし、上手くいった」

「ジ、ジン! そ、それは?」

「大急ぎで改造した『プラズマソード』だ」

「ぷらずまソード?」

高温の気体を更に熱すると、気体の分子は陽イオンと電子に別れてしまう。この状態がプラズマである。

熱プラズマと呼ばれる状態を仁は作り出し、剣の形の結界で閉じ込めたのだ。

その温度はおよそ10億度。核融合を起こせる温度である。

「多分長い時間は保たない……やっぱり礼子に頼るしかないな」

仁は 魔素通信機(マナカム) で礼子を呼び出し、礼子はそれに答える。タイタンを後方に下がらせた礼子は、操縦席から出て、仁に手を振った。

それを見た仁は空からプラズマソードを放り投げる。礼子は危なげなくそれをキャッチ。

「『お父さま、これを使えとおっしゃるんですね』」

魔素通信機(マナカム) から響く礼子の声。

「ああ、そうだ。おそらく短時間で魔導回路が焼き切れる。時間との勝負だ。頼むぞ!」

「お任せください」

通信を切った礼子は100パーセントの出力を解放した。

* * *

『……レーザー砲は効果薄く、 魔力砲(マギカノン) も同様ですね』

蓬莱島の司令室では 魔導投影窓(マジックスクリーン) に映し出された戦いの様子を老君が解析しながら説明していた。

「ジンは、どうする気だろう?」

ラインハルトの顔にも焦りの色がある。あれだけの威力を持つ武器でも大した戦果を上げられないとしたら、打つ手はあるのだろうか。

『ご心配には及びません。ぶっつけ本番になりますが、まだ2つ、手段は残っています』

老君はそう言って残った皆を安心させた。

その時、仁からの要請が入る。老君は即座に反応し、移動用端末、老子に命じて魔法剣『正宗』をペガサス1へと転送した。

「老君、今のは?」

『以前 御主人様(マイロード) がお作りになった魔法剣です』

簡単に説明をする老君。聞いたラインハルトは仁に対し更なる尊敬の念を抱いた。

『おそらく 御主人様(マイロード) は……説明するより、その目でご覧下さい』

魔導投影窓(マジックスクリーン) には、巨大な光の剣を振るう礼子の姿があった。

いや、ラインハルトたちの目では、礼子らしい影がそれこそ目にも止まらぬ速さで動き回り、 巨大百足(ギガントピーダー) をぶつ切りにしていくのが見えるだけだったのだが。

まず千切れかけていた1体があっと言う間に7つに分割された。斬られた断面からは血も体液も噴き出すことはない。仁が 水流の刃(ウォータージェット) を使わなかった理由はここにある。

体液による周辺への被害を防ぎたかったのである。いや、周辺より何より、剣を振るう礼子への。

そしてまた1体が8つになり、もう1体が9つになって地面に転がった。そして4体目がまず真っ二つに両断された、その瞬間。

眩しいくらいだった光の剣の輝きが消えた。

「くっ、限界ですか!」

約5秒。限界を遙かに超えて酷使された魔法剣『正宗』は魔導回路が焼き付き、その動作を止めたのである。

3体は完全に仕留めていたが、1体は不完全、そしてもう1体は無傷。

無傷の1体はトカ村方面への移動を継続中。

両断された方の身体はまだ動きのたうち回り、口から吐き出す体液は木と言わず岩といわず腐食し焦げ付かせていた。

液体の正体が不明なため、礼子と言えども近付くことは危険であり、仁はそれを許さなかった。

「こうなったら老君、もう一つの魔法剣『村正』も送ってくれ」

『はい、直ちに』

正しく一瞬で送られてくる雷系魔法剣『村正』。仁は再度改造に取りかかった。

1分足らずで改造は終了。

「礼子、もう一度頼む!」

「はい、お父さま!」

再び投げられた魔法剣を受け取る礼子。そして光を放つーーー。

「ジン、あれは? さっきと違うぞ?」

「ああ、今度のは雷系の魔法剣だからな、効果も多分少し違うかもしれない」

日が落ちて暗くなった地上を照らすのは紫電を放つ光の剣。

メガ電子ボルトに励起されたプラズマは、剣状の結界を突き抜けて紫電を纏っていた。

そして振るわれる神速の剣。今度こそ 巨大百足(ギガントピーダー) は全滅したのであった。

* * *

「や、やった……」

魔導投影窓(マジックスクリーン) を見つめていたラインハルトたちはほっと溜め息を吐いた。

「す、凄かったですね……」

「ああ、さすがジン、そしてレーコちゃんだな」

「……なんというか、規格外というか、ジン君だからというか」

『これで残るは後始末ですね』

老君の音声にもどことなく安堵の響きが感じられた。

そしてペガサス1の中にもほっとした空気が漂う。そんな中。

「ん?」

外を見ていたサキが怪訝そうな声を上げた。

「ジン! あれを見ろ!」

「え?」

サキが指し示したのはイナド鉱山。

崩れかけた坑道からは無数の 巨大百足(ギガントピーダー) が暗闇の中、這い出して来ていた。