軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13-23 全てを

ラインハルトの引っ越しが一段落したとなると、決まっていないのがステアリーナをどういう形で迎えに行くかである。考え込む仁。

「うーん、御者はいるわけだよな……」

仲間でも何でもない御者の前でいきなり連れていくわけにはいかない。なかなか難しい問題であった。

ショウロ皇国内でなければ攫われたように見せかける手もあるのだが、ショウロ皇国内でそれをやったら国際問題に発展しそうだ。

セルロア王国に入っていたなら問題無い(国際的には)のだが。

仁は悩んだ。そして思いついたのは1つの方法。

「これだ!」

「お父さま?」

思わず叫んでしまった仁を、礼子が怪訝そうな顔で見つめた。

「あ、いや、ステアリーナを迎えに行くのに、ちょっといい手を思いついたからさ」

「ほう? どんな手だい?」

ラインハルトが興味深そうに聞いてくる。

「おそらくだが、ステアリーナは雇った馬車で帰国しているんだと思う」

「ああ、それは間違いないだろう」

「だったら、その馬車を……」

そこまで仁が言いかけると、ラインハルトもわかったらしい。

「ジンが肩代わりすればいいのか!」

「そうさ。そうすれば、とりあえず馬車だけ走らせておけば、中に誰も乗っていなくてもばれないだろう。万一というなら身代わりを乗せておけばいい」

「くふ、なんだか面白そうじゃないか」

横で聞いていたサキも乗ってきた。

「今朝、ロイザートを発ったなら、普通の馬車だとリアレ泊まりだろう」

ラインハルトも馬車の位置を推測する。実際は、ステアリーナの魔力パターンはもうわかっているので、 魔力探知機(マギレーダー) により位置を特定できるのだが。

「今夜のうちに、もしくは明日の朝リアレに行って、馬車を乗り換えさせられれば一番手っ取り早いんだが……ちょっといくらなんでも距離がありすぎるなあ」

そう言ったラインハルトであるが、仁が薄笑いを浮かべているのを見て驚く。

「……そうか、ジン、君には距離なんて問題じゃないんだな?」

無言で頷く仁。ラインハルトは目を瞑り溜め息を一つ。そんな彼に向かって仁は一言。

「そう言うことも含めて、明日ステアリーナが来たら話すよ」

それを聞いたラインハルトも一言返す。

「ああ、楽しみにしているよ!」

* * *

その夜、仁は礼子と共にもう一度蓬莱島へ移動した。そこで出した指示は一つ。

「老君、ダミーのゴーレム馬車を1台、明日の朝までに用意してくれ」

『わかりました。ステアリーナさんを迎えに行くのですね?』

僅かな会話を交わしただけで、老君には仁の計画がわかったらしい。

ステアリーナに 魔素通信機(マナカム) で連絡を入れる。

『あら、ジン君? なあに?』

「実は明日、こういう予定があって……」

計画を説明する仁。それを聞いたステアリーナが喜んだのは言うまでもない。

細かな仕様を詰め、仁はその夜は蓬莱島に泊まった。

明けて2日。時差の関係で仁は朝はのんびり出来る(その分夜は遅かったのだが)。

朝風呂を使い、ゆっくりと食事をして、いよいよ出発だ。

すっかり定番になりつつある、転送機での出撃。今回はリアレ上空にペリカン1と共に転移した。ペガサス1を使わないのは馬車を運ぶからだ。

蓬莱島とリアレの時差は約5時間。8時に蓬莱島から転移すれば、リアレはまだ午前3時。

真っ暗な中、人目につかないよう 不可視化(インビジブル) も使いながらリアレ郊外に着陸し、馬車を下ろす。もちろん新規に作ったゴーレム馬と御者のスチュワードも付いている。性能はかなり落としてあるのだが。

ゆっくり走らせても、夜明け前にリアレの町に到着した。

ショウロ皇国への旅で、この街道は仁も一度通ったので少しは勝手がわかる。仁は街道脇に馬車を停め、夜明けを待った。

午前5時。リアレは開放的な町で、朝早くから荷馬車が動き始めた。そろそろいいか、と仁は馬車を走らせた。

「えーと、街道沿いのホテルだと言ってたな。お、あれか?」

魔素通信機(マナカム) で連絡した時に聞いていたのですぐにそれとわかった。

「『ケメリア・ホテル』、と。間違いないな」

ケメリアは椿に似た赤い花である。その名の通り、建物の敷地内にはケメリアの木が多く植えられていた。

「あら、ジン君、早いのね」

5時半というのに、ステアリーナはホテル前に出ていた。

「おはようございます。ステアリーナさんこそ早いですね」

「ね、これがその馬車?」

ゴーレム馬を見たステアリーナは目を輝かせている。

「ええ、まあ」

「素敵ね! じゃあ、出発しましょ!」

「え?」

「え、じゃないわよ。もう契約していた馬車は解約したし、ホテルもチェックアウトしちゃったわ」

良く良く見れば、大荷物が積み上げられている。そしてクリスタル……ブルートパーズ・ゴーレムのセレネ。

その素早さには仁も驚いた。それだけ、ステアリーナは蓬莱島へ行くのを楽しみにしていたのである。

「わかりました、じゃあ行きましょう」

8人乗りサイズの馬車であるから、荷物も十分積める。礼子にも手伝って貰い、手早く荷物を積み終えると、仁は馬車の向きを変え、来た道を戻り始めた。

「あらあ、この馬車も乗り心地いいわね。ほとんど揺れないわ」

アクティブゴーレムサスペンションの威力、石畳でも悪路でも、同じような乗り心地を約束してくれる。

「それに速いわ。普通の馬車の倍くらいかしら?」

性能を落としてあるとはいえ、ステアリーナの言うように一般的な馬車の倍以上の性能は持っている。

6時には街道を離れ、ペリカン1の着陸地点にやって来た。

「持っていきたい荷物は?」

「そうね、着替えと……それに……これでいいわ」

手で持てる程度の、文字通りの手荷物だけを持ち、ステアリーナは馬車から下りた。

「それじゃ、こっちへ」

不可視化(インビジブル) 状態のまま、礼子に先導してもらって乗り込む。

「あら? ここからも行けるの?」

詳しいことは後で、ということを納得してもらい、仁とステアリーナ、礼子とセレネが 転移門(ワープゲート) をくぐる。

今回も『しんかい』経由。その役割を詳しく説明し、あらためて蓬莱島へ。

『お帰りなさいませ、 御主人様(マイロード) 。ようこそ、ステアリーナさん』

老君の声。2人と2体は一旦玄関ホールを横切って外へ出る。

そこには、仁からの連絡を受け、ラインハルト、ベルチェ、エルザ、ミーネ、そしてサキ。蓬莱島ファミリーが出迎えていた。彼等は一斉に、歓迎の言葉を口にする。

「ようこそ、ステアリーナさん」

変わり映えしないセリフではあるが、心からの言葉。ステアリーナは顔を輝かせてそれに答える。

「皆さん、よろしく! ああ、やっと来られたわね!」

感極まったような声を出すステアリーナであった。

そんなステアリーナが落ち着くのを待って、研究所前庭に設置されたテーブルに集まる一同。まず仁が話を始める。

「さて、みんな、それじゃあまず、俺が今まで黙っていたことを打ち明ける」

「え?」

「……ジン兄」

「ステアリーナもいることだから、改めて最初から話させてもらう」

そして仁は話し始めた。

地球という星で生まれ育ったこと。孤児だったこと。溶鉱炉に落ちて、おそらく向こうの世界では死んだことになっていること。

アドリアナ・バルボラ・ツェツィによって作られた礼子の前身にあたる 自動人形(オートマタ) が、1000年をかけて2代目を捜し、仁を見つけ、こちらの世界に召喚してくれたこと。

アドリアナ・バルボラ・ツェツィの知識の全てと、蓬莱島を受け継いだこと。

そしてこちらの世界に来てからのこと……。

エルザにはほとんど話していたし、ラインハルトも大部分は知っていたはず。

だが、ベルチェ、ミーネ、サキ、そしてステアリーナは驚いて声も出なかった。