軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13-18 決断、そして

6月29日は6月最後の日である。

この世界の1ヵ月は30日だが、日の長い夏の3ヵ月、つまり6、7、8月は29日までしかないのである。

これにより1年357日がきっちりと収まることになる。因みに曜日の概念はないから毎年同じ月の同じ日が同じ曜日になる割り振りであっても問題は無い。

「あー、今日返事をすることになるんだな……」

ゲルハルト・ヒルデ・フォン・ルビース・ショウロ女皇帝に返事をする最終日である。

「扶桑島を返事にするつもりだったんだがな……」

その方向性は没になってしまった。

「まあ、陛下や、俺に 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) の称号を贈ってくれた国に対してはなあ……」

昨夜、老君と相談して、現状の仁が取れる最善と思われる方向性で行くことに決めたのである。

* * *

ショウロ皇国 宮城(きゅうじょう) 。

「ジン君はまだ来ないのかしら」

女皇帝ゲルハルトは執務室でじりじりしながら仁が来るのを待っていた。

目を通すべき書類の山が少しも減っていない。宰相は朝から別の仕事で遠出しており、室内にいるのは侍女兼護衛の者が一人だけである。

時刻は午前九時。扉がノックされ、伝令が一言告げた。

「陛下、ジン・ニドー卿がお目通りを願っております」

「す、すぐ通しなさい」

そして待つ事15分、執務室の扉が開いて、仁がやって来た。

「待っていましたよ、ジン・ニドー卿」

「お待たせして申し訳ないことを致しました」

「それで、返事を聞かせてくれるのですね?」

「はい」

身を乗り出す女皇帝。仁は少しすまなそうな顔をした後、

「……お仕えすることはできません」

ぽつりと言った。

「えっ……」

ショックでのけ反る、という形容が相応しいくらいの反応を見せる女皇帝。

「そ、そう、なの……残念です……本当に、残念、です……」

なんとなく泣きそうな顔である。

「ご期待に添えず、申し訳もございません」

仁も少し項垂れ、すまなそうに言った。

「でも」

目に見えて元気が無くなった女皇帝に向かい、仁は追加の言葉を口にした。

「『科学』を伝える、ということはできると思っています」

「えっ!」

女皇帝の顔が上がった。

「……それで、扉の外にその手段が……」

「入れなさい! 中に入れなさい!」

皆まで言わせず、女皇帝は許可を出す。横に付いている侍女兼護衛の者の顔が少しだけ引き攣ったようだ。

「は、はい、それでは……礼子、許可が出たから連れて入ってこい」

「はい、お父さま」

扉が開いて、礼子と……もう一体、 自動人形(オートマタ) が入って来た。

「そっちの 自動人形(オートマタ) は?」

外見は男性形。20代中頃くらいに見える。容姿は普通としか言いようがない。

体格も普通。着ているものはショウロ皇国ではあまり見かけない服装だった。白いワイシャツに紺の背広上下である。リクルートスーツっぽいといえばいいだろうか。

「 指導者(フューラー) です。科学知識などを教え込んであります。彼を差し上げます」

苦肉の策であった。

だいたい現代地球の小学校で習う程度の科学・数学(算数)知識を転写してある。この 自動人形(オートマタ) を教師として、科学を学んでもらいたい、というのが仁の出した答え。

危険過ぎると思われる知識、例えば爆弾や毒ガスに通じる知識はカットしてある。仁のできることはここまでであった。

「……ありがとう、ジン君。……そして、あなたは? あなた自身はどうするの?」

「はい、世界を回ってみようかと思っています」

「そう、世界を、ね……」

仁としてはこの世界のことをもっともっと知り、『仲間』になってくれる人を捜したかったのである。

「陛下、1つだけ言わせてもらっていいですか?」

「あら、何かしら?」

「……自分が望むのは、国境のない世界です。戦争のない世界です。そんなもの、理想かもしれない。単なる幻想かもしれない。でも、そういう世界が欲しいんです。……自分のために」

「自分のため?」

「はい。何だかんだ理屈を付けても、結局は自分のため、に戻って来ます。自分が仲間と、友人と、やりたいことをやり、作りたいものを作れる世界。正直者が報われる世界。努力が実を結ぶ世界。そんな世界が欲しいんです」

「なるほどねえ。ジン君の気持ち、わかる気がするわ」

「聞いてくださって、ありがとうございました。これで、失礼します」

仁は退出しようとした。すると女皇帝はそんな仁を呼び止める。

「あ、ちょっとお待ちなさい。…… 指導者(フューラー) のお礼に、これをあげるわ」

女皇帝が差し出したのは、ショウロ皇国王家の紋章が入ったプレート。表には仁の名前と 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) の称号、そして裏には文字が刻まれている。

「いつでもこの 宮城(きゅうじょう) や公的施設に出入りすることのできる身分証よ。そして同時に、この国での自由な滞在も許可する、ね」

仁はすぐにその身分証が持つ意味を悟ると、有り難い、と思った。

転移門(ワープゲート) を使い、あちこちの国と行き来してもその非を問われないわけだ。少なくともショウロ皇国では。

「まあ、ジン君を独り占めすることができないというのは何となくわかっていたわ。でもいつでも来てちょうだい、ね」

「……ありがとうございます」

仁は自分で考えられる限りの最敬礼を行って、執務室を辞したのである。

扉が閉まると女皇帝はひっそりと溜め息をついた。

「……まあ、半分は予想できたけどね、やっぱり彼を繋ぎ止めておくことはできなかったわね……」

傍らに立つ『 指導者(フューラー) 』を見た女皇帝は微笑む。

「でも、あなたをいただけたんですものね」

「はい、陛下。父は悩んでおられました。悩んだ末、私をお作りになったのです」

「そう。ジン君が……」

閉じた扉を見つめる女皇帝。その扉を通して、去りゆく仁の背中が見えるようだった。

「ジン、どうだった?」

宮城(きゅうじょう) 1階のホールで待っていたラインハルトが声をかけた。

「ああ、陛下は俺の言うことを快く聞いてくださったよ」

「そうか……公人としての僕は、ジンが仕官してくれなかったことは残念の極みだが、私人、いや、ジンの友人としてはほっとしている」

「侯爵にも言われたしな。しばらくは同志を捜し回ろうと思う」

「そうだな。……そうしたら、あの人なんてどうだ?」

「……ステアリーナか?」

「その通り。今日か明日、セルロア王国への帰途につくと言う話だ」

そこで仁は、まず彼女に打診してみることにした。

「彼女はどこにいるんだろう?」

「多分、迎賓館だ」

そこでラインハルトと連れ立って迎賓館へ向かう。 宮城(きゅうじょう) からは歩いて5分くらいの距離だ。

今貰ったばかりの身分証を提示することでなんなく入館を許可された。

そしてステアリーナを呼んでもらい、玄関ホールで待つ事5分。

「ジン君、ラインハルト君、見送りに来てくれたの? 悪いけど発つのは明日よ?」

もう君付けで呼んでくるステアリーナが現れた。

「いえ、色々話したいこともありまして」

仁が言うとステアリーナは喜ぶ。

「あら、 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) が、どんなお話かしら? それじゃあ、わたくしの部屋へ行きましょうか?」