軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13-16 いろいろあって落ち着いて

ガンマを見たエルザが仁を胡乱げな目で睨んでいる一方、サリィはライナス宅で母と子の健康状態を診ていた。

今、セラは赤ん坊にお乳を飲ませ終わり、背中を軽く叩いてゲップをさせていたところである。

「先生、おかげさまで、この子も女房も無事でした。改めてお礼を言います」

ライナスがお辞儀をする。

「ああ、礼なんていいよ。それより、奥さんと息子さん、大事にしておやり。そういえば、名前決めたのかい?」

「ええ、『チャールズ』にしようか『フランクリン』にしようか、迷ってるんです。……そうだ先生、名付け親になってくれませんか?」

「私がかい? ふうむ……『シュローダー』……じゃ、クライン王国風じゃないねえ。じゃあ『ヘンリー』っていうのはどうかな?」

「ヘンリー、ですか、いいですね! ありがとうございます。おい! お前はヘンリーだよ?」

セラに抱かれている赤ん坊のほっぺたをつん、と突きながらライナスが言った。

玄関口からそれを見ていた仁は、そっとドアを閉じ、ライナス邸を後にしたのである。

「……ジン、兄?」

そんな仁の背中がやけに寂しそうに感じられたので、エルザは仁の後を追った。

「お父さま、エルザさんが心配そうな顔で追ってこられてますよ?」

気を利かせたんだかなんだかわからない礼子の忠告に、仁は立ち止まり、振り向いた。手を伸ばせば届く距離にエルザがいた。

「あっ……」

仁と目が合って、ちょっと気まずそうなエルザ。何と声をかけたらいいのだろう、エルザは悩む。そして悩んだ揚げ句。

「ジン兄は、子供、欲しい?」

であった。

「はあ?」

思わぬエルザのセリフに呆ける仁。そして言った本人が一番慌てている。

「い、いや、そうじゃなくて、その、あの、セラさんみたいな、お乳」

またしても余計な単語が口をついて出てしまい、珍しくエルザは真っ赤になって駆け出した。

「おーい……」

だがエルザは立ち止まることなく、仁の視界から消え去ってしまった。

「……一人で焦って一人で赤くなってるけど……いったい何ごと?」

「お父さま、エルザさんは多分……慰めにきてくれたんだと思いますよ?」

礼子に言われた仁は思い至る。

赤ん坊……ヘンリーを間にしたライナスとセラを見て、なんともやるせない気持ちになった仁。

母親というものを知らない仁は、なんとなく見ているのが辛くなったのである。

そんな仁を、エルザは心配してきてくれたのだろうと思うと、すまない気持ちにもなる。

「そう、か」

最近、ちょっと落ち込むことが多い仁だった。

* * *

「はあ、はあ、はあ」

村外れまで一気に走ってきたエルザは荒い息をついた。目の前にはエルメ川。もうすぐ7月という日射しは朝から強く照りつけ、エルザは汗びっしょりだった。

「……泳ぎたい」

火照った身体と熱くなった頭を冷やしたかった。

しかしここには水着がない。いくら自由なカイナ村でも、何も着ないで水に入れるのは小さな子供だけだ。

息が整い、それに伴って気持ちも落ち着くと、エルザはなぜ仁の前から逃げ出したのかわからなくなっていた。

仁が孤児だったことは聞いて知っている。だからなのか、寂しそうな背中が気になって、それはきっと、赤ん坊にお乳をあげていたセラの幸せそうな顔を見たせいで。

そんな仁への言葉が見つからなくて、それなら何が出来るか考えて、思わずおかしな言葉を口走ってしまって。

あとは焦って混乱して、仁の顔を見ていられなくなって、ここまで逃げてきて。

「……戻ろう」

来た時とはうって変わってとぼとぼとした足取りで村へ戻るエルザ。そんな彼女の前に現れたのはバーバラだった。バーバラも何となく元気がない。

「あ、エルザ」

「……バーバラ」

もう二人とも呼び捨てにする仲である。

「なんか元気ないわね」

「なんだか元気、ないね」

顔を見合わせる二人。そしてどちらからともなく、小さな溜め息を、1つずつついた。

* * *

「それじゃあ村長、そういうことでよろしくお願いします」

「おお、わかった。部屋だけはあるからな。任しておいてくれ」

その頃、仁は村長ギーベックと相談し、サリィをしばらく村長宅に置き、診療所としても機能させる事を決めていた。

「それで、ラグラン商会の支店を村に作る、というのは賛成ということでいいのだな?」

「ええ。それで、その店を作ってしまおうと思いまして、場所の相談を」

「ふむ、それならば村の中心に近い方が便利だな……」

老君から、『ラグラン商会の支店をカイナ村に出そうという話が出ています』と聞いた仁は、村長に確認してそれが間違いないことを知ると、さっそく建物の手配に入ったのである。

「支店には誰が来るか、ご存じなのですか?」

「ん? いや、それは聞いてないな」

「バーバラは知っているんですか?」

「うむ、一応話したがな」

「それならいいんですが」

仁は、老君からの報告で、エリックが既にこちらへ向かっているのを知っていた。が、サプライズということで黙っていることにしたのである。

因みに、村長が支店の話をしたと言っているが、その時のバーバラは上の空で聞いていたため、まったく記憶に残っていなかったのだが。

とにかく仁は、こっそりと 職人(スミス) を呼び寄せ、店作りを指示した。

「……間取りはこんな感じだ。1階が店と工房、2階が居住空間。まあ俺がこっちで住んでる家を倍くらいにしたもの、だな」

「承りました、御主人様」

職人(スミス) 5体はさっそく働き出した。そしてほぼ1日で完成させるのであるが、村の者たちはもう慣れっこになっているから誰も驚かない。

サリィはそもそも何も知らなかったので驚きようがなかった。

というのは、村中の家を1軒1軒回って、顔合わせを兼ねた健康診断をしていたのである。

「うーん、ちょっと疲れが溜まっているな」

「二堂城でリフレッシュしてください」

「……6ヵ月、といったところか。お大事に」

「胎教なら是非二堂城で」

「この程度、などと怪我を甘く見てはいかんぞ」

「消毒しますか?」

さっそくナース・ガンマが一緒に付いて回っている。実は、試作3体のナースゴーレムは、知識と経験をリアルタイムで老君の元へ送るようになっているのだ。

そうやって、今現在、ガンマは後進の量産ナースゴーレムのためにデータ収集に励んでいる。

* * *

カイナ村の南にトカ村という村がある。

その村を含めて、ラクノー、ドッパ、シャルル町……などを統治していたワルター伯爵の後任として、数人の新貴族が任じられていた。

トカ村には、リシア・ファールハイト。

彼女は7月1日付けでトカ村一帯の領主となるのであった。

「はあ、今日は暑いですね」

仁から借りたゴーレム馬に乗り、リシアは今、シャルル町を発ったところである。

荷物運搬用にはもう1頭のゴーレム馬。パスコー・ラッシュが借りた分である。

「お返しするのが遅くなってしまいました。ジンさんに謝らないといけませんね」

一緒にトカ村へ向かっているのは警護のグロリア・オールスタット。

「ジン殿にお会いできればいいのだが」

是非リシアの警護に、と、明らかに私情を交えての懇願に、宰相のパウエルは苦笑しつつ許可を出したもの。

「ジンさんっていたりいなかったりって言ってましたからねえ……」

「神出鬼没、ということか」

元上司で教官だったグロリアだが、現在の立場としてはリシアの方が上になっている。

敬語を使わなくていい、いえそうはいきません、といったすったもんだの末、年齢上相応しい言葉づかいで接する、というところに落ちついていた。

「カイナ村か……楽しみだ」

「ふふ、グロリアさんも行ってみたらきっと驚きますよ」

少し前を行く、商人らしい男の馬車を見るとはなしに見ながら、リシアがそう呟いた。