軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12-50 屋外にて

6月21日。

この日は、屋外でのデモンストレーションがメインの日である。

「うーん、思ったより溜まっていないな……」

前日起動させた魔導具を調べていた仁は渋い顔だ。

「これだともう少し出力を上げたとして、必要量が溜まるのに昼近くまで掛かりそうだな」

そう呟いた仁は、博覧会実行委員に、自分のデモンストレーションは昼からにして欲しいと申し入れに行き、認められた。

そして午前9時、博覧会2日目、開幕。

ホール内のブースは代理人に任せ、大半が屋外に出てきている。仁も、新造した 第5列(クインタ) の1体、レグルス50にブースを任せていた。

港前にはアリーナが作られており、博覧会の見物客もほとんどがこちらに集まっていた。

「くふふ、楽しみだね」

サキは仁とエルザを見つけると駆け寄ってきて、仁の隣の席に座っている。

「ジンと一緒なら、詳しい解説が聞けそうだ」

そんなサキの後ろにはアアルが立ち、エルザの後ろにはエドガーが立っていた。

一方、礼子は仁の後ろではなく、膝に座っている。そして手持ち無沙汰な仁は時々礼子の髪を弄ったり、頭を撫でたりしている。そんなことをされている礼子の顔はとても嬉しそうだ。

「お、いよいよ始まるかな」

ここにも巨大な 魔導投影窓(マジックスクリーン) が設置されており、遠くからでも発表者の顔まではっきり見えるようになっていた。

「それでは第10回技術博覧会2日目、開幕です!」

魔導具、『 拡声の魔導具(ラウドスピーカー) 』を使ってアナウンスが流れると、いよいよデモンストレーションの開始である。

1人目は新型馬車であった。

新型とはいっても、デザインが新しいというくらいのもの。屋根が必要に応じて取り外せる、コンバーチブルとでもいうべきものにすぎず、仁は特に感銘を受けなかった。

2人目は新型ゴーレム。3体のゴーレムがそれぞれ剣、槍、メイスを持ち、演武を披露した。

それなりに動きも滑らかで、貫禄を感じさせる出来ではあった。仁の評価は『まあまあ』。

そして3人目がラインハルトである。

「3人目はラインハルト・ランドル! 作品は『外輪船』、『スカーレット・トレイル号』とそれを動かすゴーレム、『マック』と『ミック』です!」

魔導投影窓(マジックスクリーン) は、港に浮かぶスカーレット・トレイルを映し出していた。

「今までとは異なる駆動方式、『外輪』を利用した高速船です。駆動するのは『ツインゴーレム』。左右対称の動作を行えるのが特徴です」

ラインハルトの説明が響いた。ギャラリーからは、ほう、とか、なるほど、というような、感心する声が聞こえてくる。

「それでは、実際に走らせて見せましょう。マック、ミック、行け!」

自らスカーレット・トレイルに乗り込んだラインハルトは、一気に船を加速させ、港を飛び出していった。

その速度に、居並ぶ人々は目を見張った。

「おお、速い!」

「斬新な方式ですね」

「ほほう、方向転換も出来るのですな」

左右の外輪の駆動速度や方向を変えれば、曲がることだけでなく、ゆっくりとではあるが方向転換も出来るのを見て、見物客は皆感心していたのである。

「最後になりましたが、この方式を最初に考えたのは、来賓のエゲレア王国 名誉魔法工作士(オノラリ・マギクラフトマン) 、ジン・ニドー殿であります」

ラインハルトは、あくまでもオリジナルはジンと主張して締めくくった。

仁の名は昨日のミニゴーレムで知れ渡っていたので、アリーナのそこかしこでは仁の噂話が囁かれた。

「今まで無名だったジンとかいう 名誉魔法工作士(オノラリ・マギクラフトマン) 、いったいどんな男でしょうな?」

「いや、無名ではない。聞くところによると、エリアス王国で行われたゴーレム艇競技で優勝したということだ」

「私も聞いておりますぞ。エゲレア王国国王と王子に気に入られているとか」

だが、そのざわめきも、4番目のデモンストレーションが始まると、一斉に止むことになる。

「う、お、お……」

「な、なんという……」

発表者が、一際大きなコンテナ状の荷物に掛けられていた布を取ると、そこから1体のゴーレムが立ち上がる。

ただのゴーレムではない。身長は6メートルくらいあり、巨大である。

まあ、仁が作ったタイタンは15メートルあるし、ショウロ皇国の 古代遺物(アーティファクト) である巨大ゴーレムは20メートル。

それらに比べたら小さいと言えるだろうが、標準のゴーレムと比べたらかなり大きく、威圧感もある。

「4人目は、マルカス・グリンバルト! かの先代 魔法技術匠(マギエンジニア・マエストロ) の孫に当たります!」

紹介を受けたマルカスは大仰な仕草で礼をし、ゴーレムを紹介する。

「ご来場の皆さん! このゴーレムは『ゴリアス』と言いまして、今の技術で可能な限り巨大なゴーレムをと言うことで作り上げたものです」

マルカスが手を振ると、ゴリアスが1歩、2歩と歩いてみせる。

確かに、その動きは思ったよりも滑らかで、かの『ギガース』などより数段上だ。6メートルという大きさに収めた英断によると言えよう。

今の技術で可能な限り、と言ったのもはったりでは無さそうだ。

「ふうん、そうなのかい。やっぱりジンの隣に座って正解だったね」

仁が小声で解説した内容を聞いて、サキは素直に感心していたが、エルザは別の感想を持っていた。

「マルカス……確か、父さまのところにいた 魔法技術者(マギエンジニア) だったはず。でもあんな技術を持っていたとは知らなかった」

自分は2ヵ月足らずでトップレベルの 魔法技術者(マギエンジニア) になったことを棚に上げてエルザが言った。

が、それもその筈。よほど良い師に付かない限りは、そして『 知識転写(トランスインフォ) 』が無ければ、急速な上達など望めない、それが 魔法工作(マギクラフト) である。

「それに……あんな堂々とした感じじゃなかった」

顔は間違いなく同一人物であると言えるのだが、言動がそぐわない、とエルザは思った。

「さて、それでは、ゴリアス、やれ!」

少なくとも半自律型なのであろう。ゴリアスはマルカスの命令を受け、一気に動きを早めた。

「ふうん?」

地響きを立て、動き回るゴリアス。人間の4倍近い大きさのゴーレムが、人間に近い動きをする。つまり4倍速く動いているわけである。

もう少し専門的に言うと、各関節の角速度が人間と同じなので大きさが4倍であるから移動速度が4倍になっているということ。

それは見ていて驚異であったし、見慣れていなければかなりの違和感を感じるだろう。

大きさと動作のイメージがそぐわないのである。大きければ動きが鈍る、それが常識だからだ。

例外はあるにせよ、巨大な動物は総じて動きが鈍いし、魔獣であっても同じである。

「ジ、ジン、すごいね、あれは! そう思わないかい?」

「うーん、まあまあかな」

仁のその答えに、サキは混乱しかけていたが、すぐに落ち着きを取り戻した。

「あ、あれでまあまあだって!? ……ふう、そうか、そうだったね、ジン。君は常識を易々とひっくり返す人だったっけね」

「それ、褒めてるのか?」

「くふふ、あたりまえじゃないか」

そう言ってサキはにこっと笑う。仁の膝の上に座った礼子もまた、当然、という顔で微笑んでいた。

「うーん、物足りないな……」

小さな声だったが、周りがちょうど静まりかえった時だったので、その声は良く聞こえた。

「アーネスト殿、何を言うておる」

隣に座っていたリースヒェン王女が諫めたがもう遅い。

「ほう、今何か仰ったのは……エゲレア王国の王子様でございましたか。何が物足りないのか、お教えいただけますか?」

来賓は良く見えるよう前方に席が設けられているので、マルカス・グリンバルトにはアーネスト王子の声が良く聞こえたのである。

「いや、何でもないよ」

「何でもないということはないでしょう。あれだけはっきりと『物足りない』と仰っておいて。どうか、後学のためにわたくしめにご教示を」

ねちねちとした物言いである。アリーナの観客たちも注目してしまっている。アーネスト王子は仕方ないなと首を振って答えた。

「……デウス・エクス・マキナの巨大ゴーレムには少しだけ劣ると思ったのさ」

「デウス・エクス・マキナですと? ああ、あの 統一党(ユニファイラー) 騒ぎの時に現れたとかいう胡散臭い輩のことですね」

「デウス・エクス・マキナは胡散臭くない!」

デウス・エクス・マキナは救国の恩人。さすがに恩人を貶めるような発言については黙っていられなかったアーネスト王子である。

「これは失礼。ですが、あの騒動以来姿を現さず、正体も不明。そんな輩を胡散臭いと言わずして何を胡散臭いというのですかな?」

「……」

その言葉には反論出来ず、アーネスト王子は黙り込んでしまった。

「まあ、私のゴーレム『ゴリアス』をお認めくださればそれでいいのですよ。そんな胡散臭い輩のゴーレムなんかより、ね」

その言葉に、再びアーネスト王子は反応した。隣で必死に袖を引いているリースヒェン王女の気遣いは無視である。

「……それはない」

「はい? 何と仰いました?」

「それはない、と言ったんだ」

「どういう意味でしょうか?」

相も変わらず慇懃無礼な態度で接するマルカス。だがそこに第三者から声が掛かった。

「いいかげんにしろ、マルカス」

声の主は50前後の軍人らしい雰囲気を持つ男であった。がっしりした体格、プラチナブロンドの髪、水色の目。その彼がマルカスの肩を押さえたのだ。

仁はその色あいに見覚えがあった。

「……父、さま」

隣に座っていたエルザがぽつりとそう口にした。

「父さま?」

そう、髪と目の色はエルザにそっくり、いや、エルザがその髪と目を受け継いだのだが。

「……あれが、エルザのお父さんか」

厳つい顔、筋肉質の身体。いかにも軍人と言った雰囲気を漂わせている。

「アーネスト殿下、そしてご来場の皆様、失礼致しました、マルカスに代わりましてお詫び致します」

謝罪の言葉を述べ、頭を下げたエルザの父、ゲオルグ・ランドル・フォン・アンバーは、渋るマルカスを引きずるようにして退場していった。

礼子はそんな2人、いや、マルカスが見えなくなるまで鋭い目つきで睨んでいた。

そして巨大ゴーレム、ゴリアスはそこに立ったまま。

「そ、それでは、午前の部、最後の発表者……」

ざわつく会場にアナウンスの声が響いて、5人目の発表が始まった。それもまた新型馬車である。煌びやかな飾り付けがなされた軽量馬車らしい。

が、そこに立ったままの巨大ゴーレムの印象が強すぎて、サスペンションが付いているわけでもない、単なる外見だけの馬車では観客の反応は微妙であった。