軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12-48 会場巡り

ラインハルトのブースを後に、会場巡りに向かう仁とエルザ。

ラインハルトも一緒に行きたそうであったが、ちょうど数人の来客があってその対応に忙しくなってしまったのである。

仁たちが次に向かったのは、ステアリーナのブース。

「あら、ジン君、来てくれたの。エルザさんも、ようこそ」

ステアリーナのブースの目玉は何と言ってもクリスタルゴーレム……いや、ブルートパーズゴーレムのセレネである。

女性らしい滑らかなボディラインと相まって、青く透明なその身体は神秘的でさえある。

その他にも、クリスタルで出来た彫像や花瓶、アクセサリーなどもあり、ステアリーナがそういった宝石・貴石の加工を得意とすることが見て取れる。

「凄くきれいですね、このペンダント」

アクアマリンであろうか、淡い水色の石で出来たペンダントヘッド。それはペアシェイプと呼ばれる、洋梨、あるいは涙の滴のような形にカットされていた。

「ああ、それね。それはセレネを作った時の余りで作ったペンダントよ」

アクアマリンかと思ったら、ブルートパーズだったようだ。それでもその色は美しく、エルザは見とれていた。

「ああ、そうなのね?」

エルザと仁の顔を代わる代わる見ていたステアリーナは訳知り顔で微笑んだ。

「ジン君、以前お世話になったお礼に、これあげるわ」

ステアリーナは、仁にそのペンダントヘッドを差し出した。

「え?」

「いいから、ほら」

半ば無理矢理にそれを仁の手に押しつけたステアリーナは一つウインクして、

「ジン君がいらないなら誰かにあげてもいいわよ」

そう言って、仁とエルザをブースから押し出した。折から、女性客が2人やって来てステアリーナに質問をし始めたので、仁とエルザはそのまま通路に出て行ったのである。

「……」

手の中のペンダントヘッドを見つめていた仁であったが、ようやくステアリーナの意図が理解出来たようで、

「この石、エルザの瞳と良く似た色をしてるよな。もし良かったら、このペンダントヘッド、エルザにやるよ」

と言ってエルザに差し出した。

「うん、ありがとう、ジン兄」

にっこり笑ってそれを受け取るエルザ。

どうやら正解だったようで、2人の様子を横目で見ていたステアリーナはそっと微笑みを浮かべていた。

「おや、ジン、それにエルザ」

「やあ、サキ」

次はどこを見ようかと歩いていたら、ちょうどサキと出会った2人。

「一緒に見て回るかい?」

仁はサキを誘う。

「うん、それは嬉しいね。いろいろ解説してもらえるとありがたい」

そこで今度は3人(と1体)で会場巡りをすることになった。

「アアルはどうしたんだ?」

「うん、ボクのブースで留守番してもらってる」

どうやらサキも仁たちと同じように、アアルを残して会場巡りに出てきたようだ。

「あそこ、何だろうね?」

若い客が大勢集まっているブースをサキは指差した。

「行ってみるか」

わいわいと賑やかな人垣をかき分けて近付くと、そこには大小……というか、ほとんど『小』の部類に入る人形が所狭しと並べられていた。

「これは……」

それはフィギュアという表現がぴったりの人形たちであった。

小さいものは10センチくらい、大きくても50センチくらい。

素材も、金、銀、銅、大理石、クリスタルなどさまざまである。

ほとんどは少女像で、服を着ていない造形ばかり。だが肝心の部分は巧妙に隠れるようなポーズを取っていた。

「可愛いけど、これはなんというか……」

サキも少し顔が赤い。

「……ジン兄の同志?」

なにげにエルザは酷いことを言っている。

「おい」

仁が文句を言うと、エルザはくすっと笑った。

「うそ。冗談。ごめんね」

エルザがそんな冗談を言うとは思わなかった仁とサキは驚いた。

だがそれもきっと、故国へ戻ってきたおかげなのだろう。仁はそう考え、連れてきて良かった、と内心思っていた。

「おお、そこにお見えになったのはジン殿では?」

思いに耽っていた仁に声が掛けられた。声の主はブースの奥にいた。つまり人形を作った者ということになる。

「私はセルロア王国の 魔法工作士(マギクラフトマン) 、クラーク・ラムダと申します」

ラムダ、すなわち11番目の技術者である。年の頃は30前、といったところか。

短く刈り揃えられた茶色の髪、茶色の目。どこといって特徴のないのが特徴のような顔で、体格も中肉中背。ぱっと見て印象は薄い。

造形は目を見張るものがあるが、その偏った内容により、順位も11番止まりなのではないか、などと若干失礼なことを考える仁。

だがそんなことをおくびにも出さず、挨拶を交わす。

「ジン・ニドーです」

「いやあ、直接お話しできて光栄ですよ。あのミニ 職人(スミス) 、でしたか? あれだけ小さいゴーレムを作れる貴殿が羨ましい」

そこで言葉を一旦切った後、クラークは両の拳を握り込んで、

「……この人形たちが動いてくれたら!」

と、まるで魂の叫びのような声を出した。

「ジン兄、向こうも面白そう」

「本当だね、ジン、ボクは向こうへ行っているから」

エルザとサキは体良くその場を去りかける。それを悟った仁も2人を追いかけるようにその場を辞した。

「クラークさん、俺は会場をまだ見て回りたいので、今日はこれで。それではまたどこかで」

「あ、ジン殿」

引き止める言葉も耳に入らない振りで、仁はそそくさとその場を後にした。

「くふふ、まったくいろんな人がいるものだね」

追いついた仁にサキが笑いかけた。

それからも幾つかのブースを巡った仁たちは、時間もあまりないということで、今度は錬金術師たちの区画へ行ってみることにした。

場所も同じ大ホールの中。

当然、真っ先に寄るのはサキのブースである。

そこにはアアルが留守番をしていた。

「展示物は……あれか」

そこには、サキが今まで収集した珍しい鉱物が並べられていた。

「うん、本命は論文だからね」

そっちの方は既に提出して、この博覧会終了時に評価が出ると言うことだ。

「これは、いつも決まった形に割れる石というのが面白くて、集めてしまったんだよ」

そう言ったサキが指差したコレクション。

正八面体の蛍石。少し歪んだ直方体の方解石。サイコロ型の方鉛鉱。薄く剥がれる黒雲母。

「それから、自然にできたというのに、こんなに見事な形の石……」

六角柱の水晶、立方体の黄鉄鉱、ころころした 石榴石(ざくろいし) の結晶などがあった。

いずれも、中学校の理科室などでよく見られる結晶の代表だ。

「最後に、美しい色の石だね」

紫色のアメジスト、青いサファイア、緑色のエメラルド、黄色いシトリン(黄水晶)、赤いガーネット、そして2色のウォーターメロン・トルマリン。

これだけの宝石・貴石の原石をコレクションしていたら、そりゃあ使用人に払う給料も無くなるだろうな、とこっそり思う仁であった。

「ゴムとかうるし、それにメープルシロップは展示しないのか?」

ふと疑問に思った事を仁が尋ねてみると、サキは笑って答えた。

「ああ、あれらはジンが教えてくれたものだからね。論文は仕方ないとして、展示物は自分だけのもので、と思ったんだよ」

サキはサキなりに矜恃があったようである。