軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12-28 授業参観

眼鏡が出来上がったので工房から出、村長ギーベックの家に向かう。

というのも、今日は『勉強会』の日だからだ。先生の1人であるエルザがいないというのはまずい。

「ジン、その勉強会というのは?」

サキからの質問に、仁は簡単に説明をする。

「ああ、村には学校がないからな。子供たち中心に簡単な勉強を教えてるんだよ。読み書き、計算なんかだな」

「ほう。それは興味深い。先生役がエルザとミーネなんだね?」

「ああ、そういうことだな」

するとサキは勉強会に興味を覚えたらしく、見学したい、と言いだした。別に駄目という理由もないし、本人が見たがっているということで、今日の勉強会は仁とサキが見学することとなった。

「23+8は? パティ」

「はい。……31!」

「正解です。それじゃあ、57+6は? えーと、マリオ」

「えっと、63!」

「はい、よろしい」

今日は計算の日。2桁+1桁の足し算は、皆問題なく答えていた。

「それでは、今日からは引き算を始めます。手元の教科書21ページ」

ゴーレムによる高速筆記で量産された教科書である。使われているのは薄く削った木。『経木』と呼ばれるものである。

それを工学魔法で 強化(リインフォース) して使っていた。

仁としては紙を作りたかったのだが、パルプだけだと水に弱いので、和紙で言うトロロアオイのような物を探しているところ。

これは、一つには洋紙の作り方を知らないためだ。牛乳パックを使った紙作りをやったことがあるだけ。その時は洗濯糊を少し混ぜたものだ。

「水溶性で、でも一度乾くと耐水性のある物が欲しいよな……」

なかなかそういうものは見つからなかった。もし見つかれば、カイナ村の大きな産業となるのだが。

「……ジン? ジン!」

考えに耽っていた仁は、サキの呼ぶ声で我に帰った。

「あ、ああ、何だい?」

「何だいじゃないよ。もう勉強会終わって、みんなお昼を食べに帰って行ったよ。ボクらも帰ろうじゃないか」

そこへ、資料などの片付けを終えたエルザとミーネもやってきた。

「ジン兄、帰ろ?」

「おにーちゃん、かえろうよ」

そういうわけで、仁、ハンナ、サキ、エルザ、ミーネ、そして礼子らは連れ立ってマーサ邸へと帰ったのである。

「お帰りなさいませ。昼食の仕度は調っております」

ゴーレムのサラが準備をして待っていた。

カイナ村標準の昼食。特産のパンと燻製肉、それに野菜サラダ。

ビタミン摂取のために生野菜や果物を食べることは、仁が指導して始めたのだが、今ではすっかり定着していた。

「ふむ、このパンは美味しいね。真っ白ではないが、ここまで白いと言うことは殻がほとんど混じっていないからだろう?」

「ああ。篩をかけているからな」

「きょうのこむぎこはあたしがふるったんだよ!」

「そっか、ハンナがやってくれたのか」

そんな会話をしながら昼食は和やかに進んだ。

昼食を終えると、サキはハンナに頼んで篩を見せて貰うことにした。

「あのね、こなにしたこむぎこをここにいれて、ゆするの」

全粒粉を入れて実演してみせるハンナ。

「ほほう! なるほどね! ハンナちゃん、ありがとう」

サキは何かひらめくことがあったらしく、ハンナの頭を撫で、お礼を言うと、仁とエルザに向き直った。

「ジン、エルザ、ちょっと相談がある」

そこで3人は仁の工房へと移動した。

「あの篩を見て思いついたんだがね」

サキは説明を始めた。

「大きいものと小さいものを分けるために篩を使っている、とボクは理解している」

そう言って仁の顔を見るサキ。仁は頷き、その考えを肯定する。

「ならば、小麦粉以外にも応用できるはずだ。例えばお茶の葉だね」

「ああ、なるほど」

お茶の葉には、微塵とかダストと呼ばれる、粉状になったものがどうしても混じってしまう。保存中に揺らしたりすることでお茶の葉同士が擦れて出来る物もあり、完全に取り除くのは難しい。

この微塵はお茶に混じり、味に雑味を与えてしまうのだ。

「お茶を淹れる前に、細かい網で茶葉をふるえば、ダストが落ちてより美味しくなるだろうね」

仁は感心していた。サキには、実用化、応用化に繋げる広い視野がある。

「まだあるぞ。土をふるって、微塵を取り除けば、おそらく水はけの良い土が出来る」

それは現代地球でも園芸家が行っている。

「篩の鍵となるのは網だ。網を窓に張ったら、虫が入ってこなくなるんじゃないか?」

要するに網戸である。

「サキ、いい考えだな。感心したよ」

「ふ、ジンに褒めてもらえるのは嬉しいね。まあ、あとは鍵となる網をどのように作るかが問題になると思うがね」

網といえばせいぜい魚を捕る網くらいである。針金で網を作るという技術は一般的ではない。ナイロンもないため、網戸という発想もないのだ。

「まあ、そうだな。だが、まずは発想ありき、だ。それをどうやって実現するかを考えるのが俺たち技術屋だしな」

「ジン兄なら作れるだろうけど、それじゃ、普及しないものね」

エルザもなかなか鋭い意見を述べる。

「ああ。ペン先やボールと違って、もっともっと大量に生産しないと意味がないものな」

「そういうことだね」

このあたりから、仁はカイナ村にも商人がいるといいのに、と考え出したようだ。

そしてその考えは、近い将来に老君を通じて実現することになる。

閑話休題。

今度は仁がサキに質問する。内容は、紙を作る時に必要になると思われる粘剤に心当たりはないか、ということだ。

「ふうむ、確か、なんとかいう植物の実がそういう粘りを持っていたと思うな」

「オグラのことですか?」

ちょうどそこへお茶を持って来てくれたミーネがその名を口にした。

「ああ、そうそう。オグラだったね。今ごろはまだ花かな?」

「いえ、花が咲くのは確か真夏です」

「ミーネ、そのオグラについて知っている事を教えて欲しい」

仁は、ミーネが少し知っているようなので色々聞いてみる。どうやら、地球で言う『オクラ』に近いものらしい。

トロロアオイもオクラも同じアオイ科であるから使えそうだ、と仁は判断し、礼子を通じて老君に確保するよう指示を出すことにした。

「礼子、ちょっと」

「はい、お父さま」

「いいか、そのオグラを……」

小声で指示を出す仁を見て、サキは微笑んでいた。

「ジンはレーコちゃんを可愛がっているんだねえ。アアルはちょっと可愛がるのとは違うしね。というか、アアルにはボクがお世話になっているんだがね」

すかさずエルザも便乗する。

「そう。ジン兄は以前からレーコちゃんを可愛がってる。時々抱きしめたり」

「くふ、それはちょっとボクとしては羨ましいかな?」

「え?」

「ん?」

怪訝そうな顔をしたエルザと、その反応が理解できないといった顔のサキ。

似たような反応だが、その中身は全然違う。

「レーコちゃんのような可愛い子なら、人形だろうと 自動人形(オートマタ) だろうと抱きしめたくなるのは人情だろう? ボクだってレーコちゃんみたいな可愛い子を抱きしめてみたいとは思うよ?」

「……そういうもの?」

「エルザだってマスコット人形作ってラインハルトに贈ったらしいじゃないか。人形って可愛いだろう?」

サキの指摘にエルザは返す言葉がない。

「確かに、私もノンを時々抱いたりしてる。ジン兄がレーコちゃんを抱きしめたくなるのはそれと同じ?」

「まあ、殿方が少女人形への愛に走るというのはボクとしてもちょっと理解に苦しむが、ね」

次第におかしな方向に向かい始めるガールズトーク。

「お前らなあ……」

話題の主、仁は苦虫を噛み潰したような顔でそんな2人を眺めていた。