軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12-11 ベルチェのアレ

「はいどうぞ、召し上がれ!」

丸いテーブルの真ん中には大きな皿が置かれていた。その中にあったものは。

「……大学芋?」

そう、サツマイモを油で揚げ、糖蜜をかけたもの……つまり大学芋に良く似ていた。

「ん? ダイガクイモ?」

仁の呟きを聞きとがめたサキが言った。

「あ、ああ。俺の所ではこれをそう呼ぶんだ」

「くふふ、面白いね。『大学』芋かい? どうして『大学』なのか、ゆっくり聞きたいところだが、今は食べる事にしよう」

サキは目の前の大学芋を取り皿に取っていく。その間に、付いていた侍女がお茶を注いで回っていた。

「ジン、こちらではこれを『アレ』っていうのさ。ベルチェは昔からこれを作るのが上手でね。随分作ってもらったものだよ」

「……うん、美味しいね。ラインハルトに美味しいものを食べさせようというベルチェ嬢の愛情が詰まっているよ」

「あら、お恥ずかしいですわ」

サキのセリフにはにかむベルチェ。サキは既に3つめを口に入れていた。

「これ、メープルシロップ掛けても美味しいと思うよ」

食べながら仁が呟く。

糖蜜だけでなく、蜂蜜やメープルシロップも使うことがある。仁のその助言は、その場にいる全員に受け入れられた。

「なあるほど! メープルシロップか!確かに、掛けたらいいかもしれないな!」

「まだ揚げただけのイトポがありますから試しに掛けてみることにしますわ」

サツマイモもどきはイトポと言うらしい。

ところで、礼子は仁の指示でアアルに付いていてこの場にいなかったが、代わりに影ながら仁を護衛する 隠密機動部隊(SP) がいた。その1体、『カンナ』がその様子を老君に報告していた。

この後、老君の指示で、『イトポ』つまりサツマイモもどきが発見され、蓬莱島へ送られることになるのは言うまでもない。

「おおー! これもまた美味い!」

「イトポの甘さとメープルシロップの甘さが何とも言えないね」

「ジン様、いいこと教えて下さってありがとうございますわ」

ラインハルトは喜び、サキは味を楽しみ、ベルチェは仁に礼を述べた。

こうしてお茶会は和やかに終わったのである。

* * *

お茶を飲み終え、離れの工房に戻った3人が見たものは。

「……おお?」

礼子に手を取られ、ゆっくりとダンスを踊るアアルの姿であった。

「礼子?」

仁の言葉に礼子はダンスをやめ、振り返った。

「お帰りなさいませ、お父さま。アアルさんはもう大丈夫ですよ」

礼子は仁に、アアルは粘土細工が問題無くできるようになったので、少しずつ動作を慣らしていた、と説明した。

その言葉通り、テーブルの上には、粘土が球や立方体、それに皿などの形に成形されて置かれていた。

「それにしてもこんなに急速に?」

ラインハルトの驚きの声。

「はい。一度コツを覚えてしまうと、あとは簡単だったようですよ」

「なるほどな。 副制御核(サブコントロールコア) が情報を蓄えたというわけか」

仁も興味深そうにその様子を観察する。近々自分も礼子達に『触覚』を追加しようと思っているからなおさら熱心である。

「よしアアル、ちょっとこれを持ってごらん?」

仁は工学魔法で球体を作り出し、テーブルの上に置いた。鉄で出来ているようで、いかにも重そうである。

「はい、 製作主(クリエイター) 様」

アアルは返事をしてその球に手を伸ばし……見事に持ち上げた。

「おお! すごいぞ、アアル! ……それを元のように置け」

テーブルに戻された鉄球。その時ことりとも音がしなかった。

「ラインハルト、持ってみな?」

仁は何か聞きたげにしているラインハルトを見て、悪戯っぽく笑って言う。

「ん? これをかい?」

ラインハルトはその球に手を伸ばし……見事に握りつぶした。

「うわっ!」

その球は、見た目に反して薄い外皮で出来ていたのだった。見た目に騙され、力を入れて握ったため、潰れてしまったのである。

「ははは、どうだい? 触って、握って、その時の『感触』で、アアルは適切な力を込めることが出来たんだよ」

仁が嬉しそうに言うと、サキも嬉しそうに笑った。

「くふふふ、ジン、『触覚』というものがどれだけ 自動人形(オートマタ) 技術を進歩させるのか、実に楽しみだね!」

* * *

それから仁たちはアアルを連れて母屋に戻った。そこには、ベルチェが侍女を連れて待っていた。

その侍女は、手に服を持っている。

「ラインハルト様、 自動人形(オートマタ) をいつまでも裸のままにしていてはいけませんわ」

ベルチェは侍女に持たせた服を指差した。

「僭越ながら、わたくしの侍女用に用意した服ですわ。新品ですので、アアルさんが完成したお祝いにどうぞ」

「ああ、ありがとう。……というか、ベルにはアアルが女性に見えるのかい?」

「え?」

仁とラインハルトは顔を見合わせた。サキは笑ってベルチェに言う。

「ベルチェ嬢、アアルは『中性的』なんだってさ。つまりどちらでもあり、どちらでもない。元々 自動人形(オートマタ) の性別というのは外見で決まるんだから当然だけどね」

「……そうでしたの。わたくしったら、早とちりをしてしまいましたのね。お恥ずかしいですわ」

それをフォローしたのは仁。

「いえ、ベルチェさん、アアルは、時と場合によって執事になったり侍女になったり出来るようにしたいんです。だからベルチェさんの印象も間違いではないと思います」

「あら、ありがとうございますわ、ジン様」

それから全員で協議した結果。

結局、女性用のブラウスに執事服、と言う組み合わせをさせることになった。

ブラウスはベルチェが供出してくれたし、執事服はラインハルトの執事、クロードが新品をくれた。

どちらもサイズが合わない(ベルチェのブラウスはアアルには胸が余り、加えて丈が短かったし、クロードの服は全体に大きすぎた)ので、仁とラインハルトが工学魔法を駆使してサイズ調整したのであった。

「おお、結構似合ってるな」

男装の麗人、といった雰囲気がある。

「よし、アアル、ラインハルトの家で数日手伝えば、ショウロ皇国のしきたりとか慣習も憶えるだろう」

仁の言葉にアアルは頷く。

「わかりました 製作主(クリエイター) 様。御主人様のため、頑張ります」

そんなアアルを見つめたサキは笑みを浮かべながら言った。

「くふふ、まったく楽しみだ、ラインハルト、ジン、まったく君たちには感謝してもしきれないよ」

「気にするなよ、サキ」

「そうそう。俺たちは作りたいから作ったんだし、いろいろ勉強にもなったし」

2人は笑ってサキに言った。

* * *

それから数日間、アアルはラインハルトの実家で侍女・執事の手伝いをこなし、すぐに全ての業務に習熟していった。

ベースは蓬莱島のゴーレムメイドであるから当然と言えよう。

その間、サキはずっとラインハルトの実家に逗留し、毎日仁やラインハルトと議論したり、何かを試作したりと慌ただしくも充実した日々を送ったのである。

そして5月28日。

朝食後、ラインハルトの工房での議論はもう日課のようになっていた。その場で。

「ラインハルト、ジン。もうアアルも一人前、いや、一人前以上だ。そろそろボクは家に帰ろうと思う」

サキがそんなことを言い出すかと思えば、

「ああ、そうだな。俺もしばらくサキの所に厄介になろうかと思う」

仁までがそんなセリフを口にしたので、ラインハルトは大慌て。

「ちょ、ちょっと待て、2人とも! どういうことだ! 何か僕が粗相でもしたのかい?」

「……」

「…………」

しばしの無言のあと、口を開いたのは仁だった。

「いや、ラインハルト、忘れてないか? ベルチェと式を挙げるんだろう?」

サキも続く。

「そうさ、ラインハルト。くふふ、あまりレディを待たせるものじゃないよ」

「……」

「というわけで、そうだな、1週間か10日、俺はサキの家に寝泊まりさせてもらう」

「くふふ、ラインハルト、ボクのことなら心配はいらないよ。ここ数日でジンのことはよくわかったからね」

「2人とも……気を使ってくれるのかい? 実はな……」

ラインハルトは3日後にベルチェとの結婚式を挙げる予定だと打ち明けたのである。

「しかし3日で準備できるのか?」

今度はちょっと心配になった仁の老婆心からの質問。

「ああ、それは大丈夫だ。君たちには話していなかったが、元々6月1日に挙式すると言う予定で動いていたんだ」

「なあんだ、それなら心配するほどのことではなかったか」

それを聞いて仁も、安心して笑ったのである。