軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12-07 新デバイス

仁が、新たな 自動人形(オートマタ) /ゴーレム制御理論を説明すると。

「うーむ、理屈はわかったが、そううまくいくんだろうか?」

ラインハルトは疑念を抱き、

「ジン、君の考えには共感できる。ボクに出来ることがあったら手伝わせて貰うよ」

サキは支持したのである。

これは、実際に製作する側であるラインハルトと、純粋に理論だけを考えているサキとの差でもあると言えよう。

つまりラインハルトは理論を実践することがいかに難しいか知っているのだ。

「ジン、君の理論は理解できる。だがまず、『触覚』の再現はどうするんだ? まずはそこからだと思う」

ラインハルトは疑問視したが、仁には当てがあった。

『ひずみゲージ』という小さな素子。百万分の一というひずみも検知出来るというものだ。原理の説明は省くが、機械制御になくてはならない素子である。

仁はこれを、この世界の素材で再現しようとしていたのである。

再現できれば、それを身体の数箇所に取り付け、そのひずみを検知することで、身体にかかる圧力を知ることが出来る。それすなわち『触覚』である。

仁はその動作原理を説明し、最後にこう付け加えた。

「曲がる、もしくは変形することで魔力的な性質が大きく変化する素材があればいいんだ」

「ふうむ、魔力的な性質が、か……」

実は、仁には一つ心当たりがあった。 海竜(シードラゴン) の翼膜である。礼子の皮膚として使われている素材だ。

しかし、あまりにも一般的ではないため、礼子の改良にしか使えそうもない。

「……一つあるよ」

サキはそう言って、棚から一つの結晶を取り出してきた。

それは内部が赤、周囲が緑色の断面をした半透明の結晶。イメージはスイカである。

「あー、ウォーターメロントルマリンか……」

思わずそう呟く仁。昔、気になる女の子がそういう色をした小さなペンダントを付けていたのである。

「ウォーターメロン?」

「トルマリン?」

サキとラインハルトはそれぞれ別の単語に反応した。ちなみにトルマリンに反応したのはラインハルトである。

「あー、ウォーターメロンってのは外側の皮が緑で中身が赤い実が出来る果物というか野菜だ。トルマリンというのは……まあそう言う石だ」

「ふむふむ、シイカの事をジンはウォーターメロンというのか。そういえばそろそろ苗を植える時期だね」

サキの話では毎年庭にシイカの苗を植え、夏に収穫して食べているということだ。

仁は、その苗でも種でもいいから手に入れたいと思った。もちろんその意志は礼子に伝わり、礼子は老君に連絡して、新たにショウロ皇国へと派遣された 第5列(クインタ) に指示されることになる。

閑話休題。

「この石は、エルバイトと呼ばれている。力を加えると微小だが魔力を生じるんだ。上手く使えないかな?」

サキの説明に仁も頷く。

「ああ、それじゃあ薄くスライスして、ミスリル線をくっつけてみよう」

さっそく仁はサキの了解を得て『エルバイト』を工学魔法でスライスした。

「うむうむ、やはり 魔法技術者(マギエンジニア) がいるというのはいいね! ボク自身はほとんど魔法を使えないからありがたいよ」

分析とか、魔力を感じることは出来るんだがね、とサキは続けた。

「よし、それならサキがそのミスリル線を持っていてくれ。俺はこっち側でスライスしたエルバイトに力を加えてみるから」

「わかったよ、ジン」

1メートルほどのミスリル線を繋いだエルバイトの小片。仁はそれを掌に乗せ、そっと指で押してみた。

「どうだ?」

「うむうむ、こちら側に魔力が発生したよ」

「そうか! まずは成功だな!」

その段階になると、ただ黙って横で見ているだけだったラインハルトも我慢しきれなくなったようだ。

「ううむ、ジン、サキ! ぼ、僕にも手伝わせてくれ! というか、新たな技術が生まれようとしているこの瞬間に指をくわえてみているだけというのは堪らない!」

やはりラインハルトも 魔法技術者(マギエンジニア) だったようだ。

それからは3人がかりで、エルバイトの厚さや大きさを変えて最適な形状を決める実験を繰り返した。

その甲斐あって、夕方には、一応の『触覚センサー』が完成したのである。

「これを使った 自動人形(オートマタ) を作ろう。そしてその最初の作品はサキに贈ろうと思う」

仁とラインハルトは同じ意見だった。サキもそれには異論を唱える事が出来ない。

「うん、まあ、2人がそう言ってくれるなら。それに、いろいろ試したいこともあるしね」

気が付くと外はもう薄暗くなっていたので、その日はそれで終わりとする。

「礼子、メープルシロップはどのくらい出来た?」

「はいお父さま、これで全部です」

仁が作った鍋に7分目くらい。だいたい1リットルくらいだろうか。

「よし、それを半分ずつ瓶に詰めよう」

そう言って仁は水晶を魔法で加工して瓶を2つ作り、そこにメープルシロップを詰めた。

なかなか高価な瓶である。蓋も水晶。普通なら食材を入れるような瓶ではないが、中身の希少性(今のところ)を考えれば妥当なのかもしれない。

ラインハルトは言わずもがな、サキも今日1日で仁の規格外さには慣れてしまったようで、何も言わなかった。

「じゃあこの片方を持ってラインハルトの家へ行こう」

「ああ、それがいいな。父上に話すにもサンプルが必要だし」

ということで、仁、礼子、ラインハルト、そしてサキは仁の馬車に乗り、ランドル伯爵邸へと向かったのである。

「おかえりなさいませ、ラインハルトさ……ま?」

家ではベルチェが出迎えに出て来たが、サキを見るとその顔色が変わった。

「やあ、ベルチェ、久しぶり。ラインハルトとの婚約、おめでとう」

だがサキはまるで気にしないようで、そんな挨拶を口にした。

「……そ」

「そ?」

「……そんな格好でなにやってるんですの!?」

心底呆れたというベルチェの声。

「ぼさぼさな髪! かさかさの肌! 汚れた服! みっともない格好! ……それに、少し臭いますわよ!」

サキの格好を上から下まで駄目出ししたベルチェは、

「ラインハルト様、お腹もお空きでしょうけれど、1時間いただきますわ!」

そう言って、サキを引きずるようにしてその場を去っていった。

「はは、ベルチェもサキとの付き合いが長いからな。サキの奴もベルチェには弱いと見える」

そんな2人の後ろ姿を見送ったラインハルトはそう言って笑った。

「ジン、ベルチェとサキが戻ってくるまで時間がかかりそうだから、僕の工房に来ないか?」

こういう内容のお誘いで、仁に否やがあるはずがない。

ラインハルトの工房は、館の中庭に建てられていた。離れのようなものである。屋根・壁付きの通路が設けられており、雨でも濡れずに行き来できるようになっていた。

「おお、広いな」

広さは20畳くらい、なかなかの広さである。

「ここで 黒騎士(シュバルツリッター) を作ったんだな」

と仁が言えば、ラインハルトは大きく頷いた。

「まあ座ってくれ」

工房の一角にあるテーブルに仁を招いたラインハルトは椅子を勧める。

「ここなら邪魔も入らないからな」

何か重要な事を話すつもりのようだ。まあ礼子は一緒にいるわけだが。

「ジンには話しておいた方がいいと思ってね」

と前置きを言い、ラインハルトは語り始めた。

「サキの母親は、今は亡くなっているが、侯爵家の長女なんだ」

「え?」

いきなり大変な事を言いだした。

「ほら、エルザを嫁にと言い出した侯爵な、つまりゲーレン・テオデリック・フォン・アイゼン侯爵。うちの西隣が領地なんだが」

その長女と、サキの父親が相思相愛になり、駆け落ちした揚げ句、出来た娘がサキだという。

「テオデリック侯爵のことも少し話しておこう。……なんというか、侯爵は、その……ちょっと小さめの女性が好きでね」

「は?」

説明しづらそうにしながらもラインハルトは、侯爵はまだ未成熟の、少女から女になりかかるくらいの女性が好みなようだ、と説明した。

「で、彼には今、3人、いや、サキの母上を入れれば4人の子供がいるんだが、全部娘でね。跡取りの男子がいない事を気に病んでいるようだ。それで、先年奥方が亡くなったことで、前々から目を付けていたエルザを嫁に欲しいと言い出したらしい」

ラインハルトも故郷に帰ってきてから、いろいろと情報収集していたようだ。

「そうか……で、サキの扱いは?」

「ああ、話が逸れたね。今やサキの父上、トア・エッシェンバッハ氏が国内でも1・2を争う錬金術の大家になったから、おおっぴらに敵意は見せていない。そもそも隣の領地に住んでいるのをそのままにしているのだからね」

「まあそうか」

「でも、孫に当たるサキのことは可愛いらしく、度々自分の手元に引き取ろうとしているな。でもサキはそれを拒んで、あそこに住み続けている」

少し寂しげにラインハルトは笑った。

「侯爵家に対したら伯爵家なんて、いざとなったら何ほどのことも出来ないのだがね」

封建社会というものはそういうものである。

「侯爵家にもの申せるとしたらその上の公爵か、あとは皇帝陛下くらいのものだからね。それだって、法を犯しているわけではないから、強くは言えないさ。エルザを娶る事にしても、サキを引き取るにしても」

皇帝陛下は独裁者ではない。法や慣習を無視するようなことはしないし、出来ない。

「まあ、こんな事を聞かされて、ジンも迷惑だとは思うが、この先何かあるかもしれないから、頭に入れておいてもらおうと思ってね。……すまないとは思ってる」

最後にラインハルトは頭を下げた。

面倒事はもう沢山な仁であるが、知り合いになったばかりとはいえサキの事はそれなりに気に入っていたので、笑ってラインハルトに、なんでもないさ、と言ったのである。