軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11-38 シンパシー

翌朝、隣の部屋で物音がしていたこともあり仁は5時頃に目覚めた。

耳を澄ますと、どうもハンナが起きてごそごそしているようだ。

「ハンナ、起きたのか?」

小声で声をかけると、

「あ、おにーちゃん? ……ここ、おにーちゃんのおしろ?」

そう言ってハンナが襖を開けた。

「目がさめたらよくしらないへやでびっくりしたけど、エルザおねーちゃんがよこにねてるし、よくわからなかったの」

「そうか。昨夜、宴会場でハンナが寝てしまったから、マーサさんに頼まれてそのまま寝かせておいたんだよ」

「そっか。……エルザおねーちゃんも?」

「ああ。ハンナ1人で寝るのも寂しいだろうしな」

ちょっと違う理由であるが、そう言うことにしておく仁であった。

「う、ん……」

ハンナと喋っていたら、エルザも目を覚ましたようだ。

「…………」

エルザは寝起きがあまり良くない。布団に起き上がってぼーっとしている。

「おねーちゃん、おはよう!」

そんなエルザに、ハンナが元気に声をかけた。それでエルザも仁の城に泊まったことを思い出したようだ。

「……おはよう」

「エルザ、ハンナ、顔を洗いに行こう。そしたら食堂で朝食だ」

そう声をかけて、仁は一旦襖を閉めた。着替えるためである。エルザも、城備え付けのお客様用寝間着だった。

着替えたエルザは、襖を開け、仁にお願いを言った。

「……お待たせ。でも、顔を洗ったら、食堂へ行く前に、もう一度屋上へ行ってみたい」

昨夜の事を思い出したエルザ。下まで降りてまた上がってくるよりも先に展望を楽しみたかったようだ。

「屋上じゃないんだけどな」

仁はそう言って、顔を洗った後、ハンナも誘い、3人で6階へと上った。

階段が急なので、もし踏み外してもすぐに押さえられるよう、礼子は黙って後ろから付いてくる。

「わあ! たかーい!」

声を上げたのはハンナ。

「あ、あれ、エルメ川?」

エルザも朝の景色を楽しんでいる。

「うわあ、いいながめ!」

東方面、山並みの向こうから朝日が昇ってきたところである。日の出の時刻はもう少し前であるが、山脈があるから日が当たる時間がこの位になるのだ。

しばらく展望を楽しんだあと、3人は階下へ降りた。

「朝風呂に行こうか」

仁が提案する。昨夜は宴会だったので風呂に入り損ねたのだ。

「ん」

「うん!」

ハンナもエルザも賛成したので、温泉へ向かう事にした。タオルや着替えは、マーサ邸が途中にあるので、そこから持ってくればいい。

「あ、ジンさん、おはようございます」

村へ続く道を歩き出すと、後ろから声が掛けられた。振り向けばリシアである。リシアももう起きたようで、きちんと服を着ていた。

「リシアさん、おはようございます」

「おはようございます」

「ちょーぜいかんのおねーちゃん、おはよー!」

もう徴税官じゃないんですけどね、と笑いながらリシアはハンナたちにおはようを返した。

「ジンさんって起きるの早いんですね、どちらへ?」

「ああ、朝風呂です。この城にも風呂はありますけど、やっぱり温泉がいいな、って」

仁がそう答えると、リシアが遠慮がちに尋ねてきた。

「ああ、いいですね! あの、私もご一緒しては駄目ですか?」

「いえ、いいですよ。なあ、ハンナ、エルザ?」

仁がそう言うと、2人とも、うん、とすぐに返事をした。

「ありがとうございます! それじゃあ、急いで着替えを取ってきますね!」

そう言ってリシアは城へ向かって駆け出していった。

「……ジン兄、あの人ってどんな知り合い?」

リシアの姿が見えなくなると、エルザが仁にそう聞いてきた。

「うん、去年、徴税官としてこの村に来て、税の麦を隣村まで運ぶ時一緒で」

「それだけ?」

今日のエルザはやけに鋭い。

「……途中でちょっと相談受けたり、ゴーレムに襲われたところを助けたりしたかな」

「それに剣を直して差し上げましたよね」

と、礼子が後ろから有り難くない補足を入れた。が、それでエルザは思い出したようだ。

「あ、アルバンで剣を届けた家の人」

「そうそう」

「おにーちゃんってあのひとにはさいしょからしんせつだったよね」

ハンナまで言わなくてもいいことを言い出したので仁は若干慌てた。が、エルザは、

「……ジン兄は女の子には優しい、よね?」

と、幾分かピントのずれたセリフ。仁もそれには何と答えたらいいかわからない。

ちょうどその時、リシアが戻ってきた。

「お待たせしました!」

これ幸いと、仁は村に向かって歩き出す。と、そこにもう1人の声が。

「おはようございます、リシアさん! お散歩ですか?」

パスコー・ラッシュであった。彼も早く起きて散歩に出ていたようである。

「おはようございます、パスコーさん。これからみんなで温泉に行くんですよ」

「え!? そい……ジン殿も一緒に?」

等というものだから、さすがに仁でも何を言っているのかは察しがついた。

「いえいえ、もちろん浴場は男女別ですから」

そう言うと、目に見えてパスコーの勢いが緩んだ。

「あ、自分もご一緒してよろしいでしょうか?」

「え、ええ、構いませんよ」

どうせ男湯に来るのだから、仁がそう返事をした。

「それでは先に行っていて下さい。着替えを取って来てから追いかけます」

そう言うが早いか、パスコーは城へと全速力で駆けていった。

仁たちはゆっくりと歩き、まずはマーサ邸に寄り、自分たちの着替えとタオルを取って来た。

マーサとミーネはもう起きていて、朝食はどうするか聞いてきたので、仁だけはリシアたちと城で食べる、と断った。

ハンナがちょっと寂しそうだったが仕方ない。

そして温泉へ。ちょうどパスコーもやって来たところだった。

仁とパスコーは男湯へ、ハンナ、エルザ、リシアは女湯へ。礼子は外で待機である。

「わーい、あったかーい!」

ハンナは浴槽の中で身体を伸ばしている。そしてエルザとリシアは並んでお湯に浸かっていた。

「エルザさんって色白ですね。それにお肌もきれいですね」

「……リシアさんもきれい」

バーバラやベーレとは違い、自分と同じくらいのボリュームであるリシアを見てエルザはほっとしていた。ビーナ以来である。

「えへへ、でも私なんて、顔や腕、こんなに焼けちゃって、真っ黒ですよ」

戦線に出ていたリシアは、露出していた部分の肌は日焼けして黒くなっていた。片やエルザは元々色白のところに、あまり外に出ないので変わらず白い。

「大丈夫。……温泉に浸かっていればきっと」

「だったらいいですね……」

何となくシンパシーを感じたのか、2人は違和感無く言葉を交わしていた。ハンナはマイペースでお湯に浸かっている。

「…………」

「………………」

「(気まずい……)」

「(何を話せばいいのか……)」

その一方で、仁とパスコーは会話もなく温泉に浸かっていたのであった。