軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11-36 大宴会

二堂城にリシアとパスコーを招いた仁は、まずは簡単に内部を案内する。

玄関で靴を脱いでもらった時は『なぜ?』という顔をされた。

「俺の国の家はみんなこうなんです。もし慣れないなら、スリッパをどうぞ」

仁がそう言うと、2人とも素直に従ってくれて、スリッパも必要としなかった。

「板の間が気持ちいいです」

折から晩春、少し汗ばむ気温の中、磨き抜かれた板の感触が足裏に心地よい。

仁は城の中を案内する。

一旦階段を登って3階の執務室、資料室から始め、2階の客室、応接室と下りながらの案内。4階から上はとりあえずカットした。

「お風呂とトイレは1階です。残念ながら湯脈が近くになかったので温泉ではないんですが、近いうちに引いてこようと思ってます」

「…………」

「………………」

2人とも絶句している。まあ軽いカルチャーショックだったのだろう。

「ジ、ジンさん、もしや、これって、ジンさんの故郷の……ニホン、でしたっけ、そこのものなんですか?」

いち早く現実に戻ってきたリシアがそう尋ねてきた。いつだったか、バーバラから聞いていたのである。

「ええ、そうですよ。完全に同じ、ではないんですけどね」

そう答えた仁の言葉に、リシアは感心した顔をする。

「わあ、そうしますとジンさんの故郷って、変わっているんですね! でも素敵です! 行ってみたいなあ……」

そしてそんな事まで言い出す。それを聞いた仁はただ笑みを浮かべることしかできなかった。

片やパスコーは苦虫を噛み潰したような顔であった。

そんなパスコーには気付いていない仁は窓の外を見た。青空の中に傾き始めた太陽が見える。

魔法工学師(マギクラフト・マイスター) の能力で、太陽の角度を算出し、時刻を知ることなど朝飯前だ。

「もうじき4時半ですね。今日は、この城の竣工祝いと、租借地になった祝いと、リシアさんたちの歓迎会を兼ねて、宴会を開こうと思ってます」

仁は2人にそう告げた。

「そうなんですか、楽しそうですね」

これが歓迎会、というだけだと、リシアも受けなかったかも知れないが、同時に他にも理由があると説明したことで、気軽に受けてもらえたようである。

「大使として、リシアさんに一言お願いすると思います」

仁がそう言うと、リシアも自分の立場は理解しているので、

「はい、わかりました」

そう言って頷いてくれたので仁も安心した。

パスコーはぶつぶつ呟きながら自分の世界に浸っているかのようだ。本当は城の中で見たものを消化しきれずに混乱しかけていただけなのだが。

仁はそのまま2人を案内し、最後に大広間へと向かった。

「大広間で準備が進められてます」

そう言った仁がその大広間に足を踏み入れると、

「あ、おにーちゃん!」

「ジン兄」

そこにはハンナとエルザも来ていて、ミーネ指導の下、座布団を敷くなどの仕度を手伝っていた。

ハンナは以前リースヒェン王女からもらったドレスで来るかと思ったのだが、汚すと不味いからと言う理由でちょっときれいな普段着である。

「ジン様、もう少しで準備完了します」

ベーレは厨房でペリド101と料理中。見れば、他にもペリドがいる。お客の人数が多いので応援に来てくれたようだ。

「ジン様、村の方たちがお見えになりました」

バロウが村人たちを案内して入って来た。

履き物はバトラーBが受け取って管理。100人を超える村人の履き物を全て記憶、管理できるのはさすがだ。

ゴーレムメイド5体ではちょっと手が不足していると老君は判断したのだろう、ペリド以外にも5色それぞれの91番から95番までの5体、つまり計25体も応援に来ていた。

「壮観だな……」

「………………」

パスコーはその光景を見てさらに混迷の度を深めたようであった。仁はそんなことには気付かず、ちょっと指示を出す。

「さてと、席順はどうしようか」

一番の上座はリシア、次がパスコー。その次の村長までは仁が指示したが、他は自由にさせた。

ハンナとエルザは仁の隣、礼子は仁の後ろに立つ。ミーネは給仕役をすると言って聞かなかった。

「おおー、このクッション、すっげえ座り心地いいぜ!」

「あんた、だからといって持って帰ったら駄目だよ!」

「これ、座布団って言うんだってよ?」

「俺んちの布団より高級そうだな……」

次々にやってくる村人たちは座布団に座ってみて、その手触りや座り心地に驚きの声を上げたりしていた。

そして、ちょうど午後5時。カイナ村の住民全員が揃ったところで、仁が立ち上がった。

「皆さん」

その一言で大広間はしんとなる。

「本日は『二堂城』に来て下さってありがとうございます。この二堂城が完成したこと、俺……私、ジン・ニドーがカイナ村を租借地として借り受けたこと、そして王都から、リシア・ファールハイト殿とパスコー・ラッシュ殿が親善大使とその護衛としてお見えになったこと。これらを祝して、宴会を開くことにしました。楽しんでいって下さい」

こういう事には不慣れな仁、突っ込もうと思えばいろいろと問題点はあるが、なんとか開会の辞を述べ終えた。

今更であるが、やはりリシアは駐在する大使ではなく、親善大使であった。駐在するなら仁に事前に許可が必要だから当然だろう。

それはさておき、ゴーレムメイドたちが全員に特製ペルシカジュースを配り終えたのを見た仁は、

「では、乾杯!」

と一言言って、自ら率先して水晶製のグラスを空けた。それを見た村人たちも手にしたジュースに口を付ける。

「おおー! なんだこりゃ! 美味い! 美味すぎる!」

「甘ーい! おいしーい!」

初めて飲んだ者はその甘さに驚き、

「やっぱり美味しいね!」

「さすがジンだよね!」

味わったことのある者はゆっくりと味を楽しんだ。

そしてリシアとパスコーはと言えば。

「お、おいしい! ジンさん、これってペルシカのジュースですよね?」

「……!! なんという美味さだ!」

その味に感激していた。

仁はそんなリシアに、

「リシアさん、一言お願いします」

と、大使としての挨拶をお願いした。

「そ、そうですね」

リシアは若干慌てながらも、先ほど頼まれていたことを思い出し、立ち上がる。

「カイナ村の皆さん」

仁よりも良く通る声に、集まった村民の視線がリシアに注がれる。

「クライン王国親善大使のリシア・ファールハイトです。昨年、徴税官としてこちらを訪れたのでご存じの方もいらっしゃるでしょう」

ロックをはじめとする数名の男達は大きく頷いた。

「ジンさんは、クライン王国に多大なる貢献をして下さり、その報酬として、王国は、カイナ村を租借地、つまり一時的な領地として貸し与える事になりました」

そこで言葉を切ると、一部の村人の間からおおー、とかすげー、とかいう声が漏れる。

「つまり、税についてはジンさんにお任せですし、村の中ではクライン王国の法律は基本的に通用しません。つまり先日なされた徴兵などはされないということです」

等、リシアは仁が説明しなかった、租借地としての利点を説明し、最後に、

「おめでとうございます。クライン王国と末永い友好を築けますように」

と仁に向かっての会釈で締めくくったのである。満場の拍手が起こった。

次は村長のギーベック。

「皆、あまり難しく考えることはない。ジン殿は今まで通りにしてくれと言ってくれた。だから私もこれからはまたジンと呼ぶし、皆もそう呼んでやってくれ」

そう切り出すと、さすがジンだぜ、などという声がそこかしこで上がった。

「普段は私が今まで通り、村長としての役を続ける。知っての通り、ジンはちょいちょいいなくなるからな」

そう言うと、あはは、とか、確かに、という笑い声がそこかしこで上がる。

「ジンの家はマーサの所だ。そこには代理としてゴーレムのバトラーAがいる。私は単に『エー』と呼んでいるが、ジンがいないときはそのエーに言えば、ジンに伝えてくれるらしい」

そう説明しても、皆当然という顔で聞いている。そうでないのはリシア、パスコー、バロウの3人だ。ベーレは既に馴染んでいるというのに、バロウは未だ慣れないらしい。

「まあ長くなってもアレなのでこのくらいにしておく。聞きたい事があったら直接聞きに来てくれ」

そう言ったギーベックは、

「ジン、これからもカイナ村をよろしくお願いする」

そう言って締めくくったのである。

それからは文字通り無礼講の宴会に突入した。

料理はまず冷たいシチュー。とろみを付けずに作って冷やしたもの。気温の高い時期には口当たりがよい。

次にハンバーグ。挽肉とパン粉、香辛料などで作ったもの。ペリドリーダー特製のソースが掛かっている。

それから野菜の天ぷら。卵と小麦粉で衣を付け、クルミもどきから採った良質の植物油で揚げて作られている。天つゆの代わりに蓬莱島特製の藻塩をかけて食べる。

また、トポポを使ったコロッケもあった。プレーンなものと、山鹿の挽肉を入れてあるもの。

ぶどうパンも並べられていた。この世界風に言うならパッサパンとなる(ぶどうもどきはビチス、それを干したものはパッサ)。

他にも大麦の粥や焼きたての普通のパン、燻製肉、生野菜のサラダ、ペルシカやシトランといったフルーツが用意されている。残念だが米は間に合わなかった。

「うおー! このてんぷらってやつはサクサクしてうめえ!」

「はんばあぐって初めて食べたけど何これ! 美味しすぎる!」

この日のために、ペリドたちが頑張って再現した仁のための味であるから、もちろん仁も大喜びで堪能していた。

「ジンさん、とっても美味しいです!」

リシアはハンバーグが気に入ったようである。

「う、うむ、このてんぷらというやつは初めて食べたが美味い、な」

パスコーはパスコーで天ぷらが気に入ったようだ。

この時だけは、給仕はゴーレムメイドたちに任せ、バロウとベーレ、それにミーネも同じ物を食べていた。

「ジン様っていったい……」

バロウはまだそんな事を呟いている、ベーレは素直に味わっているというのに。

「美味しいですね。今度教えてもらいましょう」

ミーネも初めて見る料理に舌鼓を打っていた。

「おにーちゃん、おいしー!」

満面に笑みを湛えながらハンバーグを頬張るハンナを見ていると仁も嬉しくなる。

「ジン兄、これ美味しい。……これにもトポポ使っていたんだよね?」

コロッケをおかわりしたエルザは、もうトポポを嫌ってはいなかった。

パッサパンも子供中心に受けているようだ。

頃合いを見て、仁は酒も出すように指示。 第5列(クインタ) が各地で買い付けてきたものである。

エゲレア王国産のビール、エリアス王国産のワイン。そしてクライン王国産のエール、等、等、等。

「おおー! 料理もいいけどやっぱり酒だな!」

「あんた、飲みすぎは駄目よ!」

二堂城での宴会は今や大盛況であった。ここらで場を盛り上げようと仁は礼子を呼ぶ。

「礼子、この前の踊りと歌、出来るか?」

仁は、ベルチェの 自動人形(オートマタ) 、ネオンが披露し、礼子が覚えた踊りのことだ。

「はい、お任せ下さい」

礼子はそう言って立ち上がり、大広間の中央に歩み出た。

「お? レーコちゃん?」

「何かするのかしら?」

村人たちが見守る中、礼子は徐に踊り始めた。同時に歌も口ずさむ。見ていた村人からは絶賛の嵐。

「おおー! かわええー!」

「いいぞー! レーコちゃーん!」

「おもちかえりしたーい!」

こちらでもその踊りは好評だった。

「……とてもあの子が 自動人形(オートマタ) だとは思えませんよ、ジンさん……」

見ていたリシアも呆れ気味にそう呟く。パスコーは目を見開いて絶句。エルザは素直に拍手し、ハンナは無邪気に礼子のところへ駆けて行った。

「レーコおねーちゃん、すてきー!」

そして見よう見まねで礼子と一緒になって踊り始めた。

ハンナの隠れた才能か、驚いたことになかなか様になっている。

「ハンナちゃん、いいぞー!」

それを見たカイナ村の女の子、ジェシーやパティも飛び入り参加。ハンナほどではないが、一緒になって可愛らしい踊りを披露した。

「きゃー! かわいいわー!」

「やっぱり女の子は可愛いな、今度の子供は女の子がいいな」

「なに言ってるんだい、あんた」

踊りが終わり、一同揃ってお辞儀をすると割れんばかりの満場の拍手。

礼子とハンナは手を繋いで戻ってきた。

「ご苦労さん、礼子。ハンナ、かわいかったぞ」

「えへへー」

こうして礼子や子供たちが芸を披露すると、少し酔いが回った村人も次々に立ち上がり始めた。

「よーし、おれも一発、踊りを披露するぜ!」

「あたしのうたをきけー」

「ここは俺の出番だな!」

「バカ、なぜ脱ぐ」

「きたねえもの見せるな!」

カイナ村の夜は賑やかに更けていった。