軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

01-20 追い立てる者

「よし、この辺がいいと思うぜ」

先頭を走っていたロックが、地形を見てそう判断した。

「ここなら、山鹿の群れをうまいこと方向転換させられそうだ」

疾駆する群れを直角に向きを変えさせるのは無理だ。なので、緩やかなカーブで向きを変えさせることになる。それに最適な地形が目の前にあった。

それは2メートルほどの段差。崖というほど切り立ってはおらず、かといって坂とも言えない。

うまくここへ誘導し、西へと進路を変えさせられれば、あとはそのまま突っ走って行くだろう。

「いいか、俺達4人が付かず離れず、1列になって鹿をうまく誘導しなきゃならねえ。気合い入れていけ!」

「おう!」

仁達4人は、遠くに見える砂煙目指してゴーレム馬を駆った。みるみる彼我の距離が縮まっていく。

「ようし、向きを変えろ! そしたらゆっくり走って奴らに追いつかせるんだ。鹿が追いついたら速さを合わせろ。そして少しずつ西へずらしていくぞ」

騎士になりたかったというだけあってロックの指示は的確である。

山鹿の群れが追いついてきた。4人はうまくゴーレム馬をあやつり、群れの速度に同調させる。

「ようし、いいぞ! その調子だ!」

アクセル1つで速度を変えられるゴーレム馬だからこそ出来る連携だ。本物の馬だったらここまでの連携にはかなりの訓練が必要だろう。

「ロックさん、さすがだな」

最後尾で『コマ』を操る仁は感心していた。モノ作りは誰にも引けを取るつもりはないが、こういう作戦は仁には出来そうもない。

「ここらでもう少し右へ押せ!」

ロックの指示に、ゴーレム馬は右へと進路をずらす。山鹿の群れも、それに連れて右へと進路をずらした。

「このままさっきの場所まで行くぜ!」

先ほどの段差へ斜め45度で突き進む一団。そして先頭の鹿が、段差を嫌って更に右へと進路を変えた。

「いいぞ! このまましばらく誘導しろ!」

段差に沿って群れを誘導しつつ、村から離していく。十分村から離れたところで、

「ようし、もういいだろう。引き返すぜ!」

山鹿を刺激しないよう、大きな弧を描いてカイナ村へと戻る4人。もう山鹿が村へ向かう心配は無い。

「ロックさん、さすがですね」

仁がロックに並びながらそう言うと、

「さすが兄貴だぜ! こんなに上手く行くとは思わなかったぜ!」

「まったくだ」

他のメンバーも口を揃えてロックを褒め称えた。

「よせやい、くすぐってえじゃねえか。それより、他の獣が村に入らねえと決まったわけじゃねえ。急いで戻るぞ!」

柄にもなく照れたらしく、ロックはゴーレム馬のアクセルを開け、速度を上げて村へと向かった。仁達もワンテンポ遅れてそれに続いた。

* * *

結局それ以上の異変は起こらず、再び見張りを立ててその日は暮れていった。

昼間の誘導でさすがに疲れていたので、仁はすぐに眠りに落ちる。だが、真夜中を回った頃、大きな地鳴りがして目を覚まさせられてしまった。

「な、何だ!?」

気になって外に出てみると、北の山向こうが赤く光っていた。見ているうちにその光は薄くなり、やがて消えてしまったが、仁にはそれが何だか見当が付いた。そして背中に冷たい汗が流れるのを感じる。

「なんだったの、あれ?」

「いったいあの光は?」

「まさか、山が崩れるのか?」

地鳴りで叩き起こされた人々も、同じように赤い光を見て不安そうに呟いている。

「魔力……爆発……」

魔法を使えない者には感じられないが、仁ははっきりと感じ取っていた。何 物(・) あるいは何 者(・) か、強大な魔力を持った何かが倒されたのだ。それも 魔力核(コア) を破壊されて。

魔力核(コア) とは、魔物などが持っている、魔力の根幹をなす物。全魔力を制御しているため、これを魔法で破壊されると魔力が暴走して爆発を起こす事がある。

「しかし、あれだけの規模ということはどれだけものすごい魔物だったんだ」

仁の見立てによれば、ドラゴンとまではいかずとも、それに近い強さの魔物が持つ魔力。そんな魔物を倒してしまう相手……。今の仁では多分太刀打ちできない。

「 水流の刃(ウォータージェット) だけで何とか出来るのか……?」

水流の刃(ウォータージェット) が通用するとしても、使えるのは仁1人、例えば相手が複数だった場合、村全体を守りきる事が出来るとは思えない。

「やばい……かな」

だが、仁には逃げるという選択肢は無い。第2の故郷となりつつあるこの村を捨てて逃げることはしたくなかった。

「シェルター……か」

仁が出した結論はシェルター。万が一の時、村人全員が逃げ込めるシェルターを作っておくことだ。

「すぐに取りかからないと」

心配させたくないため、誰にも言わずにシェルターを作り始める仁。場所は村はずれの岩場にする。ゴーレムのゴンとゲンを呼び、指示を出す。

「ゴン、ゲン、ここに大きな穴を掘れ。村人全員が入れるくらいの」

「リョウカイシマシタ」

すぐに掘り始める2体。手先をアダマンタイトにしておいたのが功を奏し、硬い岩盤を苦もなく掘り進んでいった。

「いいぞ、もっと深く掘れ」

少なくとも10メートル以上の深さが欲しかった。

掘り出した岩は圧縮硬化させて穴内部の補強に使う。これにより、周りには土石が積み上がることなく、効率よく掘削が出来た。

斜めに掘り進んだので時間がかかったが、その分使いやすい物になるだろう。

「よし、いいぞ。そろそろ居住空間を掘れ。天井の高さはそうだな、3メートルだ」

壁を補強しながら、仁は付きっきりで指示を出していく。その過酷な作業により、さしものゴーレムも傷み始めるが、作業を遅らせる事のないよう、すぐさま仁は修理する。

やがて夜が明けた。仁は一旦マーサの家に戻ることにする。ゴンとゲンはそのまま作業を続けさせて。

「おはよう」

「おはよう、おにーちゃ……?」

仁を見たハンナの目が丸くなった。

「どうしたの、おにーちゃん? ひどいかおしてるよ?」

言われた仁が水に顔を映してみると、目は真っ赤に充血し、目の下には 隈(くま) が出来ていた。これではハンナが驚くわけだ。

「あ、ああ、ちょっとゆうべ、眠れなくて……」

そこへマーサもやってきて、ハンナ同様、仁の顔を見てびっくりする。

「ジン! どうしたってんだい! 今あんたがどうにかなっちまったらこの村はどうなるんだい?」

「え……?」

ものすごい剣幕で怒鳴られた仁は驚いてマーサを見つめる。

「あんた、自分でわかってないのかい? 偵察だって、柵だって、昨日の山鹿を防いだのだって全部あんたがいなかったら出来なかったんだよ? あんたがいてくれるからこそ、みんな安心できてるってもんなんだ」

「俺が……ですか?」

「ああそうさ。あんただってもう立派な村の一員なんだからね。1人で何かしようとしているみたいだけど、水くさいじゃないか。苦労も喜びもみんなで分け合うんだよ、この村ではね」

マーサにそう言われた仁は思わず目頭が熱くなった。

「ありがとうございます。俺……」

マーサはそんな仁の肩を押して、

「どう見たって寝不足じゃないか。さ、さっさと寝てきな。少しでも寝りゃあ楽になるよ」

そう言われた仁は、もう一度、

「ありがとうございます」

そう礼を言って、自分のベッドに倒れこんだのである。

「おにーちゃん……」

心配そうなハンナにマーサは、

「しっ、今は寝かせておいてあげな。目が覚めたら温かい粥でも食べさせてあげようかね」

そう言ってハンナを連れて外へ出るマーサであった。

5時間、ぐっすりと寝た仁は、朝食兼昼食を食べると、大急ぎで掘削中のシェルターへ戻る。半分は照れ隠しである。

「大分出来てるな……」

仁が抜けたのでゴンとゲンは幾分動作が悪くなっていた。仁はすぐにその修理を行い、内部を点検する。予定の8割は完成したようだ。

「よし、これなら間に合いそうだ」

だが、仁のこの頑張りが無駄になる時が来る。

「ジン! こんなとこにいたのか! てーへんだ!」

ロックが息せき切って飛んできたのである。

「ロックさん? どうしたんですか?」

「そ、それがよお、北の山から……」

「北の山から?」

「……信じられないもんがやってくるんだよ……」

「え? まさか?」

異形のモンスターか。それとも巨大な魔獣か。

「とにかく、その目で見てみな……」

それでシェルターは一旦止め、ゴンとゲンを引き連れ、仁は村の北、防護柵の所まで行く。

「おう、ジンか。あれ、何に見える?」

そこにいた見張りのトムの指差す方向には。

「……え?」

水色のワンピースに白いエプロンドレスを着た少女。絹糸のような黒髪をなびかせている。

「あれは……」

少女は遙か彼方から仁を見つけ、一瞬その姿がぼやけたかと思うと、

「お父さま!」

次の瞬間には仁に抱きついていた。

そして。

「お父さまあ!?」

その場にいた全員の声が空に消えていった。